坂野直子の美術批評ダイアリー

美術ジャーナリスト坂野直子(ばんのなおこ)が展覧会、個展を実際に見て批評していきます。

「XYZ」-メグミオギタギャラリーグループショウー

2012年10月25日 | 展覧会
2007年に現座5丁目にオープンしたメグミオギタギャラリーは、気になるギャラリーの一つで、ギャラリストの荻田徳稔さんのアートへの情熱が伝わるような現代の一断面を常に見せてくれます。
2010年には銀座2丁目に新しいスペースをオープンさせ、国内外を問わず多様なアーティストの企画展を行ってきました。
 その間、美術を取り巻く状況もリーマンショックや、東日本大震災によってマーケットのあり方や作品のとらえ方も大きく変わってきました。そんな問題定義を、個々の作品で伝えようと、ディレクターにアーティストの中村ケンゴを迎えて、ギャラリーアーティストのグループ展が開かれます。
大谷寛子(敬称略、以下同)、上條花梨、小泉悟、土屋仁応、八木貴史、保井智貴ら22組が集います。

◆XYZ/12月18日~13年1月19日/メグミオギタギャラリー(銀座2丁目)

☆三沢厚彦ANIMALS 2012
独特の愛嬌のある動物作品で知られる三沢厚彦さん(1961年~)の新作個展が開催されます。犬や猫、ウサギなどのなじみ深い動物はもちろん、大きな雪ヒョウなども展示されます。
・11月13日~12月15日/西村画廊(日本橋) 

上村松園の情念

2012年10月22日 | 展覧会
今、担当している美術団体の機関誌の特集に日本画家の上村松園を取り上げることになり、画家の随筆集である『青眉抄』を読んでいるのですが、その文体がまた美しく、画家としての情念が伝わってきます。
京都の下京区に生まれ、明治から、大正、昭和へと活躍した松園は、女性でありながら画家として立つことが難しかった時代に、母の支えと励ましによって、ひたすら画業に打ち込んでいきます。
男性社会にあって、そこで生き抜く苦労を全身で受けながら、精神は芸術への高邁な理想が掲げられその精進のすさまじさは圧倒されます。
掲載作品「おしどりまげ」1935年。松園は日本髪の結い方も熱心に研究し、自らも娘さんたちの髪を工夫して新鮮なアレンジで結いあげたりしていました。
小さいときから、人物画ばかり描いて、女性の立ち振る舞いの美しいポーズや内面の輝きを流麗な線とみずみずしい色彩で描いていきます。
自らの人生も紆余曲折ありました。父の顔を見ないで生まれ、28歳のとき長男を出産しましたが、未婚の母の道を選びました。40代のときに年下の男性に失恋し、しばらくスランプに陥るという人間的な側面も魅力的です。
そのなかで、孤高とした清らかな女性美を描き続けた画家魂は天からの授かりものでしょうか。

◆松伯美術館(奈良市)TEL 0742-41-6666

ホキ美術館 写実の可能性

2012年10月20日 | 展覧会
写実の専門美術館として開館して2周年となるホキ美術館。華麗なロングドレスの気品ある女性像で知られる中山忠彦さん、現代の女性像の繊細な色彩表現と日本的余白の美を感じさせる森本草介さん、対象の実在に迫る野田弘志さんら重鎮を筆頭に、中堅、若手と第一線で活躍する画家の新作が企画展の度に並ぶのが最大の魅力でしょう。
リアリズム派に特化した展示は国内では初めてで、それだけ一言で写実絵画といっても奥の深い幅のある表現が楽しめます。
野田弘志さん(1936年~)は、北海道の壮瞥町のアトリエで日々大作に挑まれています。
掲載作品は野田さんの「アナスタシア」(2008年)。この女性をモデルにした連作、ヌードなどもあります。美術史を学ぶロシア人の学生だったそうですが、その後、崇高なるものとして人間像を描くことに集中されています。アトリエに来られてモデルになった方は、学者や音楽家などさまざまで肖像画ではなく人間そのものを描く、生きざまがそこに現出するような迫力を感じさせます。
現在は、詩人の谷川俊太郎さん、同館館長の保木将夫さんの全身像に取り組んでいます。
もう20年くらい前ですが、「美術の窓」の技法講座シリーズでお目にかかったことがあり、そのときは静物画の小品を描いて頂いたのですが、現在もその筆勢は衰えることなく、人間存在の深淵に迫る姿勢は本当に見事だと思います。

◆写実の可能性と大いなる挑戦ー新規収蔵展/11月21日~13年5月19日/ホキ美術館(千葉市緑区)

