坂野直子の美術批評ダイアリー

美術ジャーナリスト坂野直子(ばんのなおこ)が展覧会、個展を実際に見て批評していきます。

アートフェア東京2011 作品をより身近に②

2011年07月31日 | 展覧会
国内外の約130軒のトップギャラリーが集結して開催されている国内最大のアートフェアは、3日間の会期を終えて今日終了します。日頃は関西の有力ギャラリーの企画展などは見て回れない実情ですが、このような機会に大阪や京都のアートシーンの前線を見れる喜びもあります。
各ブースには、出品アーティストも顔を見せ、素材や表現方法などを実際に聞いたりできるチャンスでもあります。ある彫刻家の現代のバベルの塔を思わせる作品の前では、「この作品は陶土の焼き物のように見えるけど、ガラスでできているんですよ」「この柔らかい部分はガラスでないと表現できないですよね」などと気さくに会話している様子も。
アートフェアは気に入って作品があれば、その場で売買の直接交渉ができる場、掲載の写真は、西村画廊(日本橋)のブースで舟越桂さんのドローイング作品の前で外国人の方がギャラリーのスタッフの方の説明に見入っている様子です。
直観と客観的なデータを加味しながら、気に入った作品との出合いがあれば盛り上がっていきます。
アートフェアは各地で広がりを見せていて、ホテルとのタイアップで作品を飾って実際のインテリアの一部として鑑賞できたりしますので、興味のある方は会期が短いですから、アートフェアで検索して情報収集してみてください。

◆アートフェア東京2011/開催中~7月31日/東京国際フォーラム(有楽町)午後5時まで






アートフェア東京2011 次世代のアートシーン盛りだくさん① 

2011年07月29日 | 展覧会
東日本大震災により延期になっていました国内最大の〈アートフェア東京2011〉が今年6回目を迎え、今日から3日間大規模に開催されています。国内外から約130軒のトップギャラリーが参加し、古美術・工芸品・洋画、そして現代アートまで、時代を超えた幅広いジャンルの作品数千点が展示販売されます。
今回は東京国際フォーラムのロビーギャラリーにおいて、復興支援のプラットフォームとなる関連企画も開催されていました。
海外からの出展は、ソウル、北京、ニューデリー、パリなど10都市からの出展で、3日間で五万人の入場者数が見込まれています。これまで10億円規模の収支を推移していますが今年はどうでしょうか。
会場では、各ブースに仕切られたギャラリーがそれぞれのアイコンとなるアーティストの作品を個性豊かに展示。宝石箱をひっくり返したようなきら星のアートを楽しみました。
古美術の陶器のブースの隣に最前線のフィギュアの作品などが設置されるシチュエーションは、アートフェアならではのマッチングで、水準の高い作品は時代を超えて共鳴しあう何かがあるように思います。
会場で目を引くのは、フィギュア的な流れとフェアリーなファンタジアの絵画の流れで、動物をさまざまにアレンジしたテーマが多く見られました。
・会場内のギャラリーのコーナーですが、壁面の絵画は、有井カヅキさん(1979年~)の〈さびしん坊 少女をすくふ図〉ギャラリー紅屋。(右作品)幕末の浮世絵師、国芳を思わせる大胆な構図と大海の波に浮かぶ少女などをアニメチックな明暗法と精緻なタッチで描きこみ、不思議ワールドに引き込みます。従来の日本画的な手法とSF的な映像的なタッチの混交も一つの流れであると感じました。

◆アートフェア東京2011/開催中~7月31日/東京国際フォーラム(有楽町)

生誕100年記念 瑛九展 多様な画業の回顧展

2011年07月27日 | 展覧会
油彩、水彩、版画、フォトデッサンなど、画家・瑛九が手掛けた絵画世界は多岐にわたります。瑛九は1911年(明治44年)に宮崎に生まれ、1951年に埼玉の浦和に転居した後も、たびたび帰郷するなど、宮崎は縁の深い土地で、生誕百年の節目の年に開催される同展は、宮崎県立美術館の核となっている瑛九の作品群と全国の収蔵状況などの調査を踏まえ、また埼玉県立近代美術館の瑛九の収蔵作品、資料などを併せて戦前、戦後のデモクラシーの魂を貫いた画家の全貌に迫っています。
瑛九の作品の中に「フォトデッサン」というのがあり、それは彼の独自の制作手法によるものです。マン・レイやモホリ=ナジが用いたフォトグラムは、カメラを用いずに、印画紙の上に直接物を置き、光を当てて像をえる技法ですが、瑛九はその影響をうけつつも、そこに人の形に切った型紙を印画紙に置いたり、透過性のある素材に描画を行い、それを転写するなど絵画的なイメージを付与していきました。
1951年に浦和に転居してからは版画に打ち込み、晩年は点描による油彩画のシリーズへと進みます。
・掲載作品は、「黄色い花」1958年 愛知県美術館蔵です。同時代に岡本太郎がいて、当時のキュビスムや、アンフォルメルなどの線と色彩が自律した抽象化の時代の波を自己の絵画へと応用していきます。
48歳という若さで亡くなった画家の最晩年に行きついた試みは大小の点を色彩鮮やかに無数に描くということでした。ミクロ的なまたはマクロ的な大局的なイメージのヴィジョンを映し出しています。

