坂野直子の美術批評ダイアリー

美術ジャーナリスト坂野直子(ばんのなおこ)が展覧会、個展を実際に見て批評していきます。

ねことアートの関係!?

2010年04月30日 | アート全般
我が家には娘ざかりのミクという猫がいるのです。猫をモチーフに描いた画家と言えば、レオナール藤田や加山又造の名品も浮かびますよね。北斎漫画の猫百態なんか思い浮かべた方、なかなか通ですよ。そんなことは皆様ご存じですからここでは省いて、うちのミクのこと。光ものが好きなこの子は(家主に似てるといわれてますが)、一夜にしてピンナップしていたポスターやきれいなチラシを止めていたインテリアの一部の、ピンを壁から外してレイアウトを変更、これは取って、これは残して置こうなんて考えていないと思うけど、「私、この絵は好き」なん猫心で思ってくれたらステキ。

ドガのはずした構図

2010年04月30日 | 展覧会
今年の展覧会の目玉の一つが、横浜美術館で9月中旬から開催されるエドガー・ドガ展である。パステル画の大家でもあるこの画家の本格的な展覧会は、その作品の保存状態も関係してなかなか国外では実現が難しかった。これもオルセー美術館の贈り物の一つだ。踊り子シリーズでなじみ深いドガであるが、同時期の印象派の画家たちと交友を深めながら、技法やモチーフにおいて独自にスタンスを保った画家である。パリのオペラ座や競馬場、カフェなど近代的なパリの様相を加味しながらも、ルノワールやモネのような華やかに歌うような画風ではない。彫像作品も残した画家らしく、人間像のフォルムのバリエーション、鍛え抜かれたバレリーナの肢体の一瞬の輝きを明るい色調で描きとめた。印象派展には連続出品したけど、点描的な筆触分割法では描かず、新古典主義のアングルに傾倒し、人物の輪郭線もくっきりと描いた。あの印象派特有の茫洋とした色彩のタッチとは明らかに異なる。それとスナップショットで「中心をはずしてまずい撮り方してしまった」みたいな、通常の構図の中心をずらして描くことも。たらいの中の浴女の姿も上から見下ろして、なんだかゴシゴシと
体をこする音がしそうな・・・。美しいだけでなく辛辣に、リアリズム的手腕は天才ならではですね。

シャガールの人物はどうして宙に浮いているの

2010年04月29日 | 展覧会
シャガールの本格的な展覧会がこの夏から初秋にかけて開催される。エコール・ド・パリの画家として常に人気が高く、1年を通してどこかの展覧会では見られる。東京藝術大学大学美術館で3ヵ月間開催される「シャガール展」は、パリのポンピドー・センターが所蔵する代表作の数々が来日。日本初公開の作品も含まれているとか。今年は、オルセー美術館展もそうですが、パリが東京にやってきた!美術展花盛りですね。
ところで、シャガールの作品は、恋人や牛、民家や教会などもすべて宙に浮いているでしょ。それがシャガールの作品でしょと言えばそうだけど、でもちょっとあらためて見ると不思議でしょ。〈地に足のついた考え方しなきゃいけないよ〉なんてよく言われませんでした? 今の小学生の子供たちだったら、ネットでバーチャルな世界に浸っているから、シャガールの絵を見て、これはね、なんてひとつの物語をそこから作り出してしまうかも。それこそアートの力なんですけど。シャガールは1910年にロシアからパリに夢を求めてやってきた。同じ境遇の仲間がいて一つの時代を作ったのですけど。いつも心に故郷の小村、ヴィテブスクへの思いがあったんです。パリのエッフェル塔とロシアの家並みと彼の原点であるエルサレムの教会が一つの画面で共鳴しあう。それぞれが宙に舞うことで時間と空間を超えて次々と現出しては消えていくような幻想的世界をつくりだした。虹のような色彩に夢を語ったのです。一つの作品から物語と言えば、「物語の絵画展」が新潟県立万代島美術館でこの秋開催されます。コローの詩情豊かな作品などが展覧予定。まだ先ですが秋にふさわしいですね。

カポディモンテ美術館展の見どころ

2010年04月28日 | 展覧会
〈仏像女子〉が話題になっているのだから〈美術史女子〉(男子がいてもいいんですけどね)がいてもおかしくない。美術検定に応募する人数は結構な数にのぼる。そんな美術史好きな人にお勧めの展覧会が相次いでいる。6月26日から3ヵ月国立西洋美術館で開催される「カポディモンテ美術館展」もその一つ。ナポリの街を見下ろす丘に建つ荘重な趣の宮殿は、歴史あるブルボン家の宮殿で、16世紀を中心にしたコレクションの一般公開のため今に美術館として受け継がれている。国立西洋美術館と言えば、あなたも前庭のロダンの彫刻の前で写真撮ったことあるでしょう。世界遺産の候補にもなったことがあるフランスのル・コルビュジエの設計。カラヴァッジョを始めとしてバロック絵画の人気が高まっているが、光と影のコントラストを強調した構成。人間味のある辛辣な表情など現代に通じるものがあるのでしょう。本展の華とも言うべき代表的作品が、パルミジャニーノ「貴婦人の肖像(アンテア)」。暗闇をバックに鮮明に浮かぶ美しい肖像のモデルは、画家の愛人だったとか。豊かな、でも上品な装飾を施したドレスとともに彫像的なタッチで丹念に掘り起こした肖像画は愛の賜物か。やっぱり愛は世紀の芸術を生み出すのですね。

