坂野直子の美術批評ダイアリー

美術ジャーナリスト坂野直子(ばんのなおこ)が展覧会、個展を実際に見て批評していきます。

熊本県立美術館に「黒き猫」あり

2010年05月27日 | アート全般
宮崎県から熊本へと目を移すと、細川家代々の当主のコレクションを保有する永青文庫があり、中でもこの菱田春草「黒き猫」(1910年)は、教科書や切手などにも登場する名品として知られています。文学界では漱石の猫が明治時代の代表であれば、絵画では春草の猫が存在感を放っています。
菱田春草は日本美術院の創設に尽力し、横山大観らとともに輪郭線を描かない「朦朧体」の技法によって、日本画改革を推し進めました。柏の幹の上にうずくまり、こちらをじっと見つめる黒猫。春草は、第4回文展(旧日展)に当初の予定を変更し窮余の策としてこの作品を出品したといわれます。伝統日本画の装飾感と黒猫のしゃれた配置にモダンが漂う作品です。