◆生誕100年記念 瑛九展/開催中~8月28日/宮崎県立美術館
 9月10日~11月6日/埼玉県立近代美術館 ・うらわ美術館

曽谷朝絵展-Swim-

2011年07月26日 | 展覧会
時間の移ろいにより光の変幻を映し出したのは、印象派の画家たちです。その一瞬の光の透明感やきらきらと光る木漏れ日、自然だけでなく、現代の私たちの周りにはさまざまなイリュミネーションの光の明滅に囲まれていますが、風景の部分的なものとして見過ごされがちです。
光を色彩で分解したような緻密なグラデーションと光のプリズム。曽根朝絵さんの描きだすダイナミックで透明感のある色彩の波動は、私たちが触れたことのある感触であり、その輝きを絵画にとどめています。
2002年に「VOCA展」において〈Bathtub〉の作品でVOCA賞を受賞。画面に大きくバスタブを描き、浴室のウエットな感触をたゆたうような色彩の波で描きだしました。その癒し的な感覚から、〈Circles〉、〈Airport〉などのシリーズへとつづき、色彩もそれまでの青を基調とするグラデーションから赤や黄色の原色の鮮やかなビートが利いたものへと進展しています。
2010年、資生堂ギャラリーでの「鳴る音」では、ビニールのカッティングシートによるインスタレーションで、色彩の和音を会場に響かせました。
長野県の小布施で開催される本展では、これまでのシリーズや新作を含め、当会場の空間に合わせたインスタレーションの作品も見どころです。軽井沢から車で1時間半、避暑地からこの歴史の町に行かれるときには、ぜひご覧ください。

◆曽谷朝絵展ーSwimー/7月30日~9月20日/おぶせミュージアム・中島千波館
 ・曽谷さんの作品は「カフェ・イン・水戸」水戸芸術館(茨城)/7月30日~10月16日
  「Sparkling Days」横浜市民ギャラリー(神奈川)9月30日~ などにも出品されます。

金沢健一展 出発点としての鉄 1982-2011

2011年07月25日 | 展覧会
鉄の彫刻家である金沢健一さん(1956~)の鉄板を溶断した〈音のかけら〉とワークショップ展は、2006年から川越市立美術館で夏の期間に開催されてきました。ワークショップでは小学生が参加し、鉄の角柱をいくつかの長さに溶断し、いろんな音色をだしてみるコーナーに、鉄の素材のあらたな音色の響きに子供たちは興味津津。
このワークショップの積み重ねは、金沢さんのライフワークとなって、1年ごとに課題を変え、子供たちの反応や方法を記録した研究ノートへと進められています。床に置かれた溶断された鉄板のかけらをマリンバのような棒で叩きながら自由に音をだしていく楽しさがあります。
鉄の彫刻というと、鉄でつくられた具体的な物のかたちを思い浮かべるかもしれませんが、作者は、鉄という素材の本質的な美しさを見出し、加工を最小限にとどめ、幾何学的な構成の作品を発表してきました。
掲載作品は、初期のコンポジションのシリーズの一つです。空間のモンドリアン的抽象のバランスで鉄の立体が構成されています。空間における疎と密、主体と客体の反転を思い起こさせるインスタレーション的構成も展開しています。
鉄の作品の豊かな表情を追求してきた約30年に及ぶ仕事を、代表的な立体作品で紹介していきます。

