坂野直子の美術批評ダイアリー

美術ジャーナリスト坂野直子(ばんのなおこ)が展覧会、個展を実際に見て批評していきます。

諏訪の長い夜 夜のミュージアムツアー

2010年07月30日 | 展覧会
今日と明日の両日、(30日、31日)長野の諏訪湖畔で「諏訪の長い夜」夜のミュージアムツアーが開かれます。諏訪湖畔の点在する16の美術館、博物館が深夜まで開放し、コンサートや文化イベントが両日館ごとに企画されています。
・掲載作品 武井武雄の世界イルフの童画館から、絵本作家として活躍した画家の明るい透明感のある色彩が心を軽やかにします。この童画館では、ハワイアンコンサートが予定されています。
フランスのアール・ヌーヴォーのエミール・ガレの優れたコレクションとして有名な北澤美術館。東山魁夷ら日本画の大家の作品も楽しめます。
夜間の観覧ということで、ライトアップされた演出もあるようです。

●「諏訪の長い夜」夜のミュージアムツアー
 事務局 Tel0266-52-2155 16の施設が鑑賞できる共通パスポート券あり
 

遠藤利克展 原初の力と対峙する

2010年07月29日 | 展覧会
私たちの身の回りのものや風景においても、現代では人工的なものに身をまとっています。自然と言ってもそれは人の手の入った自然であり、古代的、原初的な自然の成り立ちに触れる機会は稀と言えるでしょう。青森の白神山地や屋久島の奥深く分け入ると、霊験あらたかな趣に触れることもできるかもしれません。
掲載作品 巨大な木の塊で炭化した黒々とした肌合いに重量感を感じさせます。遠藤利克さんが1970年代より一貫して追求する水、木、土、火といった原初的な素材を用いて、「円還」シリーズに代表される幾何学的な形の作品のひとつです。
遠藤利克さんの宇宙観、人間存在のエネルギーを現代に掘り起こす展覧会が開かれます。一貫した視点がどのように進化しているか楽しみです。

●「遠藤利克展ー欲動⇔空洞」
  アートフロントギャラリー/8月17日~9月5日/Tel 03-3476-4869

アンゼルム・キーファーの現代性

2010年07月28日 | アーティスト
平和への思いは誰もが共通する祈りです。戦後65年を数える中で、悲惨な歴史への思いを新たにすることは大事なことではないでしょうか。戦争体験を語る方が少なくなった現在、各メディアが何かの形で負の歴史を次世代に伝えてほしいと思います。
掲載作品のアンゼルム・キーファー(1945年~)。ドイツの新表現主義の画家で70年代からナチスの無謀なイギリス侵略計画をテーマとするなど、ドイツの負の歴史をあえて呼び覚まし、現代人にある種の覚醒を呼びかけました。
ニューヨークを舞台に繰り広げられたシュナーベルらニューペインティングの流れを汲みますが、キーファーはさらに絵画の表現とは何かを訴えているように思います。

By0-Ga展ー東京芸大デザイン科出身の作家達

2010年07月28日 | 展覧会
従来の学科のジャンルの垣根を超えて活躍する若い世代の21作家の作品、新作40余点の展覧会です。段ボールアートで有名な日比野克彦さんもデザイン科出身ですし、大学院のデザイン科の方で、日本画家の中島千波さんが教授をされているとか、学科の垣根はますます低くなっているようです。
この展覧会では、金丸悠児さんとか滝下和之さんとかもうすでに売れっ子作家の方も含まれています。たとえば、小林英且さんの「ホオズキ」という絵画では、銅版画の長谷川潔のようなモノトーンの緻密な陰影の空間構成に新しさを感じさせます。枠にはまらない表現の多様さを楽しめます。

モディリアーニの傑作彫刻がアート市場を沸かせる

2010年07月27日 | アート全般
「おさげ髪」などの肖像画で知られるアメデオ・モディリアーニ(1884~1920)。彫刻家を志していたモディリアーニは多くの彫像も手掛け、自伝的映画「モンパルナスの灯」でもアパートから気に入らない彫刻作品を川に投げ込んでいたシーンを思い浮かべます。
現存する彫刻は27点あり、その1点のこの「頭部」はライムストーンでつくられています。掲載作品は、女性像の頭部の傑作と知られる石彫のレプリカです。実際は鋭角的な鋭い彫が浮き彫りにされています。この作品が5月のニューヨークのクリスティーズのピカソ作品の100億落札のニュースに続いて、6月のクリスティーズ・パリで48億円で落札されるという好景気のニュースが続きました。リーマン・ショックから1年半、それを乗り越えたような世界美術市場の活況を伝えます。

ドガの「14歳の小さな踊り子」

2010年07月26日 | 展覧会
つんとすましたような表情で頭を少し上にあげ手を後ろに組んだ踊り子像。ルノワールのような少女像の可愛さとは違いますが、見ていて飽きない魅力があります。彫像に実際にバレリーナのチュチュを着せたドガ作品として有名ですが、やはり画家らしい視点が生きた珍しい作品です。
9月18日から開催される「ドガ展」の目玉の作品の1点です。高さは100センチ足らず、ブロンズ仕上げで、1881年第5回「印象派」展に出品されました。ドガが生前に発表した唯一の彫刻作品です。
しかし没後のアトリエからは150点ほどの粘土や蝋による彫刻の小品が発見され、そのうちの約半数が鋳造されました。それらは絶妙なバランスをとる一瞬の踊り子の動きをとらえたもので彫刻家としてのドガの卓越した技量を示すものでした。

