坂野直子の美術批評ダイアリー

美術ジャーナリスト坂野直子(ばんのなおこ)が展覧会、個展を実際に見て批評していきます。

仏像、仏画から浮世絵と日本伝統美術展も彩り豊か

2011年01月30日 | 展覧会
今年は日本美術も平安時代から江戸時代と幅広い展覧会が開催されます。4月から「写楽」展(東京国立博物館)では、役者絵で名をはせた写楽作品のほとんどすべての作品が一堂に。3月には「法然 生涯と美術」(京都国立博物館)法然上人八百回忌の特別展覧会ということで法然上人にまつわるゆかりの絵図など貴重な作品を網羅。仏像女子という言葉も生まれるほど若い人も仏像に癒しを求める人が多くなっているようですが、7月から開催の「空海と密教美術」展(東京国立博物館)、「運慶ー中世密教と鎌倉幕府」も仏教美術ファンなら見逃せない内容となっています。
・掲載作品は、尾形光琳 国宝「燕子花図」(かきつばたず)江戸時代 18世紀 根津美術館蔵
日本絵画史上有数の名品であり、現代でも斬新なデザイン性を感じさせます。この作品は光琳が伊勢物語の「八橋」の場面を題材に、六曲一双の金地の屏風に、群生するカキツバタのみで構成する構図で描きました。その10年後、同じテーマで屏風絵を制作します。それがニューヨーク、メトロポリタン美術館に収蔵されている「八橋図」です。この作品では、八橋をイメージする橋をモチーフとともにカキツバタが描かれています。光琳の画風展開にどのような心情の変化があったのでしょうか。
この両大作が再会する展覧会がこの春、根津美術館で実現します。

◆KORIN展「燕子花図」とメトロポリタン美術館所蔵「八橋図」/4月16日~5月15日/根津美術館

レオナール・フジタ 私のパリ、私のアトリエ

2011年01月29日 | 展覧会
パスキンやキスリングなど東ヨーロッパを中心にパリに若い画家たちが集まり、個性豊かな芸術の華を咲かせたエコール・ド・パリ。1920年代の最盛期には、レオナール・フジタも異邦人画家として活躍、乳白色の画肌と黒い細い描線の輪郭線の少女や裸婦、自画像などで評価を高めピカソなどに認められ、その時代を代表する日本人画家となったのはよく知られているところです。
フジタの60年にも及ぶ画業の中で、これまでのイメージを超えた幅広い創作活動の分野に焦点があてられた展覧会が開催されます。本展では、油彩画、水彩画以外に、版画、挿絵本の制作や書籍の装丁、室内装飾など多岐にわたりフジタワールドを展開しています。ポーラ美術館では職人に扮した子供をユーモラスに描いた晩年のタイル画の連作など幅広い作品群66点を収蔵。
バラエティに富んだフジタ作品の他に、〈私のアトリエ〉という副題にあるように、数々の記録写真で有名な写真家、土門拳が当時のフジタのアトリエを訪問し、制作の様子をカメラでとらえました。描画手法につながるさまざまな画材、道具類なども撮影され、それらの写真も公開されることで独自の表現の魅力にせまります。

◆レオナール・フジタ 私のパリ、私のアトリエ/3月19日~9月4日/ポーラ美術館(箱根)

フェルメールからのラブレター展

2011年01月28日 | 展覧会
何とも粋なタイトルの展覧会です。17世紀オランダを代表するフェルメールの展覧会第2弾は、女性を主人公とした手紙にまつわる物語です。今ではメールでのやりとりが日常となり、恋の告白も。この時代のオランダでは郵便制度も発展し恋人たちのラブレターが行き来したようです。フェルメールは手紙をテーマに6点の作品を描きました。本展ではその内の3点が展覧されるということで画期的な内容となっています。
・掲載作品 ヨハネス・フェルメール「手紙を読む青衣の女」アムステルダム国立美術館蔵
©Rijksmuseum,Amsterdam

