坂野直子の美術批評ダイアリー

美術ジャーナリスト坂野直子(ばんのなおこ)が展覧会、個展を実際に見て批評していきます。

文化遺産を巡る各国の交渉

2010年05月12日 | アート全般
昨日のNHKクローズアップ現代で、文化遺産を巡る原産国と流出先の各国の交渉についての問題が取り上げられていました。エジプト、インド、中国の新興国が古代遺産の返還を所蔵先の国々に求めてきたのです。問題の中心はエジプトから渡ったベルリン新博物館所蔵の「ネフェルティティの胸像」。同博物館で最も人気の高い作品です。また大英博物館の「ロゼッタストーン」も交渉の中心になっています。所蔵先の国は合法的な文書に基づくものであると主張。現在は戦時下や経済力によって不法に流出する文化財を留めるユネスコによる新たなルールが世界的に適応される仕組みになっているようです。過去の歴史的な遺産は古代文明の発祥地に取り戻せるのでしょうか。多くの世界的博物館に離散していますが、そういう保護のもとで、世界的な文化遺産を守り、われわれも身近に楽しむことができるともいえます。G20サミットでも話し合いが持たれました。

この美術館にこの1点④神田日勝記念美術館

2010年05月12日 | アート全般
神田日勝(かんだにっしょう)という画家をご存じですか? これまでさまざまな絵を見てきましたが、本や画集でその絵と出会って一目で衝撃を受けたことがあります。神田日勝「馬(絶筆)」(1970年作)です。日勝は32歳で世を去りました。2枚のベニヤ板に描かれた馬は胴体から後ろ脚が切れて制作途中であることが分かります。でもなんとその存在感の大きいことでしょう。その健気な命の美しさに強くひかれました。北海道十勝平野の開拓農民であった日勝のスケッチブックには、馬や牛のデッサンの余白に、肥料がいくら、機械がいくらと、農業経営のための計算がびっしりと書き込まれていたといいます。現実的な大地の厳しい生活の日々が、自己の魂と向き合う鮮烈な表現を生み出していったのです。