坂野直子の美術批評ダイアリー

美術ジャーナリスト坂野直子(ばんのなおこ)が展覧会、個展を実際に見て批評していきます。

北斎 ボストン美術館

2014年02月28日 | 展覧会
葛飾北斎は、江戸後期に活躍した浮世絵師で、世界で最も知られた日本の絵師と言ってもいいでしょう。
90歳で没するまでに、これほど幅広いテーマに果敢に挑戦し、新しい表現を開拓した絵師も少ないでしょう。
よく知られた「冨獄三十六景」は、人生の後半で制作され、本展では、21図が出展されます。
ご存じのように、ボストン美術館は日本以外で日本美術の質、量ともに世界一のコレクションを所有し、120年前に世界初の北斎の本格的な回顧展を開いたのも当美術館でした。
本展では、役者絵にはじまり「諸国瀧廻り」など著名な浮世絵版画など機知に富んだ構図と色鮮やかな北斎ワールドが紹介されます。
私は、江戸時代に流行した、怪談話を語る遊びを表題にした百物語のお岩さんに注目。現代の画家もびっくりの奇想とマンガ的な魅力に北斎の表現の力を感じます。

◆北斎 ボストン美術館 浮世絵名品展/4月26日~6月22日・神戸市立博物館
 7月12日~8月31日・北九州市立美術館分館 9月13日~11月9日・上野の森美術館

キトラ古墳壁画

2014年02月25日 | 展覧会
古墳壁画は、古代、中世のロマンを育みます。
奈良県明日香村のキトラ古墳(特別史跡、7世紀末から8世紀初め)の極彩色壁画が東京で特別開催されます。
「四神」のうち、朱雀、百虎、玄武、獣の顔と人の体を持つ「十二神像」のうち、子・丑が展示されます。
壁画の発見以来、明日香村以外で公開されるのは今回が初めての機会となります。
キトラ古墳における壁画の発見は1983年で、本古墳は、高松塚古墳に次ぐ我が国2基目の大陸風壁画古墳であることが明らかとなりました。
キトラ古墳石室の内面には、厚さ数ミリの漆喰が塗られ、壁に四神および獣頭人身の十二支、天井に天文図及び日月像が描かれています。これはいずれも中国の陰陽五行思想に基づいて石室を一つの宇宙に見立て、被葬者の魂を鎮めるものとされています。
掲載の朱雀は、南壁に描かれ、長い尾羽をなびかせた堂々とした姿と大きく見開いた眼の描写が特徴となっています。

◆キトラ古墳壁画/4月22日~5月18日/東京国立博物館 本館特別5室

モディリアー二を探して

2014年02月19日 | 展覧会
モディリアー二と言うと、第一次世界大戦後に花開いた異邦人芸術家たちのエコール・ド・パリの時代を代表する画家であり、彫刻家でありましたが、その悲壮感漂う、刹那的な生き方は、貧しさのなかで戦った芸術家の一人として映画にもなりました。
退廃的な生活のうちに短い生涯をとじたモディリアー二でしたが、その先見性に満ちた絵画、彫刻作品は堅固で力強いものでした。
アメデオ・モディリアー二(1884-1920)は、イタリア出身で、21歳のときにパリに来ました。その時期のパリはセザンヌに代表されるポスト印象派をはじめ、ファーヴィスムやキュビスムなどの前衛芸術や、アフリカやオセアニアのプリミティヴ・アートに目を向けるプリミティヴィスムなど、多様な芸術的動向が花を開かせていました。
そうした刺激を受けながら、モディリアー二は、自らの理想とする芸術の道を歩み始めます。
本展では、モディリアー二による油彩画、彫刻、素描をあわせて19点を軸に、ピカソやブランクーシらをはじめとする20世紀初頭の芸術を牽引した主要作家の作品とともに、65点が展覧されます。
私だけのモディリアー二をみつける機会ともなるでしょう。

◆モディリアー二を探してーアヴァンギャルドから古典主義へ
 4月12日~9月15日/ポーラ美術館(箱根仙石原)





ゴッホの原点 オランダ・ハーグ派展

2014年02月13日 | 展覧会
19世紀後半のオランダで、ポスト印象派のゴッホが「大物」と呼んだ画家たちがいました。活動の地点となった北海に面した街の名にちなんで、「ハーグ派」と呼ばれたグループです。
ハーグ派はバルビゾン派の影響を受けつつ、ライスダールやフェルメールといった17世紀オランダ黄金時代の絵画を根底に、自然観察にもとづく戸外制作を基盤として、風車や運河など、オランダ独特の風景、ほの暗い室内など日常の光景を透明感のある繊細な光の中に描きました。
本展では、オランダのハーグ市立美術館の所蔵を中心に、ハーグ派の作品だけでなく、クレラー=ミュラー美術館他からバルビゾン派の作品、ハーグ派の影響を受けたゴッホ、そして抽象画のモンドリアンの初期の作品も併せて展覧されます。

