坂野直子の美術批評ダイアリー

美術ジャーナリスト坂野直子(ばんのなおこ)が展覧会、個展を実際に見て批評していきます。

日本画家、堀文子さんの創作の原点

2010年05月08日 | アート全般
もう2年前になるでしょうか。銀座のナカジマアートで、日本画家堀文子さんの個展があるということで出掛けました。画文集で今もなお人気の高い画家は、90歳を迎えてなお、その新作はみずみずしい色調で目を引きました。その前年に大病を患い、それを乗り越えての新作展でした。偶然堀さんも来られていて、お客様にしっかりと対応されていました。鮮明な青をバックに浮遊するクラゲを描いた「あかくらげの家族」。81歳のときネパールのヒマラヤにブルーポピーを求めて、標高4500メートルを目指した画家。その精神力に感服するとともに、その画風はより優しく自在に満ちています。在野の創画会の創立会員として颯爽と風を切っていただろう若い日々。長い道のりを経て、命の原点をみつめる創作への情熱は果てしなく続きます。

オルセー美術館展ールソーの魅力

2010年05月08日 | 展覧会
「オルセー美術館展2010ーポスト印象派」が国立新美術館(六本木)で今月の26日からスタートします。このブログでも展覧会の見どころとして、印象派以後のセザンヌからボナールらナビ派、ルドンらの作品が含まれていることをお話しました。日本でもファンが多いアンリ・ルソーの「蛇使いの女」「戦争」なども本展の見どころのポイントになっています。税関吏ルソーはアマチュア画家として、絵ハガキやパリの植物園からインスピレーションを得て、自分の想像をそこに加味して幻想的なジャングルを創り出しました。型にはめられることが嫌いで、伝統的な遠近法を無視して、葉の一枚一枚まで細密に平板なタッチで描き出した世界は、精妙な色相の音階をつくりだしています。ピカソらキュビスムの画家に賛美され前衛画家の仲間に入りましたが、彼はそういう事も無頓着で〈わが道を行く〉を貫きました。満月の夜、深緑の森の湖畔で笛を吹く黒い蛇使いの女。素朴派の元祖といわれますが、一言では表現できない謎めいたルソー自身の人生も重なっていきます。