ルーシー・リー展の内覧会、小林孝亘展の初日をドタキャン

2010年04月27日 | 展覧会
池袋に午後1時すぎに着いた時だった。めまいがして動悸が・・。そう言えば午前中急用ができて走り回った疲れも出てきたのか。国立新美術館で始まるルーシー・リーのプレス内覧会に続いて、友人のアーティストと小林孝亘展が西村画廊・日本橋で始まるので、作家が来廊するオープニング・パーティに出かける予定だった。どちらかと言えばこちらの方に比重がかかっていたのに。でも体調が悪くてドタキャン。申し訳ないことをしてしまった。小林さんとは、数年前にバンコクに滞在して制作されていた折、メールでやりとりしインタビュー記事を書かせてもらった。小林さんは、VOCA展で奨励賞を受賞し、タイの日常生活から題材を採った皿や犬、人物の顔などを独特の光の中に描き出し一躍脚光をあびた。インタビューの最後に美術以外で興味のある分野について聞くと、平田オリザさんの脚本に影響を受けたと聞いて興味を引かれた覚えがある。今回お会いした時は、その続きのお話を聞きたかったのだが。
6月5日まで開催され、「夏の月」と題して新しい人物像に取り組んだ新作10点が並ぶ。90
年代から新しい具象画家のリーダーとして牽引してきた画家であるが、そのシャイな飄々とした雰囲気は変わらないだろうな・・・。

日曜美術館の森村泰昌「レクイエム」展

2010年04月26日 | 展覧会
マリリン・モンローやモナリザに扮し撮影するセルフポートレイト作品で知られる森村泰昌氏が、東京都写真美術館で5月9日まで「なにものかへのレクイエムー戦場の頂上の芸術」を開催している。晩年のパブロ・ピカソやレーニンの革命的な演説のシーンなど、具体的に組み立てられる経緯が、NHKの「日曜美術館」で紹介され、森村氏の人物像に迫る秀逸な内容だった。20世紀に登場した革命的人物や事象を自ら扮することで検証しようとする視点は一貫しているが、高踏的ものではなくどこかユーモラスな点も引き込む要素だ。森村氏は関西人である。「もう展覧会を見てしもうたような、それはあかん」


あいちトリエンナーレ2010への期待

2010年04月26日 | 展覧会
横浜トリエンナーレを始めとして、大小の規模を含めるとアートの国際展が定着した感があるが、今年の目玉は「あいちトリエンナーレ2010」であろう。〈都市の祝祭ーー〉をテーマに現代アートを中心にダンス、演劇、音楽などの垣根を越えて先鋭的なパフォーミングアーツも積極的に取り込むという。8月21日から10月31日までの開催。愛知芸術文化センター、名古屋市美術館、長者町地区を拠点として、大規模なインスタレーション、映像、音楽、演劇と第一線で活躍するアーティストが集う。芸術監督は国立国際美術館館長の建畠氏。出品予定作家は、草間弥生、西野達、蔡国強氏らを筆頭に国際展ではおなじみの顔ぶれがそろう。都市空間にいかにダイレクトにアートがこだまするか、取材にはいきたいと思っているが、その中で注目したいのが、舞台公演のヤン・ファーブル、チェルフィッシュ、平田オリザ他が上演予定されていることだ。これは日程をチェックすることが必要。そして現代アートに触れたことのない方々も2か月超の期間内に同時代のアート体験をして頂きたい。名古屋は、豊田市美術館、本展の会場となる名古屋市美術館など現代アートの先鋭的企画を多く取り入れてきた地盤がある。ある意味経済の中心としても国際的に知られる名古屋での国際展を大いに期待したい。詳細な内容は→http://aichitriennale.jp/

