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坂野直子の美術批評ダイアリー

美術ジャーナリスト坂野直子(ばんのなおこ)が展覧会、個展を実際に見て批評していきます。

横山大観の清新なる息吹

2011年10月19日 | アート全般
今、横山大観の創造について記事を書くにあたり、画集などをひも解いているのですが、改めて大観の筆致の清新さに目をみはるばかりです。大観は現在の東京芸大の一回生で、校長の岡倉天心の日本画の近代化の推進に傾倒し、日本美術院の創設の幹部となりました。
この掲載作品の「屈原」(部分)(1898年)は、日本美術院の第1回展でトップ賞となる銀賞を獲得しました。中国の故事を題材にした有名なテーマですが、大観や菱田春草が追求した西洋画における明暗法が取り入れられた画法となっています。
「朦朧体」というそれまで雨などを線で表現したのに対して、空気を描く工夫を段階的に発展させていきます。
すさまじい人物表現と奥行きのある空間性が融合した青年画家、大観の気迫に満ちた表現となっています。

藤田嗣治 油絵新発見37点

2011年08月31日 | アート全般
新聞他でご存じの方も多いかと思いますが、30日、神奈川県箱根町のポーラ美術館が、〈エコール・ド・パリ〉の画家として活躍した藤田嗣治(1886~1968)の晩年の油絵の小作品が見つかったことを発表しました。
いずれも一辺が10~30㎝ほどの厚紙に子どもたちが描かれたもので、晩年の連作「小さな職人たち」の前段階の作品といわれています。
現在、当美術館で開催中の「レオナール・フジタ」展(来年1月15日まで)に9月6日から追加出品されます。
・掲載作品は、公開される新発見の作品の1点「パイプとタバコ」1957年 ©ADAGP,Paris&SPDA,Tokyo,2011
シンメトリックな構成で、愛らしい少女の手の表情が面白い上半身の作品です。
「素晴らしき乳白色」と呼ばれ、その下地に面相筆の墨で輪郭線を描く表現方向で、自画像が裸婦、室内画など60年に及ぶ画業の中で大作を数々制作しましたが、職人に扮した子どもをユーモラスに描いた晩年のタイル画の連作は、もう一つのフジタの魅力であり、パリのアトリエの壁面に飾られフジタの生活空間を彩っていました。
「小さな職人たち」のモチーフとなっているのは、左官や指物師、椅子職人のような職人たちばかりではなく、古くからパリのパリの路上で見られた馬車の御者やガラス売りなどさまざまな職種です。
新発見の作品群はこのシリーズの前段階を示す作品で、同じようなモチーフもあり自由な感覚とフジタの空想的イマジネーションの豊かさが見られます。

◆レオナール・フジタ展/開催中~12年1月15日/ポーラ美術館’神奈川県・箱根町)

八ヶ岳の自然の中の中村キース・へリング美術館

2011年08月25日 | アート全般
60年代、ウォーホルによってキャンベルスープやマリリンの肖像で、アートを高尚なものではなく生活の中の雑誌の切り抜きや広告媒体を応用した、シルクスクリーンによってスリリングにアートの価値観を変えて行きました。
80年代アメリカのアートシーンに躍り出たのが、キース・へリング(1958~90年)でした。1981年、ニューヨークの地下鉄の広告版の黒い紙に、白いチョークで描かれたシンプルの人型やイヌ、ピラミッドなどが出現しました。駅員や警官の目を盗んでその絵は次々と書き換えられました。その記号的なアイテムは人々をくぎ付けにしました。
へリングは、「地下鉄は人種、階級、性別、職業に関係なく、もっとも多くの人が往来する場。ここに描けばみんながみてくれる」と言います。ウォーホルのアートの大衆化は、へリングのストリートアートへと引き継がれたのです。
4コママンガのようなユーモアのあるタッチは、ヒップホップのダンスに呼応するようにはじけています。当時アメリカ社会における経済の混乱や治安が悪化し、犯罪の多発がクローズアップされていました。へリングは大都市の光と影を見抜き、社会風刺的な要素を盛り込んでいきます。
・八ヶ岳の小淵沢の自然豊かな地にある美術館は、白に赤をビビッドに利かせた緑の中に映えています。
フリーハンドで一気に描かれた大作を軸に、へリングはマティスなどの原色と鮮やかな色彩と黒の対比などモダニズムの研究の成果も見て取れます。
大衆の賛辞から一気に商業主義的マーケットの渦に巻き込まれたへリングですが、タイムズスクエアのビルボードのアニメーション制作や舞台デザイン、ポップショップをオープンするなど、それまでのアートの枠をこえて創作を多岐に広がっていきました。
HIV感染の診断後は、作品や活動を通してエイズ防止のメッセージを送り続け、2年後の31歳で亡くなるまで、リズミカルなグラフィティを燃焼させました。

