坂野直子の美術批評ダイアリー

美術ジャーナリスト坂野直子(ばんのなおこ)が展覧会、個展を実際に見て批評していきます。

色が奏でる音の反響

2010年05月31日 | アーティスト
風光の美しい季節。空間に色彩のドローイングを描くようなカラーフィールドを展開しているのが曽谷朝絵(そや・あさえ)さんです。この作品は、今年の1月に資生堂ギャラリー(銀座)で開催された曽谷朝絵「鳴る色」展に出品された1作です。
カッティングシートを使って、ダイナミックにギャラリー空間を構成し、重層的で複雑な視覚をつくりだしています。曽谷さんは8年前に、平面作家の登竜門となっているVOCA展で「Bathtub」でトップの賞を受賞。窓に落ちる雨のしずくや飛行機の窓に映る視覚の面白さなど、日常的な一瞬の視覚の不思議なリアリティを絵画に映し出してきました。そこから発展して「一つの色を置くとそれに連鎖して次の色が生まれる」(曽谷さんの言葉)ように色は音を発していると感じてきたと言います。音を視覚化した空間構成により、現実と非現実のきらめきへと誘います。

花の季節に「三岸節子展」

2010年05月30日 | 展覧会
薔薇の美しい季節になりました。犬の散歩を兼ねて住宅街の庭のガーデニングを楽しんでいます。「花」シリーズでも人気の高かった三岸節子展が、東京展を終えて、岡山県立美術館(6月8日~7月4日)、名古屋・松坂屋美術館で、没後10年記念として開催されています。
鬼才とうたわれた夫の三岸好太郎の夭逝したあと、93歳まで日本やヨーロッパで制作し続け、室内画や心象風景など力強い生命感を絵画にうたいあげました。心の旅路を綴った新たな三岸節子像が浮かび上がります。

愛すべきアニマルズ!

2010年05月30日 | アーティスト
どこか愛嬌のある動物たち。擬人化でもなく、その存在感と野性味は抜群。「三沢厚彦 アニマルズinTochigi」今年の初め栃木県立美術館で開催されていた展覧会に出品した作品です。くすのきの大木から掘り出された力強いノミ跡をそのまま残し、そこに鮮やかに彩色されます。
ライオン、キリン、シカ、ウサギ、ゾウ、クマなど従来の塑像の作り方とは異なり、記憶やイメージの断片から骨格のラインがきまっていきます。彫刻はほぼ実物大に制作されます。そのイメージの元になるのが、ドローイングです。水彩画は下絵というより自由でリアリティにあふれもう一つの独立した作品となっています。

日本のゴーギャン、田中一村の2作品新たに発見

2010年05月29日 | 展覧会
千葉市に20年以上も住み、その後日本画壇と決別して一人奄美大島に渡り、独自の日本画の世界を開花させた田中一村。無名の画家として1977年に69歳で亡くなりましたが、その後テレビなどで紹介され、亜熱帯植物をその精緻で清澄な色彩、独特の構図で描いた日本画はブームを起こしました。榎木孝明さん主演で「アダン」という田中一村の生涯を撮った映画も放映されました。掲載画像は「アダンの海辺」(個人像)です。
一村の専門の調査を進めるなかで、3月下旬に千葉市個人宅で作品2点が新たに発見されました。落款も確かなもので、荷車と農夫を小さく入れた千葉寺の風景と得意の軍鶏図の2作。掛け軸装の縦長の構図は一村作品の中でも珍しいと専門家の中でも高く評価されています。
この作品を含む特別展「田中一村 新たなる全貌」(8月21日~9月26日)が開催されます。同展はその後、鹿児島市立美術館、田中一村記念美術館に巡回。

ゴッホの「アイリス」

2010年05月28日 | 展覧会
没後120年ゴッホ展がこの秋、国立新美術館を皮切りに来春にかけて九州国立博物館と名古屋市美術館で開催されることはお話しました。画家として生きた期間は10年ほどですが、その間デッサン、油彩を含めて量的にも物凄いエネルギーで制作に向かいました。
ゴッホの一番幸せな時期とされる南仏アルル時代の「ひまわり」は生命の象徴として描かれていますが、「アイリス」の主題も晩年の重要なモチーフとなっています。サン・レミの療養所で描いたこの作品は、最後にピークを迎えるゴッホ芸術の力動感のある線とみずみずしい緑と青が鮮烈に響きます。ちょうど今の時季に描いた作品です。波打つ曲線のリズムと一つ一つの量感、発作を繰り返しながらも描くことへの喜びにあふれています。
ゴッホ展に出品の「アイリス」は、花瓶に活けられ、黄色をバックに寒色のみずみずしさと力強さが全面にあふれ、見ごたえのある作品となっています。

