坂野直子の美術批評ダイアリー

美術ジャーナリスト坂野直子(ばんのなおこ)が展覧会、個展を実際に見て批評していきます。

最前線の断面「アーティスト・ファイル2010」展

2010年05月01日 | 展覧会
「MOTアニュアル」(東京都現代美術館)と並ぶ同時代の最前線で活躍する作家を紹介する展覧会が「アーティスト・ファイル」です。国立新美術館が開館と同時にこの企画展を立ち上げ、現代の諸相をアートで切り取るという意欲的な企画展です。当初から注目していて、今年はちょっと行きそびれていたのが、友人の元編集者のHさんのお蔭で観覧する機会を得ました。福田尚代、石田尚志、桑久保徹、オランダのアーノウト・ミック、南野馨、O JUN,
斎藤ちさとの7作家が個展形式で会場を区切って発表。30歳代から50歳代までの幅広い世代が集まり絵画、映像、立体など多様な作品が揃い、コンセプトがしっかりとした方向性がはっきりと見えた爽快感を伴う内容でした。たとえば桑久保徹さんの絵画は、俯瞰した広大な平原にさまざまなオブジェや人物が点景として描かれ、今まさに組み立てられていく舞台空間のように時間感覚を味わえます。現代アートは見て感じたもの勝ち。どんな見方しても自由なのです。(5月5日まで開催)

GWの桜前線はいずこへ

2010年05月01日 | アート全般
今日がGWの交通渋滞のピークとか。桜前線を求めて東北に向かう方もいるでしょう。日本人の桜に寄せる思いは特別ですよね。〈さまざまの 事思ひ出す さくらかな〉芭蕉の晩年の有名な句ですが。また西行の歌では〈吉野山 花の散りにし 木の下に 留めし心は われを待つらん〉が好きですね。日本的詩情というか、余韻がある・・・。近代にはいって高浜虚子は客観写生の道を説き、虚心をもって実に迫る。主観的、個人的主張を排除していくことですよね。これは日本画の花鳥画、写生の心に通じることなのです。無心にして一木一草に心傾ける。ここには万物融合の奥義がある。この写生観は、西洋的な細かく説明的に描くのではなく、余白の美しさ、余白を生かす(間と言ってもいいかもしれません)ことで象徴性をもたせる。東洋的美意識ですね。俳壇の重鎮、深見けん二の〈蝶に会ひ人に会ひ又蝶に会ふ〉という句は、師である虚子の客観写生の地を継ぐものでしょう。蝶と人、ここでは同じ次元に立っている。まさしく風雅の境地にですね。