坂野直子の美術批評ダイアリー

美術ジャーナリスト坂野直子(ばんのなおこ)が展覧会、個展を実際に見て批評していきます。

大英博物館 古代ギリシャ展

2011年03月31日 | 展覧会
美術、文化、哲学、スポーツなどさまざまな文化が花開いた古代ギリシャ。15世紀イタリアを中心として復興したギリシャ賛美のルネサンスを例に引くまでもなく、現代においても私たちを取り巻く空間の美の規範となっていると言えるでしょう。
本展では、ギリシャ黄金期の「円盤投げ」前480-前323年のクラシック時代を中心に、古代遺跡からヘレニズム時代、ローマ時代へと遥か3千年の旅へと誘います。彫像、レリーフ、壺絵など130点の展覧となります。
・掲載作品「スフィンクス像」(後120-140年頃)ライオンの身体に女性の頭部、鷲の羽を持ったギリシャ神話の怪物です。
謎とロマンあふれるギリシャ神話の世界、ヴィーナス像などの美の源流、古代オリンピックのさまざまな競技が壺絵に躍動的に描かれています。

◆大英博物館 古代ギリシャ展/神戸展(神戸市立博物館)/開催中~6月12日
 東京展(国立西洋美術館)/7月5日~9月25日

*このたびの大地震により開催が延期になっていましたプーシキン美術館展(横浜美術館)が、プーシキン美術館、ロシア連邦文化省により作品貸し出しができないという判断によって中止となりました。前売り券のご購入の方は払い戻しの手続きをお願いします。

ヨコハマトリエンナーレ 魔法のように世界は開けるか

2011年03月30日 | 展覧会
昨晩開催された東日本巨大地震の復興支援チャリティーマッチ、サッカー日本代表とJリーグ選抜の試合は、被災地の方々への熱い思いが伝わるいい試合でした。みんながサポーター、絆という思いが震災以後ではより大きな意味をもつものとなりました。
余震が続く中、国内で最大のアートフェアである〈アートフェア東京〉も中止となり、美術界の動向もかなり影響を受けています。
〈ヨコハマトリエンナーレ2011〉の概要は固まり、今年で4回目となる国際展は、「OUR MAGIC HOUR 世界はどこまで知ることができるか?」をテーマに、世界や日常の不思議、魔法のような力、超自然現象や、伝説、アニミズムなど、これまでのアートの枠組みを広げた従来のカテゴリーにとらわれない内容の展示となりそうです。
・掲載作品は、出品作家であるクリスチャン・マークレー(1955年~、ロンドン、ニューヨーク在住)の「The Clock」(2010)。
彼は、自ら「レコード・プレーヤー」と称して、70年代後半から、ターンテーブルを使ったパフォーマンスを行ってきました。今回出品される掲載の映像作品は、1分ごとに時刻を示すシーンを古今東西の映画作品から抽出し編集した大作。
本展の作品群は、自然や地球、原初性に立ち戻った人間存在を改めて考えていく方向性に期待されます。
シガリット・ランダウ、カールステン・ニコライ、ウーゴ・ロンディノーネ、森靖、杉本博司、八木良太、横尾忠則ほか計60組ほどのアーティストが参加予定です。

◆ヨコハマトリエンナーレ2011/8月6日~11月6日/主会場 横浜美術館 日本郵船海岸通倉庫
 www.yokohamatoriennale.jp

東日本大震災復興支援アートアクション

2011年03月27日 | アーティスト
美術界においても、美術館や個展会場などで大震災の義援金を募るコーナーが設けられていますが、若いアーティストの発表の場として、廃校を利用したギャラリーを展開している〈千代田アーツ3331〉では、日比野克彦さんを中心に、参加アーティストに呼びかけ、作品の販売やワークショップを通して、被災地に心をつなぐアクションが行われています。
ハートマークビューイングというプロジェクトは、それぞれが心をこめてつくったハートマークの作品を被災地に飾ろうという試みで、岐阜や京都でもすでにワークショップが開催され、色とりどりのハートマークができています。
掲載写真は、京都会場のものですが、今できることの一歩が託されています。
千代田アーツ3331では、4月2日、3日にワークショップが開かれる予定で、作品の販売も行われ義援金として、日本赤十字社をとおして被災地におくられます。