熊本県立美術館に「黒き猫」あり

2010年05月27日 | アート全般
宮崎県から熊本へと目を移すと、細川家代々の当主のコレクションを保有する永青文庫があり、中でもこの菱田春草「黒き猫」(1910年)は、教科書や切手などにも登場する名品として知られています。文学界では漱石の猫が明治時代の代表であれば、絵画では春草の猫が存在感を放っています。
菱田春草は日本美術院の創設に尽力し、横山大観らとともに輪郭線を描かない「朦朧体」の技法によって、日本画改革を推し進めました。柏の幹の上にうずくまり、こちらをじっと見つめる黒猫。春草は、第4回文展(旧日展)に当初の予定を変更し窮余の策としてこの作品を出品したといわれます。伝統日本画の装飾感と黒猫のしゃれた配置にモダンが漂う作品です。

広重「東海道五拾三次」一挙公開

2010年05月26日 | 展覧会
近・現代の日本画のコレクションを誇る山種美術館は、昨年10月に渋谷区・広尾に移転し新美術館として開館以来、当館の名品を紹介するシリーズ展を開催。第5弾として「浮世絵入門ー広重〈東海道五拾三次〉一挙公開」(5月29日~7月11日)が開催されます。歌麿、写楽ほか、これまでほとんど公開されることのなかった浮世絵コレクションから約85点が展示されます。
〈東海道五拾三次〉を一度にすべてを公開するのは、当館でも20年ぶり。テレビ東京「美の巨人」でも2週連続で特集されるとか。浮世絵コレクションを通して技法など浮世絵の「いろは」を紹介する展覧会ともなります。

宮崎がんばって!

2010年05月26日 | 展覧会
宮崎県で発生した口蹄疫の被害が予想外に拡大し、関係する農家の方々は安眠できない日々が続いていらしゃっると思います。宮崎県は牛や地鶏の産地として全国で有名で、マンゴーも人気が高いですよね。そんな中で〈宮崎がんばれ〉と全国から支援の輪が広がっているという記事を読み嬉しい気持ちになりました。都内の宮崎アンテナショップ「新宿みやざき館KONNE」に設置された募金箱には多くの義援金が寄せられ、全国各地からも支援の声が上がっています。
宮崎県立美術館では、特別展として「宮崎ー四つの風」展ー宮崎発のアートシーンを探る、という企画展が開催されています。(6月6日まで)
郷土出身の4作家の構成で、彫刻の保田井智之、写真の内倉真一郎、イラストレーターの上杉忠弘、絵画の松田俊哉と表現方法は異なりますが、それぞれ固有の現代性を打ち出されている作家の方々です。そして郷土出身ということで、異なる分野で第一線で活躍されているアーティストのセッションが実現したのはすばらしいことと思います。
・掲載画像は、展覧の内倉真一郎写真作品です。
同時開催中のコレクション展では、洋画家、久野和洋、小林祐児、松本英一郎他の作品も加わり見ごたえのあるものになっています。

オルセー美術館展の内覧会にて

2010年05月25日 | 展覧会
明日から約3か月、国立新美術館(六本木)で開催されるオルセー美術館展「ポスト印象派」のプレス内覧会に行ってきました。報道陣もいつもの人数より多く200人ほどでしょうか。カメラと映像がかなり入っていました。最初の部屋の一番目の作品が、ドガの「階段を上がる踊り子」で、もうそこからテンションが上がっていきます。オルセー美術館館長のギ・コジュヴァル氏が会場のゴッホ「星降る夜」の前で、ごあいさつ。壁の色もオルセーの雰囲気をつくりだすために、落ち着いた淡いブルーグリーンの統一されていました。きら星のごとく巨匠の作品とゴーギャンの影響の装飾的傾向の強いポン=タヴェン派と文学的内面的志向のナビ派らの作品をそろえたことで重厚感のある内容となりました。混雑しますのでやはり土日を避けた方がいい展覧会となりそうです。