直木賞作家の京極夏彦さんと講談社は、「iPad(アイパッド)」向けに、新作ミステリーの電子版を発売するとは発表しました。紙の書籍も同時期に発売されますが、当然ながら電子書籍の方が割安になっています。キャスターの鳥越俊太郎さんは、行き過ぎると活字文化に影響を与えるという危惧を抱いていらっしゃいましたが、出版界に身を置くものにとってこの動向は気になるところです。これから電子書籍はある程度の領域を作っていくと思いますので、現代人の活字離れを少しでもくいとめる役目をしてほしいと思います。本と言えば先頃の「アーティスト・ファイル」(国立新美術館)に出品されていた福田尚代さんの本のカテゴリーをさまざまに操ったインスタレーションを思い起こします。(ちょっと無理やりですが)詩的な回文も独特の手法ですし、物語が綴られた本のページに刺繍をしていくとだんだんと文字は読めなくなりますが、その言の葉のひとつひとつが心に残っていくような印象深い内容でした。
この秋の美術展の最大の目玉と言えば、ゴッホ展でしょう。国立新美術館・六本木(10月1日~12月20日)を皮切りに、他2会場で開催されます。生誕120年の記念イベントということで、オランダのファン・ゴッホ美術館とクレラー=ミュラー美術館の協力で約120点の作品が集まります。副題に、〈こうして私はゴッホになった〉とあるように、この展覧会では初期の作品群を丁寧に同時代の作家との影響を見ながらたどり、ゴッホスタイルの確立の軌跡を追っています。広報用のメイン画像となっている「灰色のフェルト帽の自画像」は、1887年制作でゴッホの短い絶頂期であるアルルに赴く前年で、都会での精神的疲れを感じていたころですが、その眼の核心を貫いたような鋭さと大きく並列的なタッチで青を基調に描かれた作品は、ゴッホ自画像の中でも代表作にあげられます。ゴッホは魂の画家として日本でも常に人気が高く、印象派展などでもおなじみで、身近な画家として当り前のように見てしまいますが、あの原色の対比による平板な構成による強烈な個性は、それまでにはないまったく新しい絵画世界をつくりだしています。私もこの機会に新鮮な目でとらえ作品をみつめ直すことを心掛けたいと思います。
・福岡展(九州国立博物館、11年1月1日~2月13日)・名古屋展(名古屋市美術館、2月22日~4月10日)
・福岡展(九州国立博物館、11年1月1日~2月13日)・名古屋展(名古屋市美術館、2月22日~4月10日)