坂野直子の美術批評ダイアリー

美術ジャーナリスト坂野直子(ばんのなおこ)が展覧会、個展を実際に見て批評していきます。

日本の印象派・金山平三

2012年03月19日 | 展覧会
平三さんと言うとどこか親しみを感じますが、そのベレー帽をかぶった風貌は、どこかセザンヌを思わせるものがあります。
兵庫県立美術館のコレクションの核に、1883年神戸に生まれた洋画家金山平三の作品があります。
この春、当館がHAT神戸に移転・開館から10周年を記念して、大規模な回顧展が開催されます。
東京美術学校(現、東京芸大)で、黒田清輝に学び、外光派の明るい色彩を獲得していきます。卒業後は、渡欧し、印象派の技法を本格的に習得していきます。
帰国してからは、信州・諏訪湖や山形・最上川、日本海沿岸を情感豊かに描き、日本風土に根差した印象派の確立を目指していきます。筆触豊かな風景画の他に、肖像画や群像を含む人物画も描き、歌舞伎や文楽の場面を描くいわゆる芝居絵にも独自の境地をひらきました。

◆日本の印象派・金山平三/4月7日~5月20日/兵庫県立美術館

三田尚弘 夢想の内的世界

2012年03月15日 | 展覧会
日本画の新たな風を送り込んでいる一人に三田尚弘(1980年~ さんだ・たかひろ)さんがいます。
紙本彩色の屏風仕立てに、バクや麒麟など現実的な動物ではなく、夢想の中にいきる聖獣として、白い優麗な線で空間に描かれているのが印象的です。
私たちのなかに生きる密やかな夢想の世界をひも解きます。

◆三田尚弘展/4月18日~24日/名古屋松坂屋  5月9日~15日/上野松坂屋
 

東京国立博物館×凸版印刷×海洋堂

2012年03月12日 | 展覧会
今年創立140周年を迎えた東京国立博物館の記念プロジェクトの一つとして、凸版印刷との協力による重要文化財「洛中洛外図屏風(舟木本)」(江戸時代・17世紀初め 六曲一双)実物大複製が制作されました。海洋堂との共同による「考古学ミニチュア カプセルフィギュア」などの3月20日の発売を前に発表会がありました。
洛中洛外図は、室町時代に登場したやまと絵屏風の主題のひとつで、京都の町中のにぎわいや郊外の寺社などの名所のありさまを描くものです。今回複製制作された作品は、鳥瞰図による壮大な構成で、景観は桃山時代の豊臣家が滅びる直前と考えられ、戦国の荒々しい気風を残しながらも、統一と繁栄に向かう京都の社会が活写されています。
高精細デジタルアーカイブを活用し、色彩の再現と精緻な人物の細部まで再現、2500人以上の人々の動勢が生き生きと映し出されています。この実物大の複製画は、今年度の特別価格として250万円で発売されるそうです。



ご存じのようにフィギュア製作を、ガレージキットや食玩でホビーの世界に革命を起こした海洋堂のトーハク初の公式オリジナル文化財フィギュアが誕生します。銅鐸やはにわ、人面付土器など、ガチャガチャのカプセルベンダーマシンでもう一つのかわいい本物と出合えます。(全6種で、1回400円です)

現代の魔性の女

2012年03月09日 | 展覧会
現代のヴィーナスはイレギュラーな魔性を秘めた女性。掲載の江畑芳(えばた・かおり 1984年~)さんの描く女性像も世紀末のクリムトを思わせる退廃的な雰囲気も漂わせながら、うつろな瞳が何かを訴えかけています。
白い裸体に金のブレスレット、豪奢な髪の毛が空間を彩っています。
江畑さんは、愛知県出身で、現在京都造形芸術大学大学院に在籍し、若手作家として注目される一人です。
〈アートフェア東京2012〉にも出品します。

◆アートフェア東京2012/3月30日~4月1日/東京国際フォーラム(有楽町)

