坂野直子の美術批評ダイアリー

美術ジャーナリスト坂野直子(ばんのなおこ)が展覧会、個展を実際に見て批評していきます。

新世代への視点2011 個々の多義的表現

2011年06月30日 | 展覧会
今年で12回目となる本展は、東京・京橋を中心とした11画廊の共同開催による企画展で、40歳以下に焦点を絞り、各画廊の一押しのアーティストの多様な表現の領域を提示します。
それぞれ固有の素材を駆使して、現代という多層的構造の見えない部分に表現のエッセンスを開拓していきます。
・掲載作品は、濱田樹里さん(1973年~)の2005年のコバヤシ画廊の個展の際の展示風景です。
今回は〈花の棲み処〉を同画廊で出展予定です。赤の発色が鮮やかで画面全体が脈動するような力動感を感じます。初めは人物を描いていたそうですが、自分の思いや死生観を花や赤土、木の年輪や貝の化石、地層などの自然のモチーフに託して描いているそうです。濱田さんは、インドネシア生まれで、制作の原点にその土地の赤土で広がる地平線があるようです。日本画の顔料を使って土や砂の触感に近いものを追求しています。
各画廊は1日で見て回れる距離ですのでアクセスも良く、中堅へと伸び盛りの作品に出合えるのが楽しみです。

◆新世代への視点2011/主催・東京現代美術画廊会議 参加画廊 ギャラリーなつか、コバヤシ画廊、ギャラリイK,
ギャラリー現、ギャルリー東京ユマニテ、藍画廊、なびす画廊、ギャラリーQ、ギャラリー58、GALERIEnSOL gallery21yo-j
7月25日~8月6日 日曜休廊・入場無料

ヨコハマトリエンナーレ 開催まで1カ月余り

2011年06月29日 | 展覧会
今年の国内の大規模な国際展と言えば、この夏から開催されるヨコハマトリエンナーレ2011です。今年で4回目となる本展は、横浜美術館、日本郵船海岸通倉庫とその周辺地をメイン会場に開催され、国内外のアーティスト60余名の作品を中心に、横浜美術館所蔵品も一部加えて展示されます。
「OUR MAGIC HOUR-世界はどこまで知ることができるか?」をタイトルに、世界や日常の不思議、魔法のような力、超自然現象や神話、アニミズムなどに言及した作品群に光をあてています。グローバル社会が進み、科学万能の時代にあって、科学や理性では解き明かせない領域に改めて目をむけることで、忘れ去られていた価値観や人と自然の関係について考えてみることで、より柔軟な世界との関わり方が見えてくるのではないかという問いかけがあります。
半数以上を占める海外参加アーティストは国や世代も表現媒体も多様であり、設置される場の固有の表現であるサイトスペシフィックなインスタレーションや映像メディアも楽しみです。
・掲載作品は、シガリット・ランダウ〈DeadSee〉2005年。1969年イスラエルのテルアビブ生まれで、ビデオ作品を主体として一貫して自国イスラエルに主題を求めてきました。この作品は、500個のスイカと自らの体を死海に浮かべて、直径6メートルの円を形作り、作品にしました。イスラエルの歴史的、民族的記憶を同時代へと引き寄せ、人間存在について問題を投げかけます。今回の展覧会では、意外な「遭遇や出会い」があることも特徴です。国際展では、参加型のアートの成り立ちも興味を引きます。
ジュン・グエン=ハツシバ(敬称略)は、ホーチミン在住で日本人の母とベトナムの父の間に1968年に生まれました。今回のランニングプロジェクトでは、アーティストが実際に走ることでGPSで描かれる「地球のドローイング」とビデオ作品などによって構成されます。トリエンナーレのサポーターで現代アート通の友人から届いた情報では、彼女たちサポーターの方々も走り、このビデオ作品に参加したようです。近日中にも再来日し、交流会が持たれます。
国際的な美術展の運営には、サポーターの方々の支援の輪が展覧会内容に活気をもたらせてくれます。

◆ヨコハマトリエンナーレ2011/8月6日~11月6日/横浜美術館、日本郵船海岸通倉庫他 
 http://www.yokohamatriennale.jp


フランスの詩と版画ーひびきあう魂の航跡

2011年06月28日 | 展覧会
町田市立国際版画美術館はご存じのように本格的な版画専門美術館として、豊かなコレクションを基盤に質実な内容の企画展を展開しています。
本展はそのタイトルに惹かれて、紹介したくなりました。近代から現代まで詩や文学から画家は多くのインスピレーションをえて、自己のスタイルへと昇華していきました。時代の美学の先駆者であったボードレールやヴェルレーヌ、ランボーなどのフランスの詩集に時代のリーダーである画家たちが挿絵を試みました。
・掲載作品は、ヴェルレーヌの詩に象徴派のモーリス・ド二の挿絵の『叡智』です。(1911年)©ADAGP,Paris&SPDA,Tokyo,2011
サルバドール・ダリの挿絵のロートレアモンのシュールレアリスムの作品『マルドロールの歌』、ピカソ、シャガール、ルオーの他に、ジャン・アルプなどの珍しい挿絵など、約180点の版画作品が展示されています。
油彩とは異なる画家の線のタッチや色彩の配列など、また趣の異なる作品が楽しめそうです。今年も猛暑になりそうですが、じっくり思索の時間が流れる企画だと思いました。

