坂野直子の美術批評ダイアリー

美術ジャーナリスト坂野直子(ばんのなおこ)が展覧会、個展を実際に見て批評していきます。

バーン=ジョーンズ 神話の世界

2012年06月27日 | 展覧会
19世紀後半のイギリス美術界を代表するエドワード・バーン=ジョーンズの日本では初の大規模な個展が開催されます。
バーミンガム美術館所蔵のコレクションを含め、油彩画、水彩、素描など約80点が出品されます。神話や中世の文学に由来するモチーフによって、ラファエロ前派との関わりで語られることが多いバーン=ジョーンズですが、闘いの場面でありながら甘美な美しさを漂わせる優美さがあります。
その代表作と言えるのが「ピグマリオン」の4部作です。彫刻家ピグマリオンが自分が彫った像に恋をして、こんな美しい女性を妻にしたいと切望したら、美の女神がその願いに応えて魂を吹き込み、彫像が人間になったという、神話を描いた連作です。
中世回帰のロマンを楽しんでみたらいかがでしょうか。

◆バーン=ジョーンズ展ー装飾と象徴/開催中~8月19日/三菱一号館美術館(丸の内)


エル・グレコ展 宗教的情熱と近代性

2012年06月24日 | 展覧会
16世紀後半から17世紀前半にかけて、スペイン繁栄の黄金期に活躍したエル・グレコの代表的な作品群50点以上が、プラド美術館、ボストン美術館など海外十数カ国から集結。過去最大規模の回顧展となります。
グレコと言えば、祭壇画などの聖書場面を描いた宗教画が有名ですが、マニエリスムを思わせる引き延ばされた人体と構図的にも対角線を利用した動的な旋回するような斬新さ、劇的な色彩性など、先見性に富んだ作風が魅力です。
ベラスケス、ゴヤに先立つスペインの三大画家に数えられていますが、宮廷画家ではなかった(宮廷画家になれなかった挫折感も味わっています)だけに、どこか破天荒な宗教画の新たな魅力を開示しているようにも見えます。
・掲載作品は、高さ3mにも及ぶ「無原罪のお宿り」。最晩年の最高傑作のひとつで、筆力の衰えを感じさせない色彩と群像のオーケストレーションで上昇するエネルギー、天上の光のもと輝く神秘的な色彩の乱舞がスケール感を呼び起こします。
グレコの宗教的情熱に打たれるとともに、ピカソやセザンヌに近代性を再評価されたグレコの魅力あふれる展覧会になることでしょう。

◆エル・グレコ展/10月16日~12月24日/国立国際美術館
 13年1月19日~4月7日/東京都美術館

中国 王朝の至宝展 秋に特別番組

2012年06月21日 | 展覧会
今年初めに「清明上河図」を目玉に故宮博物院展は大変な盛り上がりを見せましたが、日中国交正常化40周年を記念して開催される本展では、王朝文明に焦点をあてて、中国の各地の博物館から一級文物約6割りをしめる168件を紹介します。
紀元前2000年頃から黄河流域に誕生した初期的な王朝、夏、殷の時代から10世紀の遼、宋の時代まで民族の多元的な文化をみつめます。
中国という広大な領土、王朝も群雄割拠の体をなしていきます。
第1章の王朝の曙を例にとると、四川省の蜀の文明では、その文明の特色として金の仮面が登場します。金を多用した高度な文明をもつ蜀と夏・殷の青銅器類というふうに、その文明の特質となる文物を対比的に展示するのが特色となっています。
初めての統一王朝となる秦の時代の始皇帝陵兵馬ようも出品されスケールを生んでいます。



報道発表会では、この秋、NHKで放送されるスペシャル番組のナビゲーターを務める俳優の中井貴一さんも登壇。9年前に外国映画主演作となったのが中国の遣唐使役ということですべて中国語だったそうです。
そのときに1カ月以上も中国に滞在し、まだ現在ほど経済大国への道のりの入り口だった中国で感じたことは、中国人の笑顔、経済的な幸福感ではない何かをかんじたことが中国に興味をもったきっかけだそうです。
日本の文化のルーツである中国文明、隣国大国の偉大さと深さ、未知なる謎を問いかける展覧会となりそうです。