◆主催 3331ARTs Chiyoda 千代田区外神田6-11ー14

プーシキン美術館展の延期のお知らせ

2011年03月23日 | 展覧会
東日本大地震による被災者の方々に心よりお見舞い申し上げます。
今、私は何ができるのか、フリーのアートライターとして、ほんの一部ですが、現在の美術の動向をお知らせしていくことが私の仕事であると感じています。
ブログをお休みしている間もアクセスしていただいている方々に感謝いたします。
予定していました近日中の報道内覧会やアートイベントなども中止になり、美術業界も体制を整えるまでにまだ時間がかかりそうです。
そんな中、4月2日から開催予定の「プーシキン美術館展」(横浜美術館)の延期のお知らせが広報局から入ってきました。
モスクワのプーシキン美術館が誇るフランス絵画コレクションの300年の歴史をたどる珠玉の作品群が展覧され、日本初公開作品が多く含まれることも特筆されます。18世紀のロココを代表するブーシェ、フランス革命後に活躍したアングル、ドラクロワへとたどり、19世紀近代絵画の扉を開くドガ、セザンヌ、ゴーギャン、ゴッホ、そしてマティス、ピカソへと変遷をたどります。
掲載作品「ジャンヌ・サマリーの肖像」ルノワール作 1877年 若々しい女性のバラ色の微笑みがいやされます。

開幕時期はまだ未定ですが、中止になることはありませんので、前売り券をお持ちの方はそのままお待ちくださいませ。
私のブログでも日程の知らせが入り次第お知らせします。
巡回される2か所については、予定通り開催されます。

◆プーシキン美術館展 フランス絵画300年展/横浜美術館/未定~6月26日
 愛知県美術館/7月8日~9月4日 神戸市立博物館/9月17日~12月4日
 


東北地方太平洋沖地震の被災地の方々に心よりお見舞い申し上げます

2011年03月15日 | 展覧会
3月11日午後2時45分頃、私は「ヨコハマトリエンナーレ2011」記者会見の東京会場である有楽町、電気ビルの20階で会見の開始を待っていたとき、今までに感じたことのないほどの横揺れが襲ってきました。それが2度、3度にわたり、机の下にもぐって報道関係者たちは事態の大変さを身をもって体験しました。M5強ということでしたが、現地の被災地ではどんなに怖かったか、身が震える思いです。
掲載写真は、一旦おさまり、会見中止が決まってしばらく待機中に、本展出品作家の一人であり、この日登壇よていであった、横尾忠則さんが、「タクシーにこっちに向かっている途中、六本木の森ビル近くになって、赤い雲が発生しているのを見て、あれは地震雲じゃないかと思った」と話されている様子です。

東京電力の計画停電により交通機関はマヒし、予定されていた国立新美術館の「アーティスト・ファイル展」内覧会他、近日開催される予定だった各美術関係のイベントは中止の連絡が入りました。

被害を受けられた皆様に心よりお見舞い申し上げます。
しばらくブログもお休みしますが、また通常に戻れる日が一日でも早くくるように祈るばかりです。

おおさかカンヴァスプロジェクト

2011年03月09日 | 展覧会
昨年は瀬戸内芸術祭や愛知トリエンナーレなど、その地域性や場を踏まえた作品群が設置され、国際的なアートイベトとして盛り上がりました。今年は横浜トリエンナーレ2011がこの夏に開幕。(8月6日~11月6日)その内容はまたお知らせしますが、地域と人々と作品が結ぶ新たな出会いによる活性化は、ますます広がっているようです。
大阪府、文化課の〈おおさかカンヴァス推進事業〉からオープニングセレモニーのリリースを頂き、大阪ミュージアム構想のプロジェクトの一つとして、このプロジェクトが3月12日からスタートします。
・掲載作品は、それに先立って、万博記念講演広場で行われた出品作家の高橋匡太さんの「夢のたね」のプロジェクトです。参加者に夢のたねを描いてもらい、それにLEDを付け、空高く上がった気球から巻き、その夢のたねは、新たな人々の手に移っていきます。
国際的に活躍する作家から若手まで、23作家/グループの幅広いコンテンポラリーアート作品展示やイベントを大阪府内12エリアで行い、各会場を巡るスタンプラリーも実施予定だそうです。
関西国際空港、旅客ターミナルビル、翼の広場の、稲葉高志さんの展開する「PUZZLE PROJECT」では、巨大なジグソーパズルをピース型に切り抜いた台紙に、国や宗教の異なるさまざまなアーティストが絵を描きそれらを一つにつなぎ合わせて展示されます。(3月12日~5月8日)
5月から8月までと設置期間も各エリアで異なりますので、下記、HPでチェックしてください。巨大な商業都市大阪、B級グルメの宝庫とさまざまな顔をもつ大阪ですが、大阪の街全体をカンヴァスに見立てた新たな都市の魅力の発信を応援したいと思います。