◆中村キース・へリング美術館(山梨県北杜市)
*当美術館の所蔵作品を中心に国内から集められた150点が展示されるキース・へリング展が開催されます。
 ・LOVE POP! キース・へリング展/12年1月21日~2月26日/伊丹市立美術館

アメリカで発見され、ダ・ビンチ「救世主」と確定

2011年07月13日 | アート全般
ルネサンスの三大巨匠の一人、レオナルド・ダ・ビンチの油絵作品は寡作として知られ、超完璧主義であったダ・ビンチは、もっとも完成作の少ない巨匠と言えるでしょう。
万能の天才といわれ、天文、風や水の動態、動力、鳥の生態、人力飛行機の考察など、有名な『手稿』には人体や自然を観察した結果を写し出すだけでなく、まだ形になっていないアイデアを視覚化するために素描が多く残されています。
宮廷画家として、また都市計画、軍事兵器なども研究し、安定した宮廷芸術家としての職を求め、ミラノからフィレンツェ、そしてヴァティカンを経て、晩年はフランスへと遍歴をかさねたことも知られています。
このほどアメリカで発見されたダ・ビンチの「サルバトール・ムンディ」(救世主)は、彼の真作と確定され、ロンドンのナショナル・ギャラリーで11月に展示されることになりました。
この作品は、キリストが右手を天に向け、左手に水晶玉をもつ胸像で、制作年は、1500年頃となり、あの「モナリザ」が描かれる3年前のフィレンツェ滞在中と思われます。
17世紀イギリスのチャールズ1世が所有し、18世紀半ばに競売にかけられ、1900年には作者不明のままイギリスのコレクターが所蔵していたそうです。2005年にアメリカのオークションで現在の所有者に渡り、専門家が調査しダ・ビンチ作品と確定しました。

甲田洋二学長にお話をうかがって

2011年05月23日 | アート全般
日本和紙ちぎり絵協会の機関紙の編集をしていまして、その1面に登場していただくために、武蔵野美術大学学長の甲田洋二氏(洋画家)にお話を伺いに、武蔵野美術大学に行ってきました。
東京都の小平の玉川上水の緑道を通って行く道のりは、武蔵野の面影を残す気持ちの良い散歩道です。雨模様でしたので、少し残念でしたが。
甲田先生は「美の力の時代」の到来に向けてという、学長メッセージを提言されていて、ものづくりを持続していくことで他者への思いやり、尊敬の念が養われていく、この美の力こそが今の社会参加に大切な存在であるといわれています。
画一的なエリート主義だけでは今の時代の変化はつくれない。だけど今の美大生も統一的ないい作品をつくろうとして、失敗を怖がる若い人が多い。そのために、破格の大きさの作品の課題を出したりと、自己を解放することから始めるんです。というお話はとても貴重な内容でした。
作品は、「Y氏の場合ーHigh Way Dream A」2005年です。青梅市にお住まいで、中央に描かれているのが高速道路で、前景の雑木林の自然と遠景の団地の光景が現代を象徴しているようです。地面や空の色も鮮やかです。女性像や人間像も多く描かれていましたが、この風景シリーズでは、刻々と変化する環境へのまなざしが見て取れます。日記のように家の近くの風景をスケッチしていくと、思わない発見もあったりして、あらためて対象を見て描くことの大切さも感じました。と話され、構成的な作風の中でテーマも広がっています。

ツルの越冬地、鹿児島出水市に思うこと

2010年12月26日 | アート全般
国内最大のツルの越冬地として知られる鹿児島の出水市(いずみし)で、ナベツルが高病原性鳥インフルエンザに感染した記事では、ついにここまで来たかという思いと胸が痛む思いです。美術的な面においても日本画の花鳥画ではなくてはならない鶴ですが、吉兆のテーマとしても尊ばれてきました。古来大和の国は、各地でツルの姿を見られたようですが、現在では限られた地域でしか見ることができません。何千羽と飛来するここ出水市は、日本画家も多く訪れその姿を画面に収めてきました。
加山又造もその一人。日本画の革新者として西洋の抽象的簡潔さ、デフォルメを日本画に融合しつつ造形探求を続けていた又造が、日本の琳派の装飾性に目覚め、新たな境地を開いた1970年代。この出水市に訪れ、何千羽のツルが一斉に飛び立つ様に感動し代表作「千羽鶴」が生まれたのです。金泥を使った絢爛たる屏風絵は、美しい日本風土のたまものです。
関係者の方々の必死のご努力が実って鳥インフルが拡大しないように祈るだけです。

来年のカレンダーはクレーの作品で

2010年12月10日 | アート全般
今年もあと20日ほどとなり、来年はどのようなカレンダーにしようか選んだりするのも楽しいものです。
美術館ショップには印象派からモダンマスターのカレンダーがいくつか置いてありそこから選ぶ方も多いかと思います。
カレンダーも景気を反映するのでしょうか、インテリアにもなるマチスやバスキアの大判のポスターが姿を消し、定番の大きさに落ち着いたように思います。
カラフルなアート系のカレンダーはインテリアの一部としても映えますね。私は来年はクレーのカレンダーを選びました。1920代の作品の画像で、ポリフォニックな色彩の和音が奏でられています。クレーは音楽にも親しみ、線と色彩に抽象の扉を開いた画家で、日本でも数多くの展覧会が開かれています。
来年も京都と東京で大規模にクレー展が開催されます。テーマは「クレー作品が実際にどのように作られたか」にスポットを当てた内容で日本初公開を含む170点が展覧されます。