◆金沢健一展/7月30日~9月25日/川越市立美術館

礒江毅展 生の深淵

2011年07月23日 | 展覧会
マドリード・リアリズムの俊英画家として高い評価を受けた礒江毅さん(1954~2007)の初期から絶作まで代表作約80点による本格的な回顧展に行ってきました。色彩を抑えたモノクロームの諧調による身近な静物や人物像の大作が並び、作品の一つひとつには静かな時間の流れが刻まれていました。
1974年19歳の礒江は、国内の美術学校に進学するのではなく、スペインのマドリードで本場の油彩の修業の道に励みます。国立美術学校の夜間のデッサン教室で、日々モデルを前にクロッキーと鉛筆画を重ねていきます。今回は修業時代のデッサン群も資料として展示されていました。プラド美術館ではデューラーの模写などフランドル絵画から技法を学んでいきます。
鳥の巣やアトリエに置かれた誇りをかぶった瓶やカリフラワー、皿に置かれた野菜や皮がはがされた鶉や兎など、日常の生活の断片とも言える対象に深い眼差しを向けていきます。
モチーフは特別に用意されたものではなく、構成的な絶妙な手腕が表現の求心力を高めています。画面の空間への配慮です。黒やグレーの微妙な空間をつくりだすグラデーションは、東洋的な余白の間のリズムや余韻を映し出します。
礒江にとって、対象はすべて等価であるように客観的視点で描きこみ、超絶技巧の写実技法で完璧な密度感を高めています。
掲載作品は、「深い眠り」1994-95年で、鉛筆と水彩、アクリル、墨が使われています。構図的にはアンドリュー・ワイエスの「黒いベルベット」と近いものがあり、オマージュ的な作品だと言われています。
白い裸体を横たえて眠る女性を漠とした空間にとらえています。その美しさとともに生のリアリズムが心に訴えてきます。

◆礒江毅=グスタボ・イソエ/開催中~10月2日・練馬区立美術館  10月22日~12月18日・奈良県立美術館

水戸芸術館現代美術ギャラリーの再開

2011年07月20日 | 展覧会
東日本大震災により建物が損壊し、休館を余儀なくされていた水戸芸術館現代美術ギャラリーが7月30日から活動を再開されることは、本当に喜ばしいことです。現代アートの発信地としての企画力を押し出してきた当美術館ならではの多様なアートの全開です。
〈CAFE in Mito 2011-かかわりの色いろ〉は、再出発を願う展覧会です。2002年から同企画のシリーズが始まり、広くアートと接する機会がつくれるように観客の方々が参加できる作品やワークショップなども展開してきました。
アートにより人と人のつながりが生まれる場の創出の原点に戻り、同館と関わりのあるアーティスト40組余りの作品が集結。上田薫(敬称略、以下同)、OJUN、小林孝亘、ジュリアン・オピー、辰野登恵子、長島有里枝、奈良美智、山口晃他の出品。
掲載作品は、巨大な絵画パフォーマンスなどでも知られる淺井裕介さんの「生き物の中へ」2010年。
初日の7月30日には、現代美術ギャラリーの広場において、大巻伸嗣さんの100台のシャボン玉マシンを導入して、幻想的な光の風景をつくりだす「Memorial Rebirth-α」のパフォーマンスが行われます。

◆CAFE in Mito 2011ーかかわりの色いろ/7月30日~10月16日/水戸芸術館 現代美術ギャラリー
 大巻伸嗣さんのパフォーマンスは、午後2時からと午後5時半からです。

よみがえる神話と芸術 没後100年 青木繁展

2011年07月19日 | 展覧会
日本の近代洋画の発展期に異才を放った青木繁(1882-1911)。代表作「海の幸」や「わだつみのいろこの宮」は、教科書に掲載されるなどよく知られています。これまであまり展覧会が開かれなかったのは寡作だったということがあげられます。29歳の若さで亡くなった稀有な逸材はこれまであまりその全貌が明らかにされてきませんでした。
本展は、代表作を含む油彩60点を集め、素描類も併せて240点の展覧で、39年ぶりの本格的な回顧展となります。
青木繁は、伝説的な画家といわれますが、それは、自分の感情を同時代の他の画家よりストレートに絵画に表わすことができ、写実的な画風にロマン主義的傾向の要素が付け加えられている特徴があります。
青木家は代々久留米藩に仕えた武家の家系であり、17歳で絵の道に進むにあたり、父親の猛烈な反対にあいます。それを押し切って上京し、明治33年に東京美術学校に入学、同期生に熊谷守一らがいました。
3年後の黒田清輝らが率いる白馬会に初出品し、白馬賞を受賞し鮮烈なデビューを果たします。そのときに発表された作品の一つが、青木が愛読していた『古事記』を題材とした作品で、神話のシリーズの原点となります。
「海の幸」は、その翌年白馬会に出品した作品で、房総の布良に写生旅行したときに、その海岸で見た大漁陸揚げの光景を元に、虚構的なイマジネーションの力が魅力となっています。裸体画は当時センセーショナルで特別室に展示されたといいます。

◆青木繁展/開催中~9月4日/石橋財団ブリヂストン美術館(東京・八重洲)

