坂野直子の美術批評ダイアリー

美術ジャーナリスト坂野直子(ばんのなおこ)が展覧会、個展を実際に見て批評していきます。

新世代への視点2012  今年も熱い(暑い?!)

2012年05月29日 | 展覧会
若手作家の発表の場として歴史のある銀座・京橋の12画廊の各画廊が推薦する40歳以下の新鋭作家の個展を同時に開催する本展は、今年で13回目を迎えます。
アートマーケットのトレンド的な流れとは少し距離を置いて、現代社会と真摯に向き合いメッセージ性のある企画の一つです。
恒例の真夏の企画であるギャラリーツアーは、汗をふきながらの体力勝負にもなりますが、各画廊の一押しの作家の作品との出合いは、新鮮な風を呼び起こしてくれます。

◆新世代への視点2012/7月23日~8月4日/ギャラリー58、藍画廊、コバヤシ画廊、ギャラリーなつか、なびす画廊他。
事務局 藍画廊 TEL03-3567-8777

ShinPA 東京展 絵画の面白さ

2012年05月28日 | 展覧会
本展は、長野・小布施ミュージアムで開催されたShinPA展の東京展になります。「東京藝術大学デザイン科描画装飾研究室」出身者による研究発表の場で若手中心のメンバーで構成されています。
今回で第5回目となります。「新しい波」とは、彼らの指導教員である中島千波さんの「波」から命名されています。
この展覧会の面白い点は、日本画・洋画というジャンルを問わず、溌剌とした絵の動きが感じられることです。
大上段に構えるのではなく、でも軽くない、具象、抽象いろいろあって、形と色彩も色とりどりで動きがあります。
それぞれの立ち位置を決め、今という時代の波をみつめる16人展です。

◆SHinPA東京展/7月3日~16日/佐藤美術館(新宿区) 入場無料

奥山民枝展 生命の波動

2012年05月27日 | 展覧会
油彩でありながら東洋的な思想を感じさせる奥山民枝さん(1946年~)。山、雲、太陽などをモチーフで独特の色相のなかに見る人を引き込んでいきます。
昨年尾道市立大学を退任され、ますます旺盛な新作展が並びます。プリミティヴでありながらわき出る力を内在させている自然の神秘に寄り添うようです。
欧州や、中近東、南北米など世界を旅して、独特の宇宙観を絵画へと昇華させています。
自然も空間も有機的で揺らぎのなかに存在しているという画家の根源的な問いが投げかけられます。

◆奥山民枝展/6月13日~6月19日/日本橋高島屋・美術画廊

西村画廊35年+ 刊行記念展

2012年05月25日 | 展覧会
現在では、アートフェアなど市場も拡大し、インターネットの普及で個人的に好きな作家の作品を購入することもできマーケットのシステムも変化しつつあります。
西村画廊は現在は日本橋で活動していますが、銀座のアートの発信源として草分け的存在です。
画廊開廊38年を記念して「ビジュアル画廊史」が刊行されます。
私は学生時代に短い期間でしたが、アルバイトをさせて頂いた経験があり、イギリス現代作家のデイヴィッド・ホックニー、アンソニー・グリーンらやイギリス以外にもオットー・ディックスやホルスト・アンテスら気鋭の作家のほやほやの新作をいち早く見る機会に恵まれました。
海外の同時代的作家を次々と紹介し、評論家の中原佑介さんもよく立ち寄り、原稿を書かれていたのを覚えています。
「西村画廊35年+」の刊行は、そのまま現代美術の歴史の一端、経済的にも高度成長時代にあった輝かしさがアートに反映されているように思います。
この刊行を記念して、当画廊の日本のレギュラーメンバーである、押江千衣子(敬称略、以下同)、小林孝亘、曽谷朝絵、指田菜穂子、舟越桂、町田久美、三沢厚彦という第一線で活躍する作家陣の最新作が展覧されます。

◆「西村画廊35年+」刊行記念展”35年プラス”
  6月19日~7月28日/西村画廊(日本橋高島屋裏)


