坂野直子の美術批評ダイアリー

美術ジャーナリスト坂野直子(ばんのなおこ)が展覧会、個展を実際に見て批評していきます。

風景画のコローではなく魅惑の女性像

2010年05月20日 | アート全般
肖像画は長い歴史がありますが、その中でも1点といわれると、イタリア・ルネサンス期のダ・ヴィンチの「モナ・リザ」と応える方が多いでしょう。あの神秘の微笑みは時代を超えて魅惑の魔力があるようです。解剖学的に表情の動きとフスマートと呼ばれるダ・ヴィンチ特有の空気遠近法の技法の完璧さは比類なきものでしょう。近代へと目をやると、印象派にも影響を与えた風景画家コローがいます。田園風景の光の感覚、筆の筆触、即興性をもって自然の風光をとらえた画家ですが、女性像も多く残しています。「真珠の女」(1867~70/ルーヴル美術館)は、モナ・リザ風のポーズをとっていますが、貴族的ではなくぐっと親近感がわきます。若い女性が木の葉の冠を頭につけ、そのひと葉が額に影を落としています。それを人々は真珠だと思ったのです。それがタイトルになっているわけですが、コローの影は真珠に値するというほど、この作品の深い精神性を讃えているのです。

東京都美術館の大改修が始まる

2010年05月20日 | アート全般
長年の懸案であった東京都美術館(上野公園)がこの4月から2年がかりの大改修工事に入りました。開館から35年、設備面での老朽化による改修問題は10年以上前から浮上していましたが、全国の公募展団体の歴史を刻んできた美術館であり、毎年開催される公募展の移転先が各公募団体展の頭の痛いところでした。国立新美術館(六本木)の開館とともに日展、二科、二紀、院展なども新しい会場へ移転。観客の方々のにぎわいもそのまま移動したような雰囲気になっています。新しい東京都美術館の構想は、赤れんが風の外観の前川國男設計の佇まいを残し(上野公園のシンボルでもありますから)、外観の設計は壊さずに企画展示室を含む内部の構造をリニューアルする方針ということで建築の保存上も理にかなっているように思います。もう少しこの話題が一般の方々にも普及していくといいのですが。
・東京都リニューアル準備室 TEL 03-5806-3726