白鴨に たまひし銀の 簪を とりて眺むる 秋の空かな
*今日は昨日とは全然雰囲気の違う作品を取り上げてみました。これは、女性の弟子の作品です。彼女が、銀の簪(かんざし)を歌に詠みこみたいというので、指導してみました。
何でも、遠い昔に、いい男に銀の簪を贈られたことがあるのだそうです。とてもうれしかったのだが、その男はすぐに死んでしまって、とても悲しかったそうです。その心を歌にしてみたいというのです。
まだ未熟ですから、自分では上手に歌えないらしいので、いろいろと尋ねてみました。その男はどんな男なのかと、何か動物などにたとえてみなさいと。そうすると、彼は白い鴨のようだったと言うのです。
そんなに美男ではなかったが、いい感じのする人で、やさしかったと。
古語に、「黒鴨(くろかも)」という言葉があるのですが、それは文字通り黒い水鳥という意味もあるのですが、他に下男とか召使という意味もあるのです。彼はそういう仕事をしていたそうです。まじめな人で、黒いというよりは白い感じだったと。だから白鴨(しろかも)にしてみました。
旦那さんのところで下男をしてまじめに働いている男の人に、もらった銀の簪を手にとりながら、秋の空を眺めているのです。あの人は、そんな遠いところに行ってしまったからです。
よいですね。未熟ながらも素直な歌い方が良い。こういう練習を積み重ねていけば、歌の詠み方がわかってきて、もっとおもしろい歌が詠めるようになります。
ところで、この歌に触発されて、他の男の弟子がこれに答える形で歌を詠んでくれました。それも紹介してみましょう。
濃き紅の 百合を思ひて 簪の 店を訪ひたる 夕べなるかな
わたしには思う女性がいて、それは濃い紅の色をした百合のような人なのです。その人を思って、簪の店を訪ねた夕方ごろのことでした。
いいですね。はじめは真似事でもいい。しっかりと足を踏みしめてやっていけば、どんどん自分の力を大きくしていくことができます。
頑張る姿が美しい。人はこうでなくてはいけない。