坂野直子の美術批評ダイアリー

美術ジャーナリスト坂野直子(ばんのなおこ)が展覧会、個展を実際に見て批評していきます。

オランダ・ハーグ派展

2014年04月18日 | 展覧会
ハーグ派は、オランダの古都ハーグにあって、1870年頃から1900年に至る約30年間にわたり、オランダ絵画に新風だ数世代の芸術家を総称して呼ばれています。
近代のオランダと言えば、ゴッホ。ゴッホは彼らのことを〈大物〉と呼んで尊敬していました。そしてオランダは、17世紀レンブラントやフェルメールを生んだ地でもあります。自然主義とリアリズムの宝庫でもあります。
ハーグ派の画家たちは、近代化する社会風潮の中で、ルソーの「自然に帰れ」という提唱が示すように、農民の生活や、オランダの原風景でもある風車のある運河沿いの風景など、華やかさではなく質実な生活や風景を描いていきます。
初期の画家たちは、フランスのバルビゾン派にも影響を受けています。
じっくりと一作一作を鑑賞したい展覧会です。

◆オランダ・ハーグ派展/4月19日~6月29日/損保ジャパン東郷青児美術館(西新宿)

美しき貴婦人の肖像

2014年04月09日 | 展覧会
現在開催中のミラノの邸宅こコレクションによるポルディ・ペッツォーリ美術館展の内覧会に行ってきました。
ミラノの大聖堂やオペラハウスにほど近い邸宅のコレクションを公開している美術館は、ぜひ行ってみたい美術館の一つでもあり、今年楽しみな展覧会の一つでした。
この日は、館長のアンナリーザ・ザン二女史も出席し、「これほどの数々の作品が国外に出たのは初めてです。日本の方々と美意識を共有できれば嬉しい」と話されました。
甲冑などの武具や品格のあるヴェネツィアングラスなどの調度品も惹きつけられました。
やはり、その中でも初期ルネサンスを代表するポッライウォーロの傑作である〈貴婦人の肖像〉に見入ってしまいました。この時代流行した横顔の女性の肖像は、細い面相筆で描いたような線で輪郭線が描かれ、くっきりと浮かび上がっています。衣装や装飾品でかなり身分の高い婦人と言われるだけで、名前は判明していません。
真珠のペンダントから結婚のお祝いで描かれたようです。薄いベールで髪の毛が束ねられ、凛とした美しさをひきたてています。

◆ミラノ ポルディ・ペッツォーリ美術館 華麗なる貴族コレクション
 開催中~5月25日/Bunkamuraザ・ミュージアム (渋谷・東急本店横)

中村一美の挑戦

2014年04月08日 | 展覧会
現在、国立新美術館で開催されている中村一美展に行ってきました。中村一美さん(1956年~)の都内で初の大規模な個展となります。学生時代の作品から新作「聖」まで約150点の展覧です。
集大成と言うべきなのか、この先もより進化していく気配を感じました。
彼は、辰野登恵子さんらとともに、80年代のニューペインティングのリーダーとして、絵画の可能性を追求してきた一人です。
ご存じのように、戦後の前衛美術は、ニューヨークを舞台とした、ジャクソン・ポロック、マーク・ロスコ、バーネット・ニューマン、フランク・ステラへと抽象表現主義の
流れのなかで、絵画とはどのような形式で成り立つのか、絵画と物質性など、絵画の形式の領域が問われてきました。
中村さんは、アメリカの抽象表現主義の流れを検証しつつ、日本の土壌、自らの出自に、中国の古典絵画などによる絵画性の成り立ちを研究していきます。
掲載の作品は「存在の鳥」のシリーズの1作です。鳥にいて鳥にあらず。彼は、どのような鳥を追っかけているのでしょうか。
画面全体に筆のタッチがうねり、のたうつような力強い色彩の発色で、見る者を圧倒していきます。

◆中村一美展/開催中~5月19日/国立新美術館 企画展示室1E