この作品は手紙をテーマにした作品の中でも代表作とされています。穏やかな光を浴びながら手紙をしっかりと両手につかみ読みふける女性。画家の妻とも言われるこの女性は印象的な青の衣服をまとっています。青の絵の具の顔料は当時は高価であったためフェルメール作品の中でも要所々に使用され画家の思い入れが強いように思います。
陰影礼讃に例えられるように私たちの美意識の中には住居に上手に影の要素を取り入れてきました。そしてフェルメール作品に一貫する空間のほどよい間(ま)の表現によって(余分なものを排除した装飾)余韻のある作品へと深まっています。

◆フェルメールからのラブレター展/6月25日~10月16日/京都市美術館


ブリヂストン美術館所蔵展示:なぜ、これが「傑作」なの?

2011年01月26日 | 展覧会
なぜ、これが傑作なの?という問いは、近代美術以降20世紀初頭から抽象表現へと移っていく作品の中には、どなたも感じられたことがあるのではないでしょうか。写実表現や具象表現ですと、〈これは良く描けている〉とか描く対象にどこまでせまっているかが基準になったりしますので、(写実表現といっても絵画では光と影の微妙な演出で現実とは異なる奥行きの世界が広がっているのですが)分かりやすいという点があるかもしれません。
本展は、近代美術の優品のコレクションで名高いブリヂストン美術館のいわゆる常設展示のシリーズになるのですが、展覧会のタイトルによって、一つの絵画の物語が開けそうです。
・掲載作品ポール・セザンヌ「サント=ヴィクトワール山とシャトー・ノワール」1904-06年
セザンヌの故郷、エクスにそびえたつエクス=アン=プロヴァンスはその村の象徴ともいえる山であり、故郷に引きこもったセザンヌは、この山をモチーフに連作に取りかかります。印象派から影響を受けて出発したセザンヌは、明るい色を画面に大きな筆触で塗りこんでいきます。眼前にそびえる山の稜線は特徴をなす形を残していますが、空のタッチの境界は曖昧です。濃い緑の樹林の森から見える古城は細部が省かれ面として表わされています。この作品はシリーズの最晩年に制作されたもので、画面の奥行きは消され平坦な画面として構成されています。印象派のシスレーの風景作品などと比較すると明らかでしょう。
この作品では、対象のモチーフを忠実に写していくのではなく、画面全体の調子や、その大自然の骨格、リズムを画面構成に取り入れていくのが分かります。構築的な力強さを目指したセザンヌの実験的な姿勢があらわれています。
他には、ピカソの「腕をくむサルタンバンク」、藤島武二、クレー、マネ、マティスなど近代美術の傑作12点が選択され、どのように画期的な作品であったかを解説していきます。
他に、150点が併せて展示され大きな流れを構成しています。

◆所蔵展示:なぜ、これが傑作なの?/開催中~4月16日/ブリヂストン美術館(東京・丸の内)

プーシキン美術館展ープッサンカラマティスまで

2011年01月25日 | 展覧会
フェルメールの写実画の正統派からルノワール作品に目を転じると、一挙に色調は明るく闊達な筆のタッチが画面に軽快に走っています。フェルメールの質感豊かな絵画世界から200年を経て印象派の革命は、まさに色調の明るさとパステルトーンにあったのです。
・掲載作品 ピエール=オーギュスト・ルノワール「ジャンヌ・サマリーの肖像」1877年
©The State Pushikin Museum of Fine Arts,Moscow

パリのコメディー・フランセーズの花形女優ジャンヌ・サマリー。1870年代からルノワールのお気に入りのモデルとなり、この作品ではバラ色の暖色を主体にした華やかな肖像画が生まれました。モスクワのプーシキン美術館は、所蔵作品50万点をこえる世界規模の美術館であり、フランス美術の宝庫として知られています。
17世紀に古典主義を確立したプッサン、18世紀ロココを代表するブーシェ、19世紀のドラクロワ、アングル、そして20世紀の巨匠ピカソ、マティスまで、300年のフランス美術史の脈動を伝えます。

