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坂野直子の美術批評ダイアリー

美術ジャーナリスト坂野直子(ばんのなおこ)が展覧会、個展を実際に見て批評していきます。

悲しみと笑いを通して永続する魂への問いかけ

2011年08月19日 | アーティスト
山内隆さん(1968年~)のこの掲載作品では、マントを着けていませんが、「山頂にて」の最近のシリーズでは、大きく背後にマントを広げています。静止的な左右対称的なポーズで、何頭身?と思わせるぽっちゃり型の木彫です。
どこかおおらかでゆったりとした空気感が漂っています。でも目からは涙があふれています。
〈僕は笑って過ごすことが好きです。でも作品は泣いている。笑いの影には涙があります。
悲しみと笑いとを通して永続する魂が何であるのかを問うているのです〉と作家の言葉があります。
木彫には彩色され、アニメチックな雰囲気もまとっています。
山内隆さんは、東京芸大の油画専攻で、この作品シリーズのスケッチ風な絵画バージョンも発表しています。絵画的な面白さも盛り込んだ彫刻と言えるでしょう。


奥村晃史 細密描写とナイーフアートの混在

2011年08月03日 | アーティスト
ギリシャ神話の「アポロとダフネ」は、追いかけてくるアポロの手から逃れようと月桂樹に変身するダフネの姿をとらえたバロック芸術の最高峰とされるベルニーニの「アポロとダフネ」の彫刻が有名で、絵画的で映像的な動きの妙は、永遠の名作です。
現代はまたネオバロックの時代でもあります。異種混合の合体や化身はアニメなどでもおなじみですが、現代の絵画においてもその化身の姿は新しい視覚のビジョンになりつつあります。
奥村晃史さん(1972年~)の作品は、兎や羊、子豚など身近な動物をモチーフとして、「苺の皮を被った羊」など、今的な植物の着ぐるみという感じのシチュエーションの特徴的な表現で目を引きます。
17世紀オランダ絵画を思わせる背景をダーク調に抑え、精密な写実表現を基本に置きながら、優しさと怖さを秘めたナイーフ派(素朴派)を混在させています。
岐阜に在住されていて、モチーフとなる動物たちは身近な存在であり、表情は穏やかで癒されます。



祐成政徳「under my table」

2011年07月05日 | アーティスト
展示空間から飛び出すような巨大な物体が眼前に唐突に出現します。ギャラリー現(銀座1丁目)で開催された(7月2日まで)個展でのタイトル通り、その大きさを逆手に取った逆転の発想で意表をつきます。
高さ2.32㍍、横幅3.09㍍。写真では、収めきれないほどですが、ピカピカに磨かれたポップなカラーが、その物体の定義を曖昧にさせます。祐成さん(1960年~)は、これまで、〈建築と彫刻のはざまにある構造体〉をさまざまな手法で設置してきました。
2008年の国立新美術館のArtist File展では、エントランスの上空にオレンジ色のナイロン製の雲のような物体を空中に吊して観客を驚かせました。
この作品の脚の部分は中ほどがわずかに膨らんでいて、ギリシャ建築の様式を思わせます。設置は二人がかりで微妙なバランスを保っています。

保井智貴「Tranquil Reflection]

2011年07月02日 | アーティスト
保井智貴さん(1974年~)の昨年に続く個展が、現座のMEGUMI OGITA GALLERY(2日まで)開催されました。
ベルギーで生まれた保井さんは幼いころから他民族に接し、人間の姿や行動とその背景にある文化の関係性を意識するようになりました。国内では中原悌二郎賞を受賞するなど気鋭のアーティストとして注目されてきました。
彼が生み出す人物像の独特の雰囲気が一つの特徴となっています。遠いまなざしを向けた、どこか仏像を感じさせる正面性の立像。それは伝統的な手法とつながりがあります。興福寺の阿修羅像などに代表される乾漆という、石膏型の内側に何層にも漆と麻布を張り合わせて本体を作りあげていく工程を踏むことで得られる光沢感や質感を大事にしています。そして今回の装飾性は、前回が琳派的な和の美学を融合させていたのに対し、色彩のアラベスク的な構成と細やかな袖などのレース的な工芸性がより緻密に高まっていました。
材質的には、半気石、螺鈿、色漆、蒔絵、岩絵の具などが細かに繊細に組み合わされています。今回は3体の人物像が空間に配置され、この空間だけは銀座の雑踏とはかけ離れた静かで遠い記憶に誘ってくれるような気配を感じました。

日本の現在形ー森 洋史

2011年06月17日 | アーティスト
少女が林のなかに迷い込んだように佇み、白いワンピースの背中を見せています。俯瞰した構図の人物のいる寸景は、先に物語があるような断片であることも潜ませます。ナイーヴな色彩性も日本画ならではです。この作品は、「お気に入りの場所」2010年のシリーズの一作です。
森洋史さん(1977年~)は、シェル美術賞2010本江邦夫審査員奨励賞を受賞した注目画家です。現在、日本橋高島屋で開催中の「ZIPANGジパング展」(6月20日まで)で出品している会田誠(敬称略以下同)、鴻池朋子、束芋、天明屋尚、町田久美、三瀬夏之介、山口晃など新しい絵画の地平を世界に発信しているアーティストに続く世代と言えるでしょう。
日本画の材料を駆使している作家は、日本画とは何か? 日本固有の空間意識や物語性をそれぞれが模索しています。伝統的な余白や間の表現のあり方や俯瞰的にとらえることで時間的経過を示す効果など、独自性を個々の表現に生かし、現代を見据え社会との接点をとる姿勢に共感をもてます。森さんは、ソウルで開催されるアジアン・スチューデント・アンド・ヤング・アーティスト・フェスティバル(7月27日~)にも出品予定です。