☆東日本大震災と原発の影響で中止となった「プーシキン美術館展」が来年、4月から年内にかけて名古屋、横浜、神戸を巡回することが決定! 今から楽しみです。

メトロポリタン美術館③

2012年10月15日 | 展覧会
私は野球好き、というかテレビ観戦が好きで、西武ファンです。今、CSステージの最終試合でソフトバンクに1点負けてこれからどうなるか、というところです。
この作品は、「ライオンの頭の兜」イタリア、1460-1480年頃。ルネサンスイタリアの古代風の自然主義に基づくモチーフの甲冑としてつくられました。ギリシャ神話に基づく東洋にはない発想で、これを被った者は、口の部分から外を見たといわれています。



フィンセント・ファン・ゴッホ「糸杉」1889年。同年にサン=レミの療養所に自主的に入院した直後に描かれた作品で、その後の集中的な作品によりゴッホスタイルの完成期に到達していきます。うねるような力動感のある筆線が画面からみなぎり画面にムーヴマンを掘り起こしています。オダリスクのような美しい糸杉に魅せられ自己を燃焼させていったのです。



「タコのあぶみ壺」ミュケナイ 紀元前1200年頃。タコが水の中で浮遊しているような躍動感と美しいすっきりとしたデザイン性がありました。



ベルナール・パリッシー派 フランス 1575年ー1600年。楕円形の大皿の中心にくねくねと進むヘビを中心としていろんな水の生物が周囲にデコラティヴに盛り込まれています。これは日本の美学にはないもので、キッチュな面白さがありました。



クロード・モネ「マヌポルト(エトルタ)」1883年。モネはジヴェルニーに居を構えてのちも、ノルマンディーの海岸の旅を続け1日のうちで変化する光の印象をこまやかなタッチで描き込んでいきました。エトルタの連作の中でもスケール感のある視点でモネの真骨頂が表わされていました。

◆メトロポリタン美術館展/開催中~1月4日/東京都美術館

メトロポリタン美術館展 ②

2012年10月13日 | 展覧会
自然をテーマに4000年を130点ほどの作品で横断する美の旅は、文化人類的な視点が盛り込まれ、18世紀中頃の春をイメージした少女が描かれた刺繍画などもあり、今から思うとステッチなどは稚拙さがあるのですが、牧歌的な和みを感じました。
ポール・ゴーガン「水浴するタヒチの女たち」1892年。ゴーガンが自己の絵画スタイルをさらに深めた地、タヒチは、緑豊かな生の楽園と映り、色彩豊かな装飾感を盛り込んでいきます。ゴーガンの平たんな色面など統合主義の一端が見られる作品です。



ジャン=フランソワ・ミレー「麦穂の山・秋」1874年。理論的なことを抜きにして、三つの麦穂の山を構図の軸として、広大な大地に惹きつけられる繊細な色合いが美しい作品です。



「猫の小像」エジプト プトレマイオス朝時代、紀元前332-前30年頃。
この凛として優美な猫の像は、もともとは神格化された猫のミイラを入れる容器だったそうです。飼い猫の習慣もエジプト中王国時代から始まります。

◆メトロポリタン美術館展/開催中~13年1月4日/東京都美術館

☆来年もバロックが輝きます。
 17世紀アントワープで活躍したルーベンスの展覧会が大規模に開催!
 13年3月19日~4月21日/Bunkamuraザ・ミュージアム(渋谷)

メトロポリタン美術館展 ①

2012年10月11日 | 展覧会
今日も半そでシャツの人も多くてこの時期にしては暑かったですが、カラッとして秋日和のアート散策にはいい日和になってきました。
現在開催中のメトロポリタン美術館展は、ご存じメットの膨大な作品群から自然をテーマとして、4000年の旅へといざなってくれます。自然と美術とは切っても切れない関係で、時代や国、地域を超えた多くの芸術家が、自然からインスピレーションを得て、創作への糧としました。
そういう意味では、漠然としたテーマではありますが、ここでは博物誌的な視点で、自然や動植物を西洋の美の歴史はどのように具体的にとらえてきたかをみていきます。
ですから、一挙に時空を横断していくコーナーが設けられている点が新鮮でした。
プレスの関係者からの、「いきなり巨匠の作品が出てくるんだね」という声を聞いて、歴史化された作品がいかに現代に訴えかけてくるかあらためて感じました。
第1セクションでは、理想化された自然と題して、西洋文化の自然のヴィジョンで幕開けです。
トマス・コール「キャッツキル山地の眺めー初秋」1836-1837年。平穏な田園風景の理想化された美しい作品でした。