◆ゴッホの原点 オランダ・ハーグ展/4月19日~6月29日/損保ジャパン東郷青児美術館


バルテュス展

2014年02月10日 | 展覧会
バルテュスの作品には、繰り返し少女が登場します。ときにはセクシュアルなポーズをとる少女たちは、画家自身の言葉で言うならば、「この上なく完璧な美の象徴」であると言います。
バルテュス(1908-2001)は、めまぐるしく前衛運動が登場した20世紀美術のいずれの流派にも属さず、ヨーロッパの古典主義を継承しつつ、独自の世界を築きました。
どこかアンニュイで、抑えた色調のマットな感覚は現代につながる独特の空気を伝えます。
本展は世界各国から100点を超える油彩画、素描などが登場。展覧会場には、晩年を過ごしたスイスの邸宅「グラン・シャレ」に残るアトリエを初めて再現されます。

◆バルテュス展/4月19日~6月22日/東京都美術館

ボストン美術館 ミレー展

2014年02月09日 | 展覧会
日本の自然観と響きあうのが、バルビゾン派のミレーです。
いつ見ても心なごみます。
たくましく働く農民や自然の様子に優しい眼差しを向け、ありのままの姿を描いたジャン=フランソワ・ミレーは、19世紀フランスで活躍した最も世界的に愛されている画家の一人です。
ミレーは1814年にフランスのノルマンディ地方の農村に生まれました。
1849年にはパリ郊外のバルビゾン村に家族で移住し、村に集まった芸術家と交流を持ちながら。制作を続け、1875年に亡くなりました。
ボストン美術館は、世界有数のミレーのコレクションを所有しています。
本展には、「種をまく人」「刈入れ人たちの休息」、「羊飼いの娘」といったミレーの代表作を中心に、そのコレクションから厳選したバルビゾン派の数々が展覧されます。

◆ボストン美術館 ミレー展/開催中~4月6日・高知県立美術館
 4月19日~8月31日・三菱一号館美術館


台北 國立故宮博物院ー神品至宝

2014年02月08日 | 展覧会
リアルと言えば、東京国立博物館で、今年、日本初めての開催となる本展の見どころの一つに翡翠の「白菜」、九州国立博物館では、角煮の肉の工芸品があげられます。
石の特徴を生かした三次元の小さなリアルは、そのミクロ的な神業に感嘆させられます。
掲載の「翠玉白菜」は、清の時代、18~19世紀の作品で、緑と白のみずみずしい光沢や。しなやかに曲がった葉。白菜のどこを見ても、石の塊を彫って作ったとは思えないほど、新鮮な生気に満ちています。翡翠のなかでも選りすぐりの玉材と洗練された技巧が融合した「神品」となっています。

◆台北 國立故宮博物院/6月24日~9月15日・東京国立博物館
 10月7日~11月30日・九州国立博物館

驚くべきリアル展

2014年02月07日 | 展覧会
現代では、リアルをどのように求めているか、複雑な様相を秘めています。
ゲームやアニメなどの仮想空間にリアルを感じる人もいるでしょう。
本展は、日本スペイン交流400周年事業の一環として開催されます。
スペインのリアリズムは、ベラスケスやゴヤなど巨匠を生み出し、現代までスペインリアリズム絵画は息づいています。
一方で、現代社会では、絵画では括れない、新しいリアリズムの有りかを探る作品も多くなっています。
本展では、スペインのカスティーリャ・イ・レオン現代美術館(MUSAC)のコレクションから、独自のリアルを追求する27組の作家の作品が展覧されます。
不気味な違和感を放つ約100枚の家族のスナップ写真、切断されたリヴィングルームの風景、白馬が導く歴史の白昼夢など、映像やインスタレーション、絵画や彫刻など多様な表現で現代に切り込んでいきます。

◆驚くべきリアル スペイン、ラテンアメリカの現代アートーMUSACコレクション
2月15日~5月11日/東京都現代美術館

ラファエル前派展の魅力

2014年02月05日 | 展覧会
昨日、「ラファエル前派」展に行ってきました。会場は、雨にも寒さにも関係なく(夕方から雪でした)、女性たちの姿が目立つ賑わいがありました。
私は、とくにジョン・エヴァレット・ミレイの〈オフィーリア〉を期待して行ったのですが、本当に美しく、緑の色合いや細部にまで魅力的な作品でした。
今回、イギリスのテート美術館が所蔵するラファエル前派72点が展覧されたのですが、どれも見ごたえのある作品ばかりでした。
ラファエロ以前の初期ルネサンス芸術に霊感源を求めようとした彼らは、イギリスの近代美術に新しい道をひらきました。
女性の表情や空間構成など、現代性も感じさせました。

◆ラファエル前派展/開催中~4月6日/森アーツセンターギャラリー

ポンピドゥ・センター・コレクション

2014年02月03日 | 展覧会
ポンピドゥー・センターのコレクション展は、これまで何度も紹介されてきましたが、本展ほど現代美術に特化した例は少ないでしょう。
出品作家の多くはヴェネツィア・ビエンナーレなど国際舞台で活躍する注目作家ばかり、作品のほとんどは21世紀に入って制作されたものばかりです。
さらに注目する点は、、これらの作品が「国立近代美術館友の会」が立ち上げた「現代美術プロジェクト」によって収蔵されたものだということです。
会場では、掲載のエルネスト・ネトをはじめとする19人のさっかによる25点の作品を、ダニエル・ビュレンやゲルハルト・リヒターといった現代美術の巨匠たちの作品も並列され、見ごたえの展覧の内容となっています。

◆ポンピドゥー・センター・コレクション/開催中~3月23日/兵庫県立美術館