◆フランスの詩と版画ーひびきあう魂の航跡/開催中~8月7日/町田市立国際版画美術館 Tel 042-726-2771


名和晃平ーシンセシス 彫刻の概念をこえて

2011年06月27日 | 展覧会
インセシスとは合成、統合を意味する言葉ですが、名和晃平さん(1975年~)は彫刻家として今までのカテゴリーでは規定できない未知な分野に挑んでいます。現在、東京都現代美術館で開催中の本展は、「Cell」(細胞)という概念をもとに、立体、3Dという概念と映像の3D化ともいうべきイリュージョン的なゾーンもつくりだしています。
展覧会主旨を説明する東京都現代美術館学芸員の森山朋絵さんと名和さんですが、この企画のオファーがあったのは1年前で、名和さんは、この美術館の空間の作品の設置を循環するようなゾーンをつくりだしたいと、新たな構想を練っていきました。時間的には大変だったようです。
現在は、京都造形芸術大学准教授として京都に在住。アトリエは、京都の宇治川沿いにあるサンドイッチ工場跡をリノベーションした「SANDWICH」で制作をしています。最先端のアートと都心からの距離感という時間の交錯が面白い化学反応を起こしているようです。
ビーズやプリズム、発砲ポリウレタンなどの流動的な素材を使っていますが、〈LIQUID〉というゾーンでは、シリコーンオイルを発光させ、グリッド上に泡を発生させています。白い界面には絶え間なく生成するセルの不可思議な光が新たな視覚のイメージをつくりだしていました。
ビーズのシリーズで知られる名和さんですが、この個展を契機に感性と物質の交流から生まれてくる知覚のリアリティを多様な変容のスタイルで展開しています。

◆名和晃平ーシンセシス/開催中~8月28日/東京都現代美術館(江東区三好)

ゴヤ展「魔女たちの飛翔」

2011年06月24日 | 展覧会
この秋開催される「ゴヤ」展は、光と影をテーマに18世紀から19世紀へと時代の変革期に生きたゴヤ自身の内部に抱えた光と影を交錯させて作品を浮かび上がらせます。
前半生のロココ風の宮廷画の華やかな作品群から後半生にいたると人間の暗部と真実を暴く作品へと変貌していきます。時代はスペイン王国へのナポレオン侵攻による独立戦争の勃発、そして46歳のとき思い病を患い、聴覚を失うという過酷な運命を背負います。
・掲載作品「魔女たちの飛翔」1798年。優雅なイタリア風な雅宴画とは対照的な、暗黒や不条理を描いたもう一つのゴヤの世界です。尖がり帽子をかぶった3人の魔女が若者を抱え、闇の中を上昇していきます。地上では、一人の男が地面に伏せ、もう一人は白い布を頭から被って、拒絶のポーズをとっています。ゴヤは主観的な情熱を作品に託した点でロマン主義美術の先駆者であり、己の人生の課題を制作に直接に反映させた点で、芸術の近代化を進めた最初の芸術家と言えるでしょう。

◆プラド美術館所蔵 ゴヤ 光と影/10月22日~12年1月29日/国立西洋美術館(上野公園)

王培(わん・ぺい)新作展

2011年06月23日 | 展覧会
目がまっすぐで印象的な子供たち。画家の誠実な眼差しがそこにあります。王培(わん・ぺい)さん(1976年~)は、中国の天津生まれで、中国北京市中央工芸美術学院を卒業後、広島市立大学大学院の研究科に日本画を学び、日本美術院で発表を続けています。
中国の子供たちの生命力溢れる姿を描き、日本でも人気が高まっています。
「子供たちの健気に逞しく生きる姿を通して人生で一番大切なものは何かを探し求めることがテーマです」と王さん。
今回は、新作10点余の発表です。

◆王培新作展/7月7日~7月20日/ナカジマアート Tel 03-3574-6008

東京藝大教員有志による被災地復興支援・文化財救援作品展

2011年06月22日 | 展覧会
東日本大震災による文化財の救援事業(文化財レスキュー事業)が、現在文化庁文化財部により実施されていますが、東京藝術大学内の藝大アートプラザにて、標題の展覧会が開催されています。
平成17年にオープンしたこの施設は、東京藝術大学大学美術館に隣接し、ミュージアムグッズとは少し趣が異なり、教員の作品やデザイン的なオリジナル作品を販売し、気軽に立ち寄れる空間になっています。(写真は内部の様子です)
本展の出品作品は絵画、彫刻、工芸、書籍などで、出品作家はO JUN(敬称略、以下同)、河北秀也、小津文哉、斎藤典彦、手塚雄二、日比野克彦、宮迫正明、宮田亮平(学長)など藝大の教員有志45人の構成となります。
なお、開催期間中の作品の売上金は公益財団法人文化財保護・芸術研究助成財団に寄付されます。