100点の新作に挑戦する草間彌生

2011年07月18日 | 展覧会
16日にNHKBSプレミアムで放送された〈世界が私を待っている 草間彌生の疾走〉という番組では、世界のKUSAMAの初期の作品群から、現在スペイン、パリ、ロンドン、ニューヨークの主要な美術館を巡回中の大規模な個展へ向けての制作中の姿を追ったものでした。82歳になる彼女は、2m、3m四方もあるキャンバスに、1日で描ききるときもあるし、数日かかることもありますが、これまで実像が見えてこなかった草間のアーティストとしてのパッション、いや執念ともいえる情熱が伝わる内容でした。
あいちトリエンナーレや十和田現代美術館の新たな野外彫刻展示空間のArts Towada(8月29日まで)では水玉模様でラッピングした車やバスが走り、原色輝くカラフルな花や犬のオブジェは、キッチュなかわいさという今日的なポップカルチャーと連動して世界的にも注目が集まっています。
・掲載写真は、ドットの原点であるかぼちゃと現在進行中の作品シリーズがうまく対比されています。
草間彌生は松本市の裕福な種の卸商店の末娘として生まれ、小さいころから絵が好きでよく描いていました。京都に出て日本画を学びますが、その保守的な体質に合わず、1957年29歳でニューヨークに渡ります。ときは、ポロックらの抽象表現主義の旋風によりアーティストにとっては既成のない自由な表現ができる格好の舞台となります。
ハプニングなど前衛芸術家のパフォーマンスに参加するなど、当時のニューヨークですら女性アーティストはマイノリティで、草間は積極的に当時有名なアーティストと接触して吸収していきます。
草間の初期の作品は無限の網シリーズの反復と増殖の絵画でした。ネットペインティングからニューヨークのポップアートに見られるソフトスカルプチュアの作品は性的なテーマを追求していました。
ミニマルアートから三次元的なサーキットの絵画を展開したフランク・ステラは、草間の初期の絵画を所有していたアーティストの一人で、彼女のリズミカルなタッチに注目したそうです。
心のなかに溢れるイメージは、ピンクの上にグリーン、そして黒などのアクリル絵の具で人間の横顔や植物的な生命体のように画面に埋め尽くされていきます。その目の輝きの強さを物語るように画面にはフォルティシモのリズムがあふれています。

◆草間彌生展/開催中~9月18日・レイナ・ソフィア(マドリード)10月9日~12年1月9日・セントラル・ポンピドゥー(パリ)
 2月8日~5月20日・テート・モダン(ロンドン)6月~9月・ホイットニー美術館(ニューヨーク)
 草間彌生 十和田でうたう/開催中~8月29日/十和田市現代美術館・中心商店街

どうぶつへの眼差しー2展

2011年07月16日 | 展覧会
日本人は古くから、生きとし生けるものすべてに精霊が宿るというアニミズム的信仰や仏教観において、動物や鳥、虫など中国から渡ってきた花鳥画、仏教絵画では神々しい象や獅子が描かれてきました。
動物画というジャンルをこえて日本人の描くどうぶつたちへの眼差しは、西洋の歴史的な絵画の動物たちの存在とは少し異なるように思います。
俳壇の重鎮である深見けん二さんの『蝶に会ふ』のなかの〈蝶に会ひ人に会ひ又蝶に会ふ〉という句があります。蝶と人とはもはや同次元にあります。むしろ蝶に会うことを喜びとする達観の境地と言えるでしょう。そういう眼差しが日本人の自然観、小さな生命あるものへの思いがあるように思います。このような精神風土は日本画から現代美術まで生き生きとした表現を生み出してきました。
動物をテーマとした企画展として、近代日本画のコレクションで知られる山種美術館と海景を取り込んだ設計で魅力の横須賀美術館で開催されます。
・掲載作品は、よく知られた竹内栖鳳の「班猫」1924年(重要文化財)〈8月21日まで展示〉。毛づくろいをする猫がこちらに緑の印象的な目を向けている一瞬をとらえた作品。精妙な写実観と余白をたっぷりと空間に取り入れ、作者の対象への慈しみと存在感を放っています。同じ猫でも小林小径の「猫」(8月23日から展示)は、少し色っぽい女性像を思わせる作風。
山口華揚のひっそりとたたずむみみずくを描いた「木精」、速水御舟「炎舞」(8月21日まで展示)など、見どころの多い展示内容となっています。
一方、横須賀美術館では、幕末・明治から現代まで洋画、日本画、浮世絵、彫刻など約70点により動物をテーマとした幅広い作風が楽しめます。現代の神話のファンタジーを感じさせる土屋仁応「麒麟」、三沢厚彦「Animal」シリーズなど、明治期の作品などとの同時展示で、テーマを絞った企画ならではの内容となっています。両展とも家族で楽しめる企画であり、お気に入りの1点を見つけてみてはいかがでしょうか。

◆日本画どうぶつえん/7月30日~9月11日/山種美術館(広尾)
◆集まれ!おもしろどうぶつ園/開催中~8月28日/横須賀美術館(横須賀市)

*暑いさなかですが、展覧会行きましたメールなど頂くとうれしいです。(もちろん紹介していない展覧会なども)
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