◆中国 王朝の至宝/10月10日~12月24日/東京国立博物館 平成館
 13年2月2日~4月7日・神戸市立博物館他

生誕100年 船田玉樹

2012年06月16日 | 展覧会
国際的な美術展だけでなく、各自治体の美術館では地道な研究の成果により、これまであまり紹介されなかった画家に光をあてるという使命感があります。
日本画家、船田玉樹(ふなだ・ぎょくじゅ、1921年~1991年)をご存じの方は相当日本画通とお察しします。私は展覧会の案内を頂く前は、知らない画家でした。
リリースの中で、作品を見ていて、これはすごい、正統派の技法と豪快さもあり、繊細華麗な色彩で、皆さんに見て頂きたい企画展として取り上げました。
船田玉樹は、郷里広島から最初、油彩を学ぶために上京しますが、すぐに日本画に転向し、大御所速水御舟に学ぶ幸運を得て、その後、やはり日本画界の重鎮、小林古径に師事し、謹厳な線描と端麗な色彩を学んでいきます。
現在は、朦朧体から進んで、日本画においても油彩的に彩色を盛り込む技法(東山魁夷、平山郁夫作品などが有名ですね)もまた魅力ですが、日本画のルーツは線の美しさもありますので、現在見直されている点でもあります。
玉樹はその古来からの日本画の線を引きだした手法の上に彩色豊かな世界を獲得しています。
〈異端にして正統派〉と展覧会の副題にあるように、玉樹は、戦後は故郷にこもり画壇とは距離を置いて、自己の世界を追求していきます。そのため美術史の上でも取り上げられる機会が少なかった画家です。
約200点の展覧により、その全容が紹介されます。

◆生誕100年 船田玉樹/7月15日~9月9日/練馬区立美術館(西武池袋線
中村橋)

ベルリン国立美術館展開幕 質実な内容 

2012年06月13日 | 展覧会
ドイツの首都ベルリン市全域に点在する15の美術館、博物館を総称するベルリン国立美術館群は、それぞれ明確なコンセプトで蒐集されたコレクションで成り立っていますが、その中の絵画館、素描博物館、ボーデ美術館(彫刻コレクション)から107点の作品群が展示される本展は、イタリア・ルネサンスの宮廷文化から18世紀ロココの時代までを辿ります。
フェルメールの「真珠の首飾りの少女」がポスターなどを飾りこの作品ばかりが強調される傾向がありますが、本展は、粒ぞろいの作品ばかりで、イタリアの聖母子像やレリーフ作品、北方ルネサンスのクラナーハ、17世紀、レンブラント、ルーベンス、ベラスケスと充実した作品をじっくり鑑賞しました。
それぞれ派手さはないのですが、質実な深い内容の作品で構成されています。
彫刻群も優れていました。この写真では、時代は18世紀ロココの章の部屋ですが、18世紀ドイツ彫刻家のヨハン・ゲオルク・ディルの「戴冠の聖母」も魅力的でした。



16世紀の婦人の肖像など宮廷的な華やかさとは趣の異なる色彩を抑えたなかに気品が感じられました。



17世紀後半のイタリアの画家、ルーカ・ジョルダーノの「アルキメデス」(左)と「エウクレイデス」の哲学者と数学者を描いた肖像画です。



ベルリン国立絵画館の専門の学芸員の方々も来日し、プレスのインタビューを受けられ熱心に説明されていました。



17世紀初頭に描かれたルーベンスの「難破する聖パウロのいる風景」(右)。ルーベンスには珍しい牧歌的な穏やかな風景作品です。
本展の見どころの一つにミケランジェロやボッティチェリを含むイタリア素描の傑作を集めたことが特質として挙げられます。
そしてイタリアと北方美術の比較を軸に見ていくことも見方の一つかも知れません。ドイツ15~16世紀を代表する彫刻家であるりーメン・シュナイダーも独特の存在感を放っています。

◆ベルリン国立美術館展ー学べるヨーロッパ美術の400年/開催中~9月17日/国立西洋美術館








マリー・ローランサンとその時代展

2012年06月11日 | 展覧会
パステルカラーのムーディーな雰囲気をつくりだすマリー・ローランサン(1883-1956)は日本でも人気の高い画家です。
梅雨空の続く毎日ですので、華やかな色合いは心ひかれます。
彼女が生きた19世紀末から20世紀の前半は、世界中の人がパリに引き寄せられ、新しい芸術運動が次々と起こってきた時代でした。ローランサン自身も初期にはキュビスムの構成主義的要素を研究し、自己の絵画に投影していきます。
第一次世界大戦後にパリに花開いたエコール・ド・パリの時代には、日本からも渡った画家たちにも大いに影響を与えました。
本展は、ローランサンをはじめブラマンク、ユトリロ、児島虎次郎、荻須高徳ら約17名の画家の作品で、当時のパリの魅力を紹介します。ローランサンは選りすぐりの29点の展覧となります。

◆マリー・ローランサンとその時代展/7月14日~9月30日/
 ニューオータニ美術館(紀尾井町)

