坂野直子の美術批評ダイアリー

美術ジャーナリスト坂野直子(ばんのなおこ)が展覧会、個展を実際に見て批評していきます。

アート散歩が待ち遠しい!?

2010年10月31日 | アート全般
台風14号は関東各地に大雨をもたらしましたが、今日もどんよりとした空で、この土、日に出かけようと計画していた人もちょっと足踏みでしょうか。私は金曜日に国立新美術館(六本木)に行ってきまして、アートライブラリーで連載記事の料を集めてきました。この日はアート散策には心地よい日で、館内も大勢の観客の方々で賑やかでした。その日は「日展」の初日で、ゴッホ展も開催中ということで、観客の年代も幅広く、夕方にはカフェで談笑する様子は確かにこの地がアートのスポットとして定着した感じを受けました。ウエーヴする美術館の正面の窓越しからは気持ちの良い光が差し込んでいました。=写真
展覧会記事とは別に、Art Journal誌で「現代美術の流れ」を連載していまして、前回は80年代、ドイツ・ニューペインティングのアンゼルム・キーファーを取り上げました。年代的にはバックするのですが、今回は70年代のイタリアの重要な動向である〈アルテ・ポーヴェラ〉のルチアーノ・ファブロを取り上げます。ファブロは、日常的な既成の物質などを用い、ミニマルな形態と最小限の制作行為で、通常のわれわれの知覚や認識に「これはアートであるのか?アートの規定はどのような範疇まで広げられか」という実験的な運動の代表的なアーティストの一人です。
今、アートは社会的な提言を推し進める方向から、個人的なたとえば、ケイタイ小説のような個々の社会との対話が繰り広げられています。従来の素材を使ってまるで新しい世界観を表現する若い世代。〈アルテ・ポーヴェラ〉は現代へと自由な表現への扉を開いた一つの起点となったアートの動向です。



若々しい息吹 第19回奨学生美術展

2010年10月23日 | 展覧会
今日はすがすがしい秋日和で、夜空に満月が輝いています。お月見のシーズンになりました。
今月27日の読売の朝刊(都内版)に掲載されます〈芸術の秋 美術館散歩〉の特集の記事に少し関わりました。そこで私が紹介させて頂いたのは佐藤美術館で今日から開催されている奨学生美術展です。今年で19回目を迎えました。東京芸術大学をはじめ全国17大学の教授の推薦による将来有望な学生による新作の美術展です。日本画、洋画、版画で構成されています。佐藤美術館は新人の発表の場を提供するなど新人育成に力を注いできました。
掲載作品は、武田祐子さんの「蜜月」です。日本画の伝統の花鳥画の系統を受け継ぎつつ、色構成やモチーフに新鮮な彩りを与えています。一瞬見て若々しい息吹を伝えます。

●第19回奨学生美術展/佐藤美術館(新宿区)/Tel 03-3358-6021

モネとジヴェルニーの画家たち展

2010年10月18日 | 展覧会
今年の美術展は、ルノワールから始まりモネで終わるまさに印象派展の年と言えるでしょう。現在は国立新美術館で、ゴッホ展が開催中で、パリのオルセー美術館が大改修に伴い、これまでにない規模のオルセー美術館展が開催されたのが圧巻でした。
印象派はなぜ変わらぬ人気を保っているのでしょう。近代の市民階級の華やかな生活から産業化への反発から自然への回帰など、今われわれが感じている現代社会の断面を作品の中に見出すこともできます。
印象派は技術の革新の時代に生まれた画面上の視覚の新たな扉でした。現代で言うならば電子化による書籍やビジュアルの視覚の変化にも匹敵するのかも知れません。
今年、最後の印象派展を飾るのは「モネとジヴェルニーの画家たち」展です。
モネの睡蓮の連作をはじめ、40歳を過ぎてからの「積みわら」「ポプラ並木」の連作など、セーヌ川沿いの小村、ジヴェルニーに滞在し、光そのものへ集中していったモネの画業の集大成が展示されます。モネの評判はアメリカの雑誌などでも紹介され、20世紀初頭には、日本人も含めて多くのアメリカ画家が、この地に滞在し印象派を学びました。アメリカ印象派の流れを創り出した成果がこの展覧会で紹介されます。アメリカ画家たちは戸外で制作する色彩分割の描法を学びますが、風景にとどまらず、そこで暮らす人々を生き生きと描写しました。