新しい日本画の潮流 川又聡

2011年05月31日 | アーティスト
二曲屏風の大作の前の作者ですが、野生の狼の群れや象が墨彩の大きな筆のストロークの筆力で圧倒的な迫力と生命の尊厳の姿を表わしています。また現代的な映像的感覚も感じさせます。川又聡さん(1978年~)は、東京芸術大学大学院修士課程を修了後、無所属で活躍する若手の日本画家です。
好きな画家は橋本雅邦、竹内栖鳳ということで古典をしっかりと踏まえた画格の大きさを感じさせます。
2010年の11月の池袋東武の初個展では、屏風を含む35点を完売したということで、大器を伺わせます。夢は野生のサバンナで取材するということで、イマジネーションの力と現場取材のスピード感も加わる今後の展開を期待させます。

◆川又聡展/12月22日~28日/池袋東武 TEL03-3981-2211

浸透していく色彩 篠塚聖哉

2011年04月23日 | アーティスト
現在では、日本画、油彩画というジャンルは、材質により区分されるという点はありますが、その表現性は多様な広がりをもっています。伝統的な顔料と面相筆と和紙という伝統性を踏まえながら、現代的なアニメチックな表現で知られる町田久美さんがいます。篠塚聖哉さん(1970年~)は、日本画専攻の画家ですが、紙にオイルパステルのドローイングの作品で、〈浸透していく〉をテーマに取り組んでいます。東京都現代美術館での「MOTアニュアル2006」などに出品経歴があります。
空間に大きく石か山のような塊が描かれています。現実の風景でありながら、色彩はグレー、ブルーグリーンのトーンで虚構のような印象も与えます。
とくに注意深いのは、オイルパステルを重ねて浸透していく過程でつくられるぼかしや曖昧な境界の中にある色彩性であり、抽象的な力です。
篠塚さんは、次のような言葉を語りかけます。
    塊がある。大地にへばりつかず、そこにある。
    濡れ渇きを繰り返し、すとんと、そこにある。
    分け目のない世界では、記憶と事実が同化し、今、そこにある。

東日本大震災復興支援アートアクション

2011年03月27日 | アーティスト
美術界においても、美術館や個展会場などで大震災の義援金を募るコーナーが設けられていますが、若いアーティストの発表の場として、廃校を利用したギャラリーを展開している〈千代田アーツ3331〉では、日比野克彦さんを中心に、参加アーティストに呼びかけ、作品の販売やワークショップを通して、被災地に心をつなぐアクションが行われています。
ハートマークビューイングというプロジェクトは、それぞれが心をこめてつくったハートマークの作品を被災地に飾ろうという試みで、岐阜や京都でもすでにワークショップが開催され、色とりどりのハートマークができています。
掲載写真は、京都会場のものですが、今できることの一歩が託されています。
千代田アーツ3331では、4月2日、3日にワークショップが開かれる予定で、作品の販売も行われ義援金として、日本赤十字社をとおして被災地におくられます。

◆主催 3331ARTs Chiyoda 千代田区外神田6-11ー14

美術家としての吉岡徳仁氏

2011年01月10日 | アーティスト
マルチメディアアーティストというと分野の異なる表現形式の垣根を超えて活躍する方で、現在では、デザインと美術家の仕事の領域も特定しにくくなっています。倉俣史郎氏の事務所から独立し、デザイン事務所を設立、スワロフスキーなどのショップデザイナー、空間デザインなどで世界的に評価されている吉岡徳仁(1967年~)さんは、近年では携帯デザインやトヨタとのコラボなどその仕事の領域は広がっています。美術評論ではなかなかデザイナーの方とのセッションはこれまであまりありませんでしたが、昨年、森美術館(六本木)で開催された「ネイチャー・センス展」に吉岡氏が参加。
掲載画像「snow」のインスタレーション作品では、幅15メートルもの巨大空間に百キロの羽毛を空間に浮かせて、見る者に新鮮な感覚を呼び起こしました。その作品が評価され、TOKYO Design&Art ENVIRONMENTAL AWARD(デザインアソシエーションNPO主催)における2010年のArtist of the yearを獲得。自然や環境への感覚を促すこれからの作品も大いに楽しみです。

純粋にゆったりと歩く画家の道

2010年09月20日 | アーティスト
日本画家の三谷青子さんは日展で発表を続けていらっしゃる超ベテランの画家ですが、その作品はいつもフレッシュでみずみずしい感覚にあふれています。ご年齢のことを言うといけませんが、50年以上画業に励まれています。肩肘を張ったところがなく悠然と自然体でいらっしゃる。お母様が明治、大正期を代表する日本画家である三谷十糸子さん。その血筋は現代の日本画へと受け継がれています。
「一作を描き終えると次は何を描こうかと次々描きたいものが出てくるの。だから一つのテーマを追い求めるタイプじゃないの」とほほ笑まれる。
・掲載画像は、昨年の「春」と題された作品。ポピーの平原がずーと遠く高原の山並みへと連なっています。中央には木馬が郷愁をそそります。淡いグレーの諧調がすっきりと清らかです。杉並にある自宅の庭の花々の写生からイメージを広げた風景作品。花を育てるこころとその一つひとつを慈しむように描くこころ。
写生は対象にまっすぐ向かい合い、心を無にすることから生まれる線の美しさがあります。現代日本画においても伝統的な花鳥画の精神が生きているように思います。