◆おおさかカンヴァス推進事業/http://www.osaka-canvas.jp/

光の変幻 曽谷朝絵 Float

2011年03月07日 | 展覧会
印象派は固定観念ではなく、事物の影の色をその時々の変化で描き分けました。現代の印象派とも言える曽谷朝絵さん(1974年~)は、掲載作品のような「Bathtub」シリーズにより、2002年VOCA賞で大賞を受賞し、光によって多様な表情を見せる水の波紋などを描いて注目作家として活躍しています。
昨年は資生堂ギャラリーで「鳴る音」と題して、色とりどりに彩色された波紋のような形に切り取られた大小さまざまなカッティングシートを組み合わせた大規模なインスタレーションで、光が奏でる和音が空間に響きました。
日常の中に潜む何気ない光のプリズムをうっすらとした彩色を重ねてつくられる色彩のグラデーションは、見る者をゆったりと包み込んでくれます。
本展では、新作約10点(100号~150号)を中心にドローイングなどが発表されます。

◆曽谷朝絵 Float/3月29日~4月30日/西村画廊(中央区・日本橋)
 http://www.nishimura-gallery.com

青森県立美術館開館5周年記念 光を描く印象派展

2011年03月06日 | 展覧会
東北新幹線の全線開通記念により青森県立美術館では常設コレクションが開催されていますが、この夏から秋にかけて開かれる開館5周年記念展では、大規模な印象派展が開催予定です。
自分の眼に忠実に光を追い求めた印象派は、筆触分割法(パレットで絵具を混ぜないで、筆のタッチによって描く)によって、それまでにない明るい画面を獲得しました。
本展は、その誕生の謎を解き明かす異色の印象派展と言えるでしょう。掲載画像は、ギュスターヴ・カイユボット「セーヌ河畔の洗濯物」1892年頃〈ヴァルラフ・リヒャルツ美術館/コルプー財団蔵〉。現在では、画面上の顔料などの分析や下絵などの研究が、顕微鏡やX線や赤外線などでリサーチする研究が進んでいますが、この作品においても、左隅の画面に顕微鏡調査で、ポプラの芽が発見されました。この作品が実際に戸外でポプラ並木の下で描かれたことが実証されました。
この作品は、縦約1メートル50センチ、横1メートルほどもある大作で、風がポプラや洗濯物を揺らすなか、描くのに苦労したかと思いますが、影も青味がかった紫色で明るい陽光の美しい河畔風景となっています。
ルノワールやモネ、マネ、ゴッホ、ゴーギャン、セザンヌなどおなじみの巨匠たちの作品60点を超える展覧となります。
数年にわたる大学機関との科学的なリサーチの研究も発表され、100年以上の時をこえて巨匠たちの制作現場へと誘ってくれます。
◆光を描く印象派展/7月9日~10月10日/青森県立美術館 Tel 017-783-3000 

散歩するような建築空間にマイケル・リン展

2011年03月04日 | 展覧会
東北新幹線が開通し、東北の文化や食が紹介される番組も増えてきましたが、アートにも触れる機会を増やしたいものです。その一つ十和田市現代美術館は、3年前に金沢21世紀美術館設計でも知られる西沢立衛さんの設計で、十和田市の官庁街にアートの散歩道と言える開放的な美術館により話題を巻きました。
22の個別の部屋に繰り広げられた常設展示も楽しみですが、この4月から夏にかけて開催される「マイケル・リン」展はより一層楽しさが広がりそうで期待が高まります。
マイケル・リンさん(1964年~、東京生まれ)は、台湾の伝統的なテキスタイル模様を応用して、建築空間、壁や床にペイントするインスタレーションで国際的に活躍しているアーティストです。掲載画像は、福岡での展覧会のときの参考作品です。
鮮やかな色と線がのびやかに空間に映える作品群が、建築空間とどのように響き合うか、私もこの夏行ってみたい展覧会の一つです。

◆マイケル・リン展/4月23日~8月28日/十和田市現代美術館