アートのある生活の楽しみ

2010年04月25日 | 展覧会
アートのある生活を楽しんで頂きたい。これは私のブログでの大事なメッセージだ。今は銀ブラと言っても超高級ブランドのビルが建ち並び、日動画廊は特別として、同時代の作家を扱う現代アート系ギャラリーは、銀座1丁目、8丁目、京橋へとその拠点を移しつつある。私が学生の頃は、東京画廊やギャラリー山口などで芸大の先生方が発表する作品を見によく出かけた。ポストもの派世代、榎倉康二、高松次郎が活躍した時代だ。芸大に前衛作家として講師に招かれた榎倉氏との出会い、その鮮明な印象は私の中にいつも残っている。私がその後も現代アート系のギャラリー巡りを続け、細々ともライターとして続けてきたのは、榎倉氏の作品のインパクト、その先生のお人柄に触れ本物のアーティストとしての姿勢を教わったことが大きい。本題に入る前の前置きが長くなったが、世代を超えて、現代アートに触れる機会をたくさん作って頂きたい。江東区の清澄には世界に発信する小山登美夫ギャラリーがあり、その倉庫を改造した巨大なキャラリー空間のビルは、複数のギャラリーが入って現代アートの一拠点になっている。
もちろん無料で観覧できるし、各ギャラリーには他のギャラリーの展示案内も置いてあるので、点が線となって、自分なりのお気に入りのアートスポットが見つけられるはず。ちなみに、府中市美術館で、7月まで長谷川繁氏の公開制作が開催されている。GWでは、5月2日、3日、8日もビビッドなライブに立ち会える。緑潤う季節の中、出掛けてみてはいかがだろうか。

ブラングィンの「白鳥」とパンフのいろいろ

2010年04月24日 | 展覧会
美術ライター、編集の仕事を長年していると役得として、プレス内覧会の案内が届くことである。プレスリリースとともにそれぞれ工夫されたパンフを見るのも楽しみの一つ。フランク・ブラングィン展は、本展を実現させた源にもなっている〈松方幸次郎とブラングィンの運命の出会い〉という文字が踊る日本との関係を重視した内容のパンフで目を引くのは縦はハガキ大ほどのアコーディオン式になっている形状だ。インテリアの一部として飾っている。手元にあるもので目に付くのは、モーリス・ユトリロ展のパンフである。現在損保ジャパン東郷青児美術館で開催中で、エコール・ド・パリの華やかさとは裏腹にモンマルトルの街並みをどこか寂寥感漂う詩情を描いた画家として日本でも人気が高い。ユトリロのパンフは茶系のトーンを主体とした家並みの一角の作品を表と裏表紙でつないだもので、中身の構成も美しい。ルノワール展では大胆に横顔の少女の像に〈見るの〉に引っかけた〈ルノ〉という文字が鮮やかだ。巨匠の作品をいかに現代に引き寄せるか、デザイナーの手腕が大いに発揮される。通常では著作権の関係で無理である、作品のトリミングや裁ち落しなどがデザイン上許されている点も斬新なものにさせている。ところでブラングィン展では、「白鳥」の絵葉書を買った。これは2羽の白鳥が木陰に寄り添う構図だが画面にはみ出すような構図が面白い。白鳥の羽毛に木漏れ日と草花、装飾美を組み合わせた華やかな構成。その他の油絵作品は絵葉書ではその迫力が伝わってこない。色調の再現も絵ハガキは大量生産ということもあり難しい。ブラングィンの作品はとくにそれを感じさせるものがあった。

ブラングィンの「白鳥」とパンフのいろいろ

2010年04月24日 | 展覧会
美術ライター、編集の仕事を長年していると役得として、プレス内覧会の案内が届くことである。プレスリリースとともにそれぞれ工夫されたパンフを見るのも楽しみの一つ。フランク・ブラングィン展は、本展を実現させた源にもなっている〈松方幸次郎とブラングィンの運命の出会い〉という文字が踊る日本との関係を重視した内容のパンフで目を引くのは縦はハガキ大ほどのアコーディオン式になっている形状だ。インテリアの一部として飾っている。手元にあるもので目に付くのは、モーリス・ユトリロ展のパンフである。現在損保ジャパン東郷青児美術館で開催中で、エコール・ド・パリの華やかさとは裏腹にモンマルトルの街並みをどこか寂寥感漂う詩情を描いた画家として日本でも人気が高い。ユトリロのパンフは茶系のトーンを主体とした家並みの一角の作品を表と裏表紙でつないだもので、中身の構成も美しい。ルノワール展では大胆に横顔の少女の像に〈見るの〉に引っかけた〈ルノ〉という文字が鮮やかだ。巨匠の作品をいかに現代に引き寄せるか、デザイナーの手腕が大いに発揮される。通常では著作権の関係で無理である、作品のトリミングや裁ち落しなどがデザイン上許されている点も斬新なものにさせている。ところでブラングィン展では、「白鳥」の絵葉書を買った。これは2羽の白鳥が木陰に寄り添う構図だが画面にはみ出すような構図が面白い。白鳥の羽毛に木漏れ日と草花、装飾美を組み合わせた華やかな構成。その他の油絵作品は絵葉書ではその迫力が伝わってこない。色調の再現も絵ハガキは大量生産ということもあり難しい。ブラングィンの作品はとくにそれを感じさせるものがあった。