◆プーシキン美術館展 フランス絵画300年/4月2日~6月26日/横浜美術館
 愛知県美術館/7月8日~9月4日 神戸市立博物館/9月17日~12月4日     

フェルメール「地理学者」とオランダ・フランドル絵画展

2011年01月24日 | 展覧会
オランダ17世紀を代表するフェルメールのの大型展覧会が今年も開催されることが話題になっています。
生涯30数点しか作品を残さなかった巨匠は、海外に貸し出されることも貴重ですが、日本人にとってはその静謐な光を映した空間意識が親しみがもてるのも人気の一つかと思います。
17世紀オランダは世界でいち早く市民社会が成立し、世界貿易の成功で富裕な市民層が教会や王侯貴族に代わり、芸術文化の担い手となっていきました。これまで聖書や神話を題材とした宮廷画とは異なり、彼らの趣向を反映した風景画や風俗画、静物画が好まれるようになり、新しい絵画のジャンルとして発展を遂げました。
・掲載作品 ヨハネス・フェルメール「地理学者」1669年 シュテーデル美術館蔵
本展の華となる「地理学者」は、フェルメール作品群の中でも当時の時代背景を伝える傑作で、右側の壁にはヨーロッパの海図が掛けられ、背景の棚の上には地球儀が描きこまれています。右手にコンパスを持ったこの学者は誰なのか? 顕微鏡の発明にも寄与した有名な科学者とされています。窓から差し込む光によって手元が映し出されわれわれの視点を誘導していきます。
空間の隅々まで緻密に描きこまれ、飾りのない人物表現に時をこえた実在感を浮き彫りにしています。

◆フェルメール「地理学者」とオランダ・フランドル絵画展/3月3日~5月22日/Bunkamuraザ・ミュージアム
  6月11日~8月28日/豊田市美術館

マリー=アントワネットの画家 ヴィジェ・ルブラン展

2011年01月23日 | 展覧会
マリー=アントワネットの肖像画を多く描いたことで知られる宮廷画家ヴィジェ・ルブラン。18世紀ロココ時代の宮廷画家として手腕を発揮した女性画家。その肖像画が、昨年秋に損保ジャパン東郷青児美術館で開催された「ウフィッツィ美術館 自画像ゴレクション」展に出品され、まだあどけなさの残る可憐な女性が筆を持つ姿が少し意外で印象的に残っているのを覚えています。
ルブランの本格的な展覧会がこの春、三菱一号館美術館で開催されるということでマリー=アントワネットを中心にした貴婦人の華麗な肖像画の数々が展覧されます。併せて同時代の女性画家達の作品も展覧される予定です。
当時は宮廷画家と言えば肖像画家であり、アカデミーで培ったその卓抜とした技量が支えとなっています。時代はフランス革命の前後、ルブランの人生もその激動の社会の波に翻弄されていきます。18世紀に最初に活躍した女性画家でマリー=アントワネットの悲劇の終末とともに、一人娘を抱え、外国での亡命を余儀なくされます。海外においても彼女の作品の評価は衰えることはありませんでした。ルブランの肖像画は手や首筋などの細かい部分の繊細な表現にあります。ロココの優雅さと美しさを華麗なテクニックで堪能できます。
・掲載作品 エリザベト・ルイーズ・ヴィジェ・ルブラン「自画像」エルミタージュ美術館蔵

◆「ヴィジェ・ルブラン展」/3月1日~5月8日/三菱一号館美術館(丸の内)
              

六本木アートナイト2011

2011年01月22日 | 展覧会
『美術の窓』で連載されている野見山暁治さんのエッセイ「アトリエ日記」。昨年90歳を迎えられた画家の飾りのない率直な言葉が綴られた日々の出来事なのですが、颯爽とした気風が感じられ今なお旺盛に創作を続ける画家の自然体そのものとなっています。バンコクに行かれたりと国内外を行くフットワークは本当に人間力を感じさせます。野見山さんの大規模な個展が今年秋にブリヂストン美術館他で開催されます。