丸の内に若い作家の発表の場

2012年05月24日 | 展覧会
美大や藝大の卒業制作展は今ではなかなか時間的に見に行けません。全国の主要な美術大学・大学院の卒制の中から優秀な作品を展示する「アートアワードトーキョー丸の内2012」にまたまた駆け込みで行ってきました。
丸ビルと新丸ビルの中間に位置する行幸通り地下の通路を利用したショーケースのギャラリーは、展示空間の在り方も含めて現代の断面のような構図を見せています。
丸の内は、三菱一号館美術館など、現在ではアート、音楽系、グルメなど多様な文化を発信しています。
大人の街のイメージのある整然としたビルの地下空間に、少しジャンクで猥雑さもある、でもまだはじけ方がおとなしいというか、出来上がっている感じの新鮮な受賞作品群30点が展示されました。
写真では光って申し訳ないのですが、グランプリの片山真理さん(東京藝術大学)の作品で、背後に自室で女性が横たわり周囲には雑多に置かれた物たちに囲まれ、石膏の人型が傍らにある写真とショーケースにはその現場を再現したようなオブジェが並びます。アンニュイでセクシャル、増殖していくようなイメージに現代のせつなさを伴います。



この作品は、升谷真木子さん(武蔵野美術大学)の作品で、抽象的な絵画ですが、「日常が静かに回転している様子を描いています。秩序と繰り返しの中にある私たちの暮らしは、少しの差異で遊戯的に見えます」という作家のコメントが寄せられています。
このように日常を少しずらした視点でわたしたちの感覚を解放してくれる作品も特徴的でした。
これから個々の表現がどのように広がっていくか楽しみです。

◆アートアワードトーキョー丸の内2012/開催中~5月27日/行幸地下ギャラリー(丸の内行幸通り地下)
 http://www.artawardtokyo.jp



フラワースケープ 花のもつ永遠性

2012年05月23日 | 展覧会
展覧会のテーマは個人の企画展、国際的な巡回展などさまざまですが、各地域の美術館では所蔵作品を軸にいろんな切り口を模索し、現代的なテーマとして投げかけてきます。
千葉県の佐倉市にある川村記念美術館は、マーク・ロスコやバーネット・ニューマンの恒久展示で知られ、フランク・ステラやボックスアートのヨセフ・コーネルなどの収蔵も特記されます。
現在開催されている展覧会は、花をテーマにいかに各時代の作家たちが表現してきたかを多様なスタイルで見せています。
花は自然の象徴であり、生命の起源や神話などの題材にもなりました。花々の発する生命の輝きやはかなさは多くのインスピレーションを与えています。
本展の面白さは、時系列的な構成でもなく、スタイルや国、世代をこえた作品群が見られることです。
アメリカの原初的な大地と花を描いたジョージア・オキーフと大衆文化のポップアートのウォーホル、リキテンスタイン、写実派とプリミティヴな詩情をたたえた有元利夫の作品などが並び、花のテーマの奥深さを知らせてくれます。

◆FLOWERSCAPES フラワースケープ 画家たちと旅する花の世界
 開催中~7月22日/DIC川村記念美術館(佐倉市)

★軽井沢に現代美術館がオープン
 リゾート地美術館の発祥でもある軽井沢ですが、現在ではアウトレットの波も押し寄せいろんな顔を見せています。
 アートのリゾート地の面目躍如というところでしょうか、4月に、軽井沢ニューアートミュージアムがオープンしました。
 第1回の展示は「軽井沢の風 日本の現代アート1950-現在」。
 草間彌生、村上隆、松井冬子などの作品で幕を開けます。
 いい季節になりましたので、ドライブにお出かけのときは寄ってみてはいかがでしょうか。

 軽井沢ニューアートミュージアム(軽井沢町1151-5)

メトロポリタン美術館展 それぞれの1点

2012年05月21日 | 展覧会
きょうは、金環日食フィーバーにわきましたね。5分間の奇跡の天体ショーでしたが、私は、見逃してしまい(うかつ!)、映像で楽しみました。専用グラスで実際にご覧になった方も多いと思います。
宇宙のオーラは日常から遠くはるか次元へと誘ってくれます。アートですよね。

今年の秋、悠久の旅へと誘ってくれる展覧会が実現します。
東京都美術館リニューアル記念として開催される「メトロポリタン美術館展」は、大規模に紹介される内容としては40年ぶりになります。
現在国立新美術館で開催されている「大エルミタージュ美術館展」は、ルネサンスから20世紀までの名画で展開する400年の旅ですが、本展は紀元前2000年のメソポタミア文明の「カエルの分銅」から20世紀前半のエドワード・ホッパーまで美の4000年を、絵画54点、彫刻・工芸66点、写真13点で辿る旅となります。
メットで親しまれている文化人類的規模のコレクションからどのような道筋で本展は構成されるのでしょうか。
「自然」を切り口として西洋美術において、風景や動植物がどのようにとらえられてきたか、人間の創作基盤を問う普遍的なテーマですが、作品の選定にあたり、巨匠たちのこれまであまり紹介されていない意外性のあるドッキングが楽しめそうです。
・掲載作品は、ルノワールの「浜辺の人物」1890年 明るい色彩のハーモニーが浜辺の風を呼び起こします。
ニューヨークのメットから届けられた贈り物を美術史的な観点だけでなく、お気に入りの1点を見つけてそこから歴史をひも解くのもいいかもしれません。
やはり、日本初公開となるゴッホの「糸杉」は人気を集めることでしょう。