◆東京藝大教員有志による被災地復興支援・文化財救援作品展/開催中~7月10日/藝大アートプラザ(上野公園)

礒江 毅ーグスタボ・イソエ

2011年06月21日 | 展覧会
マドリード・リアリズムの異才として内外で高い評価を受けながら、2007年に53歳の若さで亡くなった礒江毅(1954-2007)。大阪出身で、大阪市立工芸高等学校を卒業後、単身でスペインに赴き、30年にも及びスペインの写実技法を探究しました。
アントニオ・ロペス・ガルシアに代表されるマドリード・リアリズムのグスタボ・イソエとしてその実力ぶりを発揮し、2005年からは広島市立大学に教授として迎えられた矢先でした。
その細密描写に隠された神秘的な雰囲気はどこからくるのでしょう。
・掲載作品は、代表作の「鰯」白い皿の中の隅に置かれたその存在のはかなさと生のリアリズム。礒江は虚の中に実在をみるというと、禅問答のようになりますが、空白のなかに普遍的な何かをみようとしたのかも知れません。
本展は、没後初となる本格的な回顧展で、代表的な人物像など初期から絶筆の作品80点が展覧されます。
尚、この展覧会にちなんで、『美術の窓』8月号(7月20日発売)に礒江毅の特集が組まれます。

◆特別展「礒江毅ーグスタボ・イソエ」/7月12日~10月2日/練馬区立美術館
     巡回展 10月22日~12月18日/奈良県立美術館

「東北を思う」展

2011年06月20日 | 展覧会
東京国立近代美術館では、パウル・クレー展の同時開催として、常設展示室内で、緊急企画「特集 東北を思う」と題して東北出身の画家の作品、モデルとなった対象が東北出身の作品、東北の風景を描いた作品という3つの部門から集められた作品、39点が公開されています。
近代美術館ならではの視点で、東北とは日本の近代美術においてどのような存在であったのかを探ります。近代洋画では、黒田清輝や青木繁、坂本繁二郎といった九州の画家たちのイメージが強いですが、一方で萬鉄五郎や関根正二、松本竣介といった個性的な画家が東北から出てきました。
風景のコーナーでは、奥田元宋の「磐梯」、安井曾太郎の「奥入瀬の渓流」などが展示されます。
・掲載作品は東山魁夷「道」1950年で、魁夷の代表作であり、画家としての転機となった作品です。この作品の基になったスケッチは八戸の種差海岸で描いたものです。何もない一筋の道に画家としてのインスピレーションを得て、日本風土の色彩や湿度感を研究していきます。近代洋画の発展にも重要なテーマであった東北に思いを寄せる企画です。

◆特集 東北を思う/開催中から7月31日/東京国立近代美術館(北の丸公園)

ヴェネツィア展 日本初公開「二人の貴婦人」

2011年06月18日 | 展覧会
ヴェネツィアを代表する13の館からなるヴェネツィア市立美術館群から、この秋、ヴェネツィア共和国の栄華を物語る15世紀から18世紀の絵画、工芸、服飾、模型、井戸など約140点の作品が日本に集結。東京会場を含む全国6箇所に1年をかけて巡回します。
ヴェネツィアというと16世紀ルネサンス期のティツィアーノやティントレットら色彩豊かな宗教画の数々を思い起こします。本展においても、ヴェネツィア派の先駆者となったベッリーニの「聖母子」やティントレットのドゥカーレ宮殿の大壁画の下絵の「天国」が出品されます。そのなかで目を引くのは、ヴェネツィア生まれの画家、ヴィットーレ・カルパッチョの存在です。
・ 掲載作品は、カルパッチョの「二人の貴婦人」1490-95年頃 コッレール美術館のテンペラ画です。
詩人のジョン・ラスキンが世界で最も美しい板絵と讃えたといわれ、完成度の高い作品となっています。この作品に関しては解釈が分かれていたのですが、20世紀中頃にこの作品の上部が発見されたことから、この謎めいた二人の婦人は、狩に出かけている夫たちを待っている親子の場面であると推測されるようになりました。物思いにふけるような謎めいた表情の二人と犬や鳥などが多く登場して画面空間を形作っています。この作品は左側が唐突に切れていますので、左半分が欠けているとみられています。その片方の絵の発見はあるのでしょうか。謎の多い作品の一つです。(この作品は東京展の特別出品となります)

◆ヴェネツィア展 魅惑の芸術ー千年の都/9月23日~12月11日/江戸東京博物館他、名古屋市博物館、宮城県美術館、京都文化博物館、広島県立美術館  http://www.go-venezia.com