Lapis Lazuli-本瑠璃で描く

2012年03月07日 | 展覧会
ラピスラズリは、国や宗教を超えて高貴な色、神聖な色として尊ばれてきました。フェルメールの「真珠の耳飾りの少女」の青いターバンの顔料も当時大変高価なものでした。
現代においても、ラピスラズリの色合いに魅了され、創作のインスピレーションにしている若い画家たちがいます。
本展は、有志38名によるラピスラズリを使った作品が展示されます。
掲載作品は、後藤温子さん(1982年~)の「優しい悪意」2012年 水彩。蝶が舞う妖しい魔力を秘めた夢想的な雰囲気が淡い青の色調により高まっていきます。

◆Lapis Lazuli-本瑠璃で描くー/3月14日~4月1日/藝大アートプラザ(東京藝術大学構内)無料

ユベール・ロベール 日本初公開

2012年03月05日 | 展覧会
「廃墟のロベール」の異名で知られるユベール・ロベール(1733-1808)は、日本ではなじみの薄い画家ですが、絵画から庭園まで幅広い領域で活躍した18世紀フランスを代表する風景画家の一人です。
ポンペイやヘルクラネウムのナポリ周辺の発掘に沸いた18世紀、ロベールはイタリア留学で得た古代モチーフを土台に自由な想像力で歴史的な古代の建築や彫像を森の木々や川の豊かな自然と融合して壮大なロマンをつくりだしています。
掲載作品は、「古代遺物の発見者たち」1765年 ヴァランス美術館
本展では、世界有数のロベールコレクションとして知られるヴァランス美術館が所蔵する貴重なサンギーヌ(赤チョーク)素描を中心として、初期から晩年まで日本で初めてのまとまった展覧会となります。
建築美を描く画家ならではの素描も本画に負けないほどの見ごたえとなっています。

◆ユベール・ロベール 時間の庭/3月6日~5月20日/国立西洋美術館(上野公園)

あなたに見せたい絵があります。

2012年03月03日 | 展覧会
ブリヂストン美術館開館60周年記念の第2弾となる本展は、ブリヂストン美術館と石橋美術館の収蔵品の中から、西洋絵画と日本の近代洋画が合わせて展示される点が見どころの一つです。
近代の絵画では、人物画や人の営みを描いた風俗画、風景画、静物画などが重要なジャンルとなりましたが、本展でも人物画は大きな位置をしめ、画家の「自画像」「肖像画」「ヌード」「モデル」と章を分けて、多彩な人物像が並びます。その他、山、川、海などテーマごとに11のジャンルで構成されます。
風景画の「山」の展示では、掲載のセザンヌの〈サント=ヴィクトワール山とシャトー・ノワール〉(1904-06年頃)と雪舟の〈四季山水図〉(15世紀)の雪舟が中国の明から帰国して後に描いた胸中山水図との対比が魅力となっています。
「肖像画」は古来から王侯貴族の似姿を描くことから始まり、近代では富裕階級のリクエストにより大いに繁栄しました。
セザンヌは、依頼で銀行界の娘を描いた有名な肖像画があり、肖像画は収入の糧にもなりました。反面ドがは、親類や友人などを描いた肖像画が多くより私的意味合いをそこに込めました。
このコーナーでは、ギュスターヴ・カイユボットの「ピアノを弾く若い男」(1876年)の作品も出品されます。カイユボットは印象派展に出品するなど印象派の擁護、支援者としても有名ですが、印象派の明るいタッチとは異なり、光の陰影を取り込みながら写実的な堅固な画面が見ごたえがあります。
出品数は、絵画が108点、常設の彫刻や古代美術を合わせて156点が予定されています。石橋コレクションの多様な魅力に触れる機会となります。

◆あなたに見せたい絵があります。/3月31日~6月24日/石橋財団ブリヂストン美術館(京橋)