◆メトロポリタン美術館展 大地、海、空ー4000年の美への旅
 10月6日~13年1月4日/東京都美術館
 http://met2012.jp



ドビュッシーー音楽と美術 印象派と象徴派のあいだで

2012年05月19日 | 展覧会
19世紀末から20世紀初頭にかけて活躍したフランスを代表する作曲家クロード・ドビュッシーの生誕150年を記念して、オルセー美術館とオランジュリー美術館の協力を得て共同開催される展覧会です。
ドビュッシーと言うと、「月の光」や「海」などがよく知られ、曲調のコンポジションの自在さは、革新的であり、印象派の接点を感じさせます。
ドビュッシーが生きた時代は、音楽や美術、文学がお互いに影響しあい、共同で作品をつくりあげる土壌が作り上げられましたが、ドビュッシーはとくに印象派やポスト印象派に高い関心を寄せていました。
本展は、ドビュッシーと印象派や象徴派、世紀末美術などの関係に焦点をあて、19世紀フランス美術の新たな魅力を探訪します。
ルノワールやマネ、マルセル・パシェのドビュッシーの肖像画なども展覧されます。

◆ドビュッシーー音楽と美術 印象派と象徴派のあいだで
  7月14日~10月14日/ブリヂストン美術館

トーマス・デマンド展 社会の断片への視点 

2012年05月18日 | 展覧会
ドイツ現代美術界を代表する写真家の一人であるトーマス・デマンド(1964年~)の日本で初の展覧会が明日から始まります。
ヴェネツィア・ビエンナーレやサンパウロ・ビエンナーレなど世界的な発表の場を踏んできたアーティストがつくりだすのは、日常私たちが目にしている、またはニュースなどで知らされている空間の一部を大きくプリントに写し出します。
現代の錯綜した状況のなかで、彼が切り取るのは、どこか無機質で、見過ごしてしまうシーンです。
その被写体を直接写すのではなく、彼は学生時代に彫刻を学んだ技術を用いて、厚紙で精巧に作り上げていきます。掲載作品は、制御室。他には、社会的事象や事件が起きた場所などがポイントとなります。バスルームやエスカレーターなど一見実物に見える厚紙作品を彼は写していくという構成写真の手法を用いています。
今回は、映像作品も多数出品されます。
実物と虚像のはざまにあるのは何でしょうか。よく見るとぎこちなく見える視覚のトリックであったり、われわれが日常目にしている空間への認識の曖昧さ、不思議なイリュージョンへと誘う空間でもあります。

◆トーマス・デマンド展/5月19日~7月8日/東京都現代美術館(江東区)

★第55回ヴェネツィア・ビエンナーレ国際美術展(2013年6月~11月)の
 日本代表作家が決まりました。
 日本館展示は、田中功起さん(1975年~)で現在、ロサンゼルス在住。
 主に映像や写真、パフォーマンスなどの制作活動を行い、キュレーター
 蔵屋美香(東京国立近代美術館美術課長)さんの推薦です。今回の
 プランは3.11を通して「他者の経験を自分のものとして引き受けること
 はいかにして可能か」というテーマに取り組みます。



精妙な線の美しさ 三田尚弘

2012年05月17日 | 展覧会
以前にも紹介しましたが三田尚弘さん(1980年~、さんだ・たかひろ)の松坂屋名古屋店、上野松坂屋の個展が好評のうちに終わり、7月にグループ展に出品予定です。
好きな作家は、俵屋宗達ということで、日本画の伝統を踏まえた筆の運びの美しさが目を引きます。
掲載作品は、「やぎょう狐Ⅲ」。霊的なシンボリックな白の浮遊感が印象的です。日本画の枠をこえてオリジナルなイメージの物語が今後どのように展開するか楽しみです。

◆有芽の会/7月4日~10日/西武池袋本店
 ギャラリー和田「うちわ展」/7月6日~7月14日