坂野直子の美術批評ダイアリー

美術ジャーナリスト坂野直子(ばんのなおこ)が展覧会、個展を実際に見て批評していきます。

金沢健一展 物質性と空間の異化

2013年04月23日 | 展覧会
金沢健一さん(1956年~)は、工業素材としての鉄を溶接の技術によって、鉄のもつ組成を生かしつつ、鉄柱を組み立てる大規模なインスタレーションや、鉄板のさまざまな形から音の変化を楽しむ「音のかけら」シリーズなどを展開してきました。
昨年、川越市立美術館で個展が開催されましたが、本展の作品はそこに出品されなかったバージョンで、新展開の作品です。
幅20cmほどの直方体のブロックが、120個、整然とならんでいます。いくつかの層で組み合わされて、凹凸が幾何学的なリズムをつくっています。
一体ずつ少し形態が異なり、ズレの感覚が不思議な作用をしていました。
壁にかかった作品では、モンドリアン風の凹凸の幾何学的ステンレスの矩形の作品でした。

◆金沢健一展/4月24日まで/ギャラリーなつか(京橋3丁目)

三栖右嗣記念館

2013年04月19日 | 展覧会
蔵造りの街として小江戸の雰囲気をたたえる川越に、新たなアートスポットが誕生して、開館1年を迎えました。
小さな人工の水辺に浮かぶコンクリートの打ちっぱなしのスタイリッシュの感じもあるし、メルヘンな雰囲気の美術館は、世界的に活躍されている伊東豊雄さんの設計です。館内も自然光がほどよく入り、三栖作品のリアリズムの力をじっくり引き寄せて鑑賞できる感じです。
ギャラリー2室のこじんまりとした美術館ですが、三栖作品180点が収蔵されていて、春、秋の二回の展示替えで、常時30点ほどが展示されています。
三栖さんは、母親の日常の姿をとらえた「老いる」で保井賞を受賞。その素描力は圧倒的な迫力があります。一方で、自然の花々をとらえた豊かな色彩感覚も持ち合わせています。
取材で、一点を選ぶのですが、なかなか難しく、これから夏を迎えるので、鮮やかな青の海をバックにして、前景に花の静物とのコントラストがポイントの作品にしました。
展示替えをしたらもう一度、行ってみたいと思わせる内容でした。

◆ヤオコー川越美術館 三栖右嗣記念館/埼玉県川越市

ルーヴル美術館展

2013年04月16日 | 展覧会
〈見たことのないルーヴル、見せます〉というキャッチフレーズの本展は、当館の全8美術部門が総力をあげて、「地中海」をテーマに企画し、西洋と東洋を結ぶ地中海世界の四千年に及ぶ歴史的、空間的な広がりを、ルーヴルが誇る200点を超える収蔵品で展覧するものです。
注目すべきは、清楚な容貌と自然なたたずまいが美しい古代彫刻の傑作「ギャビーのディアナ」。また、ロココ美術の華麗な作品やフランスの画家シャセリオーによるオリエンタリズムあふれる絵画など、多くの貴重な文化財が特別出品され、地中海の魅力に迫ります。

◆ルーヴル美術館展ー地中海 四千年のものがたりー/7月20日~9月23日
 東京都美術館

貴婦人と一角獣展

2013年04月09日 | 展覧会
一角獣(ユニコン)というと、ボルゲーゼ美術館収蔵のラファエロによる「一角獣を抱く貴婦人」が知られています。この作品は1933年に本格的な修復が開始されるまで、若い女性の腕には一角獣は見られなかったので、その点でも話題を呼びました。
この4月に開催される本展は、全長22mの六連作タピスリーが日本で初めて一挙公開されるということで、パリでご覧になった方も、待ち遠しい展覧会となるでしょう。
この6面のタピスリーでは、一角獣が重要な存在として登場します。
一角獣は、古代ローマの博物学者プリニウスの説明によると、体は馬に似て、鹿のような頭、象のような足、イノシシのような尻尾を持ち、一本のねじれた黒い角を額に生やしている凶暴な怪獣とされています。
この怪獣は、純潔と無邪気を愛し、童貞女だけがこの獣を捕まえることができます。
ユニコンが清らかな乙女のそばにうずくまる姿はキリスト教時代の絵画にもしばしばみられます。
掲載の作品は、「我が唯一の望み」と題されていますが、他の5面が、触覚、味覚、臭覚、聴覚、視覚と題され象徴的に表わされているのに対して、この作品は、どのような意味をもつのか、知性や愛、結婚などの説があり、謎めいています。
シンメトリックな構成で、赤を基調とした千花文様に青い天蓋が鮮やかに浮かび上がっています。
フランス国立クリュニー中世美術館の至宝といわれるゴブラン織りの精緻なタピスリーの美しさに目を引き付けられる展覧会となります。

◆貴婦人と一角獣展/4月24日~7月15日/国立新美術館

アーティスト・ファイル2013 現代の作家たち

2013年04月04日 | 展覧会
国立新美術館の研究員の方々による推薦されるアーティストによる個展形式の本展は、毎年、1月下旬から開催されます。
国や年齢を問わず出展される作品には、現代の混沌とした社会に真摯に向き合う姿勢が顕著です。
今年は、ダレン・アーモンド(ロンドン在住、1971年~)敬称略以下同様、東亭順(東京生まれ、現在バーゼル在住、1973年~)、チョン・ヨンドゥ(ソウル在住、1969年~)、利部志穂(神奈川県在住、1081年~)、國安孝昌(茨城県在住、1957年~)、ナリニ・マラニ(ムンバイ在住、1946年~)中澤英明(岐阜県在住、1955年~)、志賀理恵子(宮城県在住、1980年~)の8作家の展覧となりました。
全体的な印象は、原初的な生命や自然への眼差しがあるように感じました。絵画、写真、インスタレーションと形式や素材も多様でそれぞれ思索を重ねた深さを思わせます。
原始的なエネルギーというと、まず挙げられるのが、写真にアップした野外の作品にもあるような、國安孝昌の巨大なインスタレーションです。屋外での制作が主でしたが、今回は、当美術館の一室全体を使って、陶ブロックと丸太で積み上げられたらせん状が特徴的で、人為的な行為なのですが、丹念に積み重ねられていった時間の積み重ねがスケール感を生み出しています。
志賀理恵子は、写真のインスタレーションですが、壁面を使わず、床に立てかけられ通り抜けていく要素を採り入れていました。宮城県の北釜という土地に来て、5年間ここに住みながら制作しています。この地の歴史や風土を表現の磁場にして、きれいなものではなく、日本人の原初を訪ねていくような掘り下げた表現が印象に残りました。
ナリニ・マラニは、インド古来の神様やギリシャのヒロイン、グロテスクな人体、凶暴な動物。それらが美しく幻想的な光となって、灯篭のようなシリンダーに乗ってまわり、繰り返されていきます。そこには暴力、殺人、戦争などさまざまな問題が包括されています。

・アーティスト・ファイル2013 は、4月1日で終了しました。



ミッドタウンでは、アートとデザインのコンペで入賞した作品が通路を飾って楽しめました。