●ドガ展
 横浜美術館/9月18日~12月31日

新世代への視点2010  社会と向き合う姿勢

2010年07月25日 | 展覧会
美術はどのように社会と向き合えるのでしょうか。1993年から始まった東京・銀座、京橋を中心とした11画廊の共同主催による「新世代への視点2010」展は、常に根底にある個の表現の意義を問いかけます。
40歳以下の新鋭作家の個展を同時期に各会場で開催することで、ギャラリストが一押しする作家の作品を点と点で結ぶことにより、現在形の彼らの率直な造形が多義的な今日の状況を浮かびあがらせます。11作家の表現へのアプローチは様々です。平面、立体、インスタレーションと素材も自己の表現方法の中で進化していきます。
・掲載作品「気味の悪いこんにちはが来ます」(羽毛田信一郎)〈ギャラリイK〉は、幅5メートル以上もあり、墨、岩絵の具、胡粉など従来の日本画の素材と顔料を使いながら、まったく新しいコンテンツへと展開させています。
26日から2週間ほど開催される真夏の現代アートギャラリー巡り。スリリングな異空間へ迷い込むのもいいかもしれません。

●「新世代への視点2010」
 7月26日~8月7日/事務局 藍画廊Tel03-3567-8777
 

旭川市彫刻美術館の貴重な建築空間

2010年07月25日 | アート全般
旭川市彫刻美術館は、彫刻家の登竜門である中原悌二郎賞の受賞作家の展覧会や中原作品を含めて近現代の重要な彫刻家のコレクションで知られています。
私は、最近ではこのブログでも紹介しています保井智貴さんの受賞記念展のカタログを見て、現代彫刻と明治の洋風の建物の室内の建築構造との融合がとても気に入って、行ってみたい美術館の一つなのです。窓からの光の陰影がとてもいいのです。(行ったことがある方はぜひその印象をお知らせください)
・掲載作品は、羽根のついた椅子のシリーズで知られる深井隆さんの「逃れゆく思念」。
古代的神話へと時空を旅するような詩想へと誘います。
この美術館は旧旭川偕行社で、旧陸軍の将校たちの社交場として1902年(明治35年)に建設され、そのモダン建築は重要文化財指定を受け、美術館として公開されています。
旭川動物園に行かれたときにぜひ立ち寄ってみてください。

おぶせミュージアム中島千波館の企画展

2010年07月24日 | 展覧会
桜の千波、花の千波といわれ日本画界の中でも線の美しさ、色彩派として知られている中島千波さんの作品が常設されているおぶせミュージアム中島千波館。
数々の大作がここで見られますが、私はヨーロッパの民芸品などを描いた静物画の小品も好きで、中島さんの明快な色彩の響きが楽しめます。
避暑地である軽井沢からも車で山間を抜け風景を楽しみながら、小布施に行かれるのもいいですし、栗の産地として有名なお菓子や、晩年北斎が岩松院に招かれて描いた天井画はとくに有名で、日本画の歴史にゆかりのある地で、中島さんの出身地というのも奇遇です。現代の大家の作品も観光のスポットになっています。
この美術館は中島さんだけでなく、一年を通して企画展も充実しています。現在開催中の郷土作家シリーズの「荻原克哉」展も、掲載作品の二人の婦人像のように透明感のある画風で落ち着いた色調にゆったりとした時間の流れを感じさせます。荻原さんは(1959~)卵を媒介とする古典技法のテンペラ画で、イタリアのフレスコ画に通じるものがあります。
秋には、中島千波さんの代表作の企画展が準備中で楽しみです。

●おぶせミュージアム中島千波館(長野市小布施町)
 Tel026-247-6111
次回の企画展は、安西大展(7月30日~10月5日)

浅草に布文化を伝える「アミューズ ミュージアム」

2010年07月23日 | 展覧会
いつも賑わいを見せる浅草寺の仲見世。五重の塔を右に見て、二天門のすぐ傍に、昨年11月にオープンしたアミューズミュージアム。千代紙の店や和小物が並ぶ通りから抜けてミュージアムに入ると、東北の暮らしの中に息づく文化の香りが。文化というよりもっと土俗的な素朴な工芸品が並ぶショップがあり、二階がミュージアムの入り口。
青森の津軽地方は昔「BORO 」と言われる野良着やはたらき着があり、貧しい生活の中で貴重であった 麻布の藍きものが代々受け継がれています。そういう私も取材で訪れてみて驚くばかり。厳しい風土に耐えるために中綿をつめて布切れを継ぎ足してつくった「津軽・南部さしこ着物」。その一針一針に手の温もりが感じられ、小さい布切れを大切にしいろんな思いが託されていたことがその風合いから感じられます。ボロが美しいはたらき着であった昔日、個々のデザインも工夫されて日々の仕事に精を出されたのでしょう。
そんな文化を伝えるアミューズミュージアム。心休まる空間です。

●アミューズ ミュージアム(浅草)/TEL03-5806-1181
「藍きもの~美しいはたらき着~展」開催中(手で触れて見れる美術館です)