レンブラント・ファン・レイン「フローラ」1654年頃。春、花、愛の女神であるフローラをピンク色の花がついた帽子をかぶりヴェネツィア風の衣装をまとったスタイルで描きました。亡き妻サスキアへの思いを重ね、自身の人生の春の時を思いながら。



画像では、一体何?と思われるかと思いますが、カバの頭部です。アート女子が「可愛いー」と人気の作品でした。
エジプト、新王国時代 前1390-前1352年頃。カバというと現在では愛嬌のあるある動物で動物園で見るので危害を及ぼしそうにありませんが、古代人にとっては、予測がつかない動物たちとは曖昧な関係をもっていたようです。

◆メトロポリタン美術館展/開催中~13年1月4日/東京都美術館

リヒテンシュタイン 豪華華麗な魅力

2012年10月03日 | 展覧会
リヒテンシュタイン侯爵家コレクションを日本で初めて公開する本展は、ルーベンスが代表するバロックの魅力を伝えるとともに17世紀初頭から始まる伯爵家の秘宝と呼ばれる質の高さに目を見張りました。



バロックの部屋の始まりは、マルカントニオ・フランチャスキーニの「アポロンとディアナの誕生」で、狩猟の女神ディアナの連作で、誕生の場面ですが、もう一作は迫力ある大蛇を倒す狩猟の場面で、こちらの方がバロック風と言えるかもしれません。バロックはそれまでの正統的な比率やバランスを崩し画面に躍動感を呼び起こす画風ですが、この誕生の場面も伝統的テーマでありながら自由な構図を感じられます。



ウィーン郊外ロッサウの伯爵家の「夏の離宮」は、華麗なバロック様式を特徴とし、室内にはいにしえの宮廷さながらの装飾がほどこされていますが、本展では、その室内装飾と展示様式に基づいた「バロック・サロン」が設けられている点が特徴的です。
まばゆい金の装飾が施された家具類が会場を彩ります。



アントニオ・ベルッチの天井画展示も日本初です。3Dの迫力です。



18世紀の書き物机です。精緻な装飾が施されたお明日奥の引き出しは、手紙を保管するためで男性用として使われました。



バロック終盤の静物画。静物画も3D的な迫力があります。



この作品は、北方ルネサンスの巨匠、ルーカス・クラナッハの「聖エウスタキウス」。勇猛さで知られた古代ローマの将軍が改宗の瞬間を描きました。細部の質感が見事に描き分けられていました。



アンソニー・ヴァン・ダイク「マリア・デ・タシスの肖像」です。ルーベンスの弟子であった彼は、繊細華麗なテクニックで上流階級の人々の間で肖像画が人気を博しました。



ルーベンスが愛娘を描いた「クララ・エレーナ・ルーベンスの肖像」。筋肉むきむきのマッチョなルーベンスの魅力とはまた異なった柔らかく優しい魅力がありました。



17世紀初めのクリストファーノ・アッローリ「ホロフェルネスの首を持つユディット」。妖艶さとグロテスクを併せ持っていました。色調の対比が美しいです。



ルーベンスの大作「デキウス・ムス」を通り抜けると、最後の部屋では、美術史の大動脈から少しはずれた「ビーダーマイヤー」の様式の作品が並びました。19世紀前半中欧で展開されたこの様式は、滑らかな絵肌を特徴とする新古典主義の描法を受け継ぎながら身近な人物や風景を繊細優美な画風で描きだしました。前のルーベンスの少女の作品と比べても筆触が細かく時代の逆をいっているのが分かります。
バロック美術の大胆豪放さと華麗さは、現代的な劇画タッチのスリリングな味わいがあります。本展では、ルネサンスの名画ギャラリーの部屋も見どころです。

◆リヒテンシュタイン 華麗なる侯爵家の秘宝/開催中~12月23日/国立新美術館












飛騨の円空 千光寺とその周辺の足跡

2012年10月01日 | 展覧会
江戸の前期に活躍した円空の仏像は木のぬくもりをそのまま伝え、懐かしいゆったりとした日本の風土を感じさせます。美濃に生まれ全国を行脚し生涯で12万体の仏像を彫ったといわれる円空。円空仏は、現存する約五千体のうち千五百体以上が岐阜県にありますが、なかでも高山の千光寺には円空の仏像が多数伝わっていて、「円空仏の寺」として知られています。
本展では、千光寺所蔵の六十一体を中心に、飛騨に伝わる円空仏の数々を紹介します。円空はまた、山岳修行を通じて清浄な心身を保ち、飛騨の木にあらたな生命を吹き込みました。円空の人物像、飛騨固有の風土と文化、森と木と日本人の関係に迫っていきます。

◆飛騨の円空ー千光寺とその周辺の足跡/13年1月12日~4月7日/東京国立博物館