春を彩る六本木の一夜限りのアートイベント。今年第3回を迎える「六本木アートナイト」は、森美術館、国立新美術館、サントリー美術館のアートトライアングルを中心に六本木ヒルズ、東京ミッドタウンの商業施設で、音楽やパフォーマンスを含めたアートの祭典が展開されます。昨年は70万人が楽しんだというこのイベント。今年は世界的に活躍する草間彌生さんが新作を披露するということでさらに盛り上がりそうです。

◆六本木アートナイト2011/3月26日~27日/六本木周辺 www.roppngiartnight.com


身近になったアートフェア G-tokyo2011

2011年01月21日 | 展覧会
枝をぴーんと張った木立が晴れた空に向かって伸びています。冬の木立は青葉茂れる頃とまた違った力強い生命感を感じさせます。
春に向けて徐々にアートイベントも始動。昨年から始まった〈G-tokyo2011〉(森アーツセンターギャラリー・六本木)は、世界に発信する15のトップギャラリーが集結。会場は各ブースに区切られ、個展形式やグループ展などで各ギャラリー一押しのアーティストの作品が身近に鑑賞できます。現代アートというと、分かりにくいという面があるかと思いますが、直感でこの作品面白い!と思われたら、オーナーのギャラリストに声をかけて聞いてみるチャンスです。昨年も会場内は熱気がありましたが、今年はさらに2ギャラリーが加わり、会期も9日間と延長されました。小山登美夫ギャラリー、ミヅマアートギャラリー他グローバルマーケットに参画しているギャラリーが一堂に会して行われ、アクセスも六本木ということで通常は全部はなかなか見て回れないこともありアートの最前線に触れる絶好の機会となります。アートフェアはその場で作品を買うことができるチャンスであり、気になっている作家の資料を集めるのにも有効です。
掲載作品は、参加ギャラリーのケンジタキギャラリーに出展するアルフレッド・ジャー「Untitled(Water)」1990年
©Alfredo JAAR Courtesy of Kenji Taki Gallery
ジャーは、チリ生まれのNY在住の作家で、3つのライトボックスの光によって浮かび上がる青い海の写真とベトナム難民のポートレイトなどのインスタレーション作品です。
会場の多様な作品を通して現代の空気に触れるのもいいと思います。

◆G-tokyo 2011 /2月19日~27日/森アーツセンターギャラリー

VOCA展2011 VOCA賞決定!

2011年01月19日 | 展覧会
1994年から毎年開催されてきた「VOCA」(ヴォーカ)展は、40歳以下の平面作品を制作しているアーティストを対象に、美術館の学芸員や美術評論家などから推薦された36名の中から、その年度のVOCA賞とVOCA奨励賞が決定されます。これまで村上隆、会田誠、やなぎみわ他(敬称略)の世界的に活躍するアーティストが受賞し、第一線へと踊りでてきました。
2011年のVOCA賞は、中山玲佳さん(1974年~、大阪生まれ)の「或る惑星」(掲載作品)。横4メートル弱のパネル4枚からの構成による横長の作品です。左側に見られるオオカミの頭の中心にカラフルな線が入っているのが印象的で、闇の中に鹿や羊、鳥が潜んでいます。白く浮かぶ花の傍には色鮮やかな蛇がどくろを巻き、現代では失いつつある原生的生命の力強さを感じさせます。
5年ほど前にメキシコ留学の経験があり、現地の民族的なカラフルな織物や壁画の大作にも触発され自己の絵画の栄養としてきたようです。現代のサファリともいえる探究の成果の今後も楽しみです。
月刊美術2月号・特集〈賞を獲るには理由がある〉を参考にさせていただきました。

◆VOCA展2011/3月14日~30日/上野の森美術館