坂野直子の美術批評ダイアリー

美術ジャーナリスト坂野直子(ばんのなおこ)が展覧会、個展を実際に見て批評していきます。

フェルメール「地理学者」がやってくる

2010年11月29日 | 展覧会
17世紀オランダ・フランドル絵画を代表するヨハネス・フェルメールは、日本でも年々人気が高まり生涯30数点の油彩画しか残さなかったこともあり、希少価値も含めてフェルメール作品に出会えるのは貴重な機会となっています。
窓辺で手紙を読む女性やマンドリンを弾く女性など、室内画が多数を占めますが、窓辺から差し込む光の効果を絶妙に引き出し、深い人間的な陰影を湛えた作品群で秀でています。17世紀オランダでは多様な風俗画が全盛期を迎え賑やかな享楽場面など卓抜した技術で展開されています。その中にあってフェルメール作品は対照的に男女を単身でとらえた作品で一瞬の表情にスポットをあて永遠性を秘めた静謐な時間の流れを紡ぎだします。
・掲載作品 ヨハネス・フェルメール「地理学者」シュテーデル美術館蔵
大航海時代を象徴する作品で、ひとつひとつのモチーフが意味を象徴する寓意的な要素も隠されていますので、お楽しみください。12月7日から日比谷公園特設会場で開催される「ダ・ヴィンチ ~モナ・リザ25の秘密」はルネサンスの万能の天才レオナルドの脳内体験というテーマで、高精細映像などで、数々の発明品を含めて立体的に再現展示する試みで、科学進歩の時代である17世紀を予言したレオナルドの偉業が現代の科学とリンクします。
本展は、ドイツのシュテーデル美術館より、バロックの時代の大家レンブラント、ルーベンス、風俗画を代表するフランス・ハルス他堂々の95展が展覧されます。顕微鏡の発明など科学的探究を進んだ時代に、絵画もまた精妙な写実表現の最高峰が生み出されました。静物画の起源でもある17世紀オランダ・フランドル絵画も出品されます。

◆「フェルメール「地理学者」とオランダ・フランドル絵画展」/11年3月3日~5月22日/
Bunkamuraザ・ミュージアム(渋谷)

アーティストファイル-現代の作家2011 多様な展開

2010年11月27日 | 展覧会
村上隆氏の巨大なアニメチックなバルーンがニューヨーク街を賑わすニュースなど、奈良美智氏束芋氏、町田久美氏ら世界的に注目される現代アーティストが世界のマーケットの常連となりつつあります。
現代アートの動向をみつめる展覧会として、内外の作家を紹介する「アーティストファイル」展は、国立新美術館の学芸員の方たちが推し出す内容の多様な展開が楽しめます。
2011年は、国内外8組のアーティストが選ばれました。ビョルン・メルフス(映像、インスタレーション)クリスチャン・ベイカー(絵画)、松江泰治(写真、映像)、中井川由季(陶芸)他の出品でゆったりとした空間に様々な表現方法で配置されます。(敬称略)
・掲載作品は、岩熊力也氏(1969年)の絵画のインスタレーションの部分作品です。「庭と庭のあいだ」1997年
大きな筆のタッチで自由な色彩の連鎖が感じられ、絵画がどのように空間に配置され、多様なイメージの森をつくりだすか、楽しみです。

◆「アーティストファイル2011ー現代の作家たち」/11年3月16日~6月6日/国立新美術館


パウル・クレー展の新しい視点

2010年11月26日 | 展覧会
 20世紀の抽象の扉を開いたカンディンスキーとともにドイツのバウハウスで教鞭をとったパウル・クレー(1879-1940)は、日本でも人気の高い画家の一人ですが、今までの展覧会とはひと味違ったクレー展が来春開催されます。
クレーは1911年本格的な画業をスタートした年から晩年にかけて制作した作品のリストを作り続けたと言います。約9600点もの作品からなるこのリストには、作品タイトルだけでなく、詳細な制作方法が記載されており、「どのようにして作られたか」という制作プロセスに特別に関心を持っていたことを知らせます。そうした記録を収めることで、作品の発展を模索し続けたと言えるでしょう。その制作過程の記録はアトリエ写真によって明らかにしています。
生地であるスイス・ベルンのパウル・クレー・センターが所蔵する作品を中心に約170点を展覧し、創造的制作過程にスポットをあてた新たな試みの展覧会に期待がかかります。
・掲載作品 パウル・クレー「E.附近の風景(バイエルン)にて」1921年 パウル・クレー・センター(ベルン)

◆「パウル・クレー展ーおわらないアトリエ」/11年3月12日~5月15日/京都国立近代美術館他

















プーシキン美術館展 フランス絵画300年展

2010年11月25日 | 展覧会
来年前半期に開催される展覧会の中で、「プーシキン美術館展 フランス絵画300年」展は、華やかなフランス絵画の歴史をたどる注目すべき展覧会の一つです。18世紀エカテリーナ2世の啓蒙主義から始まり、19世紀ロシアの二大財閥、シチューキンとモロゾフの蒐集により質の高い印象派の作品群が形作られました。
17世紀古典主義のプッサンから18世紀ロココ様式のブーシェ、新古典主義のアングルを経て、19世紀後半のモネ、セザンヌら印象主義、ゴーギャン、20世紀ピカソ、マチスへと辿っていきます。アカデミズムに対抗して勃興した印象主義がどのようにして起こったのか、印象主義を土台として生まれた抽象への過程を生きた美術史として展開します。
プーシキン美術館展はこれまで何度が開催されてきましたが、今回は、ルノワールの「ジャンヌ・サマリーの肖像」が初公開。バラ色を主調色とした明るいタッチの色彩の輝きが発揮されています。

◆プーシキン美術館展 フランス絵画300年 /4月2日~6月26日/横浜美術館他2会場

ササビーズNY モディリアー二裸婦に過去最高落札

2010年11月24日 | 展覧会
だいぶブログをお休みしてしまいました。できれば取材記事のホットな面を出したいと思っていますが、通常の原稿や身辺のことで追われてしまいました。よろしかっら今まで通りチェックをよろしくお願いします。
「月刊美術」(12月号)のオークションニュースからですが、世界的なオークション会社ニューヨーク・サザビーズの活況を知らせるニュースが飛び込んできました。
モディリアー二「安楽椅子の裸婦」1917年の作品が、これまで彼の作品中で最高額となる55億円超で落札。縦1メートル、横65センチの大作で、背景は茶褐色に顔を少し横に傾け、足を組んだポーズ。少しふっくらとしたモデリングで、この画家特有のデフォルメで裸婦のシャープな輪郭が際立っています。エコール・ド・パリの画家として、彫刻から出発しご存じの通り悲劇的な死をとげたモディリアー二ですが、この時期に描かれた裸婦像のシリーズは力強く、芸術への魂を感じ取れます。
11月初めのこの絵画のセールでは、マチス「安楽椅子の踊り子」という背景の白黒の格子に黄色の安楽椅子に腰かけた華やかな色彩空間の作品が約16億超で落札。他にモネやピカソなど巨匠たちの代表作も安定した高落札となり、ニューヨーク市場の活況を伝えました。