●「モネとジヴェルニーの画家たち」
  Bunkamuraザ・ミュージアム/12月7日~2月17日

ぐるっとパス利用で、もう一つのアートとらいあんぐる

2010年10月16日 | アート全般
今月の27日の読売新聞・朝刊(東京地区)になるのですが、〈秋の東京散歩〉という東京の美術館特集記事が出ます。これは〈ぐるっとパス〉という東京の美術館、博物館共通入場券と割引券がついたチケットブックで都内70の施設で利用できる企画と一体となっています。今年で3回目となるそうですから、ご利用になられた方もいらっしゃると思います。
この美術館案内の記事に私が少し関わっていまして、先日虎ノ門のホテルオークラにほど近い智(とも)美術館に取材を兼ねて行ってきました。近・現代の陶磁器専門美術館で、八木一夫、加茂田章二など陶芸通の方ならご存じのお名前で日本を代表する陶芸家の方から現代作家を育てる大賞展なども開催されています。
穏やかなライティングの演出で一つひとつの作品を光の交差の中に土の肌合いの変化を見せていました。ここのもう一つの特徴は、ガラス越しに庭園を望むレストランも含めってゆったりとした敷地にあることで、都心にあって本当に贅沢な感じがしました。
この地域ではホテルオークラに隣接する大倉集古館、泉屋博古館と日本、東洋美術の優品を集めた3館が徒歩圏にあり、〈アートのとらいあんぐる>として、より親しんでもらおうと企画中だそうです。
六本木の国立新美術館、森美術館、サントリー美術館のトライアングル構想とはまた一味違った、和のとらいあんぐるをこの秋、ゆったりと味わってみるのもいいかもしれません。

セーヌの流れに沿って旅する展覧会

2010年10月14日 | 展覧会
パリを東西に流れるセーヌ川。街中の美しい景色だけでなく上流から支流まで変化に富んだ景色は印象派ら近代美術画家のテーマに多く取り上げられてきました。
この展覧会では、ジヴェルニーなどセーヌ河畔の5か所を設定し、そこを描いた作品の数々を展覧します。モネ、ピサロ、シスレー他グレーに滞在した浅井忠、黒田清輝などの日本人画家も見どころの一つです。掲載画像は、シスレーのサンマルタンを描いた作品で本展の出品ではないのですが、シスレーはとりわけ川沿いの風景を好み、遠近法を取り入れた構図で風光のきらめきを描きました。
セーヌを旅するような心地よさに誘われる内容となっています。

●セーヌの流れに沿ってー印象派と日本人画家たちの旅
 ブリヂストン美術館/10月30日~12月23日 
 ひろしま美術館/2011年1月3日~2月27日

仏教伝来の道 平山郁夫と文化財保護

2010年10月01日 | 展覧会
日本画家の平山郁夫さんは、シルクロードシリーズで人気を博し、最も広く知られる代表的な日本画家として活躍されましたが、昨年12月に79歳でお亡くなりになりました。その1年くらい前から体調を崩され、要職を退かれたりで、美術界に激震が走ったことが思い起こされます。その代表的なシルクロードの作品は、平山さんの壮大な画業の一断面であり、仏教伝来の道を辿るという大きな根幹がありました。
来年1月中旬から東京国立博物館で開催される本展は、平成12年に薬師寺玄奘三蔵院に奉納された「大唐西域壁画」全13面、全長37メートルの壁画が展覧されることが大きな特徴です。もう一つは、長年にわたって文化遺産の保護に尽力され、インドから中国を経て日本に伝来した仏教の道筋をたどり関連遺跡を旅する中で制作された作品や、ガンダーラやバーミヤンの美術品などを展示しかつてこの地から諸外国に持ち出された美術品を保護・公開して文化財の重要性を訴える平和への祈りが込められていることです。
・掲載画像は、記者会見で本展で展覧される仏教遺跡の説明をされる東京国立博物館の企画部長の様子です。
タリバーンによるバーミヤン大石仏破壊に抗議するその前後に描かれた作品など今日的なテーマが盛り込まれています。
●「仏教伝来の道 平山郁夫と文化財保護」/東京国立博物館
  2011年1月18日~3月6日