◆「パウル・クレーおわらないアトリエ」/3月12日~5月12日・京都国立近代美術館/5月31日~7月31日・東京国立近代美術館

成城のアートギャラリーでブラマンクの秀作に

2010年12月04日 | アート全般
世田谷の成城は高級住宅街として知られていますが、隠れたイタリアンやフレンチの名店があるのも成城界隈で、ぶらりと立ち寄れる明るい室内のギャラリーに出会いました。正常さくらさくギャラリーという名前も可憐なギャラリーで、開廊1周年秀作展が開かれていました。私が気になって入ったのは、田崎広助の小品ですが山のダイナミックな秀作が、窓越しから見えてコレクションの質の高さが感じられました。
ギャラリー内には日本画の大御所、松尾敏男氏、竹内浩一氏、平山郁夫氏、また異才の熊谷守一の書や墨の作品など数点、2階に上がると奥に、ブラマンクのフォーヴ時代の全盛期の作品がかけられていました。掲載画像の右奥の作品で、その左はアイズピリ「花」で、こちらは現代に近い作品です。洋画、日本画を問わずかなり高額な作品も揃えて、一時鑑賞できるのもぜいたくな時間でした。
・成城さくらさくギャラリー 03-5727-3133




アート散歩が待ち遠しい!?

2010年10月31日 | アート全般
台風14号は関東各地に大雨をもたらしましたが、今日もどんよりとした空で、この土、日に出かけようと計画していた人もちょっと足踏みでしょうか。私は金曜日に国立新美術館(六本木)に行ってきまして、アートライブラリーで連載記事の料を集めてきました。この日はアート散策には心地よい日で、館内も大勢の観客の方々で賑やかでした。その日は「日展」の初日で、ゴッホ展も開催中ということで、観客の年代も幅広く、夕方にはカフェで談笑する様子は確かにこの地がアートのスポットとして定着した感じを受けました。ウエーヴする美術館の正面の窓越しからは気持ちの良い光が差し込んでいました。=写真
展覧会記事とは別に、Art Journal誌で「現代美術の流れ」を連載していまして、前回は80年代、ドイツ・ニューペインティングのアンゼルム・キーファーを取り上げました。年代的にはバックするのですが、今回は70年代のイタリアの重要な動向である〈アルテ・ポーヴェラ〉のルチアーノ・ファブロを取り上げます。ファブロは、日常的な既成の物質などを用い、ミニマルな形態と最小限の制作行為で、通常のわれわれの知覚や認識に「これはアートであるのか?アートの規定はどのような範疇まで広げられか」という実験的な運動の代表的なアーティストの一人です。
今、アートは社会的な提言を推し進める方向から、個人的なたとえば、ケイタイ小説のような個々の社会との対話が繰り広げられています。従来の素材を使ってまるで新しい世界観を表現する若い世代。〈アルテ・ポーヴェラ〉は現代へと自由な表現への扉を開いた一つの起点となったアートの動向です。



ぐるっとパス利用で、もう一つのアートとらいあんぐる

2010年10月16日 | アート全般
今月の27日の読売新聞・朝刊(東京地区)になるのですが、〈秋の東京散歩〉という東京の美術館特集記事が出ます。これは〈ぐるっとパス〉という東京の美術館、博物館共通入場券と割引券がついたチケットブックで都内70の施設で利用できる企画と一体となっています。今年で3回目となるそうですから、ご利用になられた方もいらっしゃると思います。
この美術館案内の記事に私が少し関わっていまして、先日虎ノ門のホテルオークラにほど近い智(とも)美術館に取材を兼ねて行ってきました。近・現代の陶磁器専門美術館で、八木一夫、加茂田章二など陶芸通の方ならご存じのお名前で日本を代表する陶芸家の方から現代作家を育てる大賞展なども開催されています。
穏やかなライティングの演出で一つひとつの作品を光の交差の中に土の肌合いの変化を見せていました。ここのもう一つの特徴は、ガラス越しに庭園を望むレストランも含めってゆったりとした敷地にあることで、都心にあって本当に贅沢な感じがしました。
この地域ではホテルオークラに隣接する大倉集古館、泉屋博古館と日本、東洋美術の優品を集めた3館が徒歩圏にあり、〈アートのとらいあんぐる>として、より親しんでもらおうと企画中だそうです。
六本木の国立新美術館、森美術館、サントリー美術館のトライアングル構想とはまた一味違った、和のとらいあんぐるをこの秋、ゆったりと味わってみるのもいいかもしれません。