アラブ・エクスプレス展

2012年06月09日 | 展覧会
グローバル化が進む中、文化多元主義の視点も世界的に定着してきました。大型の国際展などでも分かるように、アラブの現代美術が世界的に注目を集めています。
民族、宗教、歴史、文化など多様性に満ちた社会の切り口が、同時代のアーティストの志向にどのように反映されているか興味深い点です。
日本で初めてアラブ現代美術に焦点を当てる本展は、約30組のアーティストによる、絵画、写真、映像、インスタレーションなどが展開されます。
アラブ地域と言うとテロや紛争、過激派というネガティヴなものを連想してしまいがちですが、現実的な社会は私たちと同様に日々の営みが続けられています。
掲載作品は、タレック・アル・グセイン「無題23(Dシリーズ)」デジタル・プリント。
そこには、社会問題へのテーゼも含まれているでしょう。個人主義的表現の枠組みからアラブと現代社会をつなぐ共通意識を作品群に感じることにもなるでしょう。

◆アラブ・エクスプレス展:アラブ美術の今を知る/6月16日~10月28日/森美術館(六本木ヒルズ)

特別展「中国 王朝の至宝」

2012年06月08日 | 展覧会
今年の初めにトーハクで開催された中国、故宮博物院の展覧会では、宋時代の「清明上河図」の人気もあり、入館までの長蛇の列で話題になりました。やはり、日本美のルーツでもある中国古美術の本物の上質に触れる醍醐味は、年月を重ねた芳香を放つワインのような味わいでしょうか。(そういう年代もののワインは頂いたことはないのですが)
この秋、日中国交正常化40周年記念の第二弾として、中国歴代王朝の貴重な文物を紹介する特別展が同美術館で開催されます。
中国で最古の王朝といわれる夏の時代からおよそ四千年の間、中国各地にはいくつもの王朝が誕生し、特色ある豊かな文化が生まれました。
この展覧会では、夏から宋までの中国歴代の王朝に焦点をあて、それぞれの地域の特質が凝縮された代表的な文物を対比しながら展示するという新たな手法をとります。
また、本展に合わせて、NHKスペシャルなどの放送が秋に予定されています。
番組のナビゲーターとして現地を訪れるのは、俳優の中井貴一さん。中国古美術女子は必見です。

◆特別展「中国 王朝の至宝」/10月10日~12月24日/東京国立博物館 平成館

☆銀座から京橋に移転したギャラリーなつかで「絵画から」という
 テーマで、発色鮮やかな抽象的ペインティングのこづま美千子さん、生と死という普遍的テーマを
 動物や卵など身近な素材で輪廻的諧謔を漂わせる高津美絵さん、映像的幻影の徳永雅之さんの
 3人展が開かれます。
 京橋界隈には、コンテンポラリーのアートを展開する熱心なギャラリーが多いですから
 回ってみてはいかがでしょうか。

 ・絵画から/6月18日~6月30日/ギャラリーなつか(京橋3-4-2)
 


彫刻家としての提言

2012年06月07日 | 展覧会
今は彫刻と言う枠組みも定義があいまいとなり、立体、インスタレーションとしての展開も多様になっています。
作家主導の企画の彫刻展が開かれます。掲載作品は保井智貴さんの女性像のシリーズ作品です。その保井さんと冨井大裕さん、藤原彩人さん、深井聡一郎さんの4名が企画メンバーとなり、それぞれがゲストアーティストを招いて共に展示するという8作家の展覧会となります。
共通点としては、それぞれが今彫刻のあり方に関心があり、教育の現場に携わっているということ。それだけに彫刻の置かれている現状への危機感を展示とシンポジウムで訴えようとするものです。
現代の表現の領域を開拓している気鋭のアーティストの方々なので、興味深い内容です。

◆第1回AGAIN-ST/6月11日~23日/東京造形大学CSギャラリー(八王子)
 ・シンポジウム 6月11日18:30~(同大学)


雄大な自然観を内包する「シロクマ」

2012年06月06日 | 展覧会
ポンポンという可愛い名前をもつ彫刻家でシロクマやフクロウなど動物彫刻で知られるフランソワ・ポンポン(1855-1933)。
国内では、群馬の館林美術館で作品を見て印象に残っています。
芽が出るまでは、彫刻家のアシスタントをしながらの作家活動、ロダンの助手を独り立ち直前までやっていました。
エジプト彫刻や日本美術にひかれ、リアリズムを廃した単純化された簡潔さのうちに秘められた崇高さにひかれていきます。
「シロクマ」を制作したのは、67歳のとき、特徴的なラインがモダニズム的シャープさとひょうひょうとした生命の温もりが感じられます。
メトロポリタン美術館の〈動物たち〉の章に展示されます。

◆メトロポリタン美術館展/10月6日~13年1月4日/東京都美術館