坂野直子の美術批評ダイアリー

美術ジャーナリスト坂野直子(ばんのなおこ)が展覧会、個展を実際に見て批評していきます。

野村仁ー宇宙の時間

2010年05月23日 | アーティスト
今日は関東地方は雨模様で空を見上げても、太陽も月も見ることができませんので、それでは壮大な宇宙の時間を撮影した野村仁氏の「アナレンマ」シリーズの作品を。もう20年前の写真作品で、作家の原点となった作品です。空に現れた八の字は、合成写真ではなく、1年間にわたって同じ場所で定期的に太陽を撮影して得られた実写なのです。太陽と地球の交信、われわれが経験しえない断面で時間を切り取ることで、美しくシンプルな視覚化へと結びついたのです。

山梨県立美術館のミレー

2010年05月23日 | アート全般
ゴッホは農民画家フランソワ・ミレーを敬愛していました。パリの華やかな市民生活とは裏腹にバルビゾンの画家たちの農民生活に向けられたまなざし、ゴッホは油絵の技法的には印象派の影響を受け、明るい色面に移行しますが、テーマの上ではミレーらに共感していたのです。「鶏に餌をやる女」(山梨県立美術館)は、農家の日常の一場面が穏やかな光の中に映されています。印象派のタッチに慣れている目にとって、少し暗く感じるかもしれません。この作品は19世紀半ばの制作ですから、印象派の技法の革命はもうそこまできていますが、古典的な陰影法で、この時期写実的な描法への回帰の時代でもあったのです。この農婦のモデルは妻のカトリーヌ。名画「晩鐘」へと続く作品です。