マダム・クニコの映画解体新書

コピーライターが、現代思想とフェミニズムの視点で分析する、ひと味違う映画評。ネタバレ注意!

塀の中のジュリアス・シーザー/私も入ってみたい!

2012-12-20 | 映画分析
  タヴィアーニ兄弟の2012ベルリン国際映画祭グランプリ受賞作品は、ローマ郊外の刑務所で実践されている演劇活動をドラマ化したものだ。受刑者たちは舞台に立つことで生き甲斐を見出し、一般の観衆とのふれあいを楽しんでいる。
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 登場する役者は、演出家を除いて、全員が重警備棟に収監されている服役囚または元服役囚だ。ほとんどがマフィア出身の重犯罪者で、終身刑を宣告されている。
 噂を聞きつけ、ダンテの『新曲』の朗読風景を見学した監督が、余りにも文化的な雰囲気に感銘を受け、本作の撮影を提案したという。

シェークスピアの悲劇『ジュリアス・シーザー』の上演を目指す囚人たち。その稽古シーンをモノクロで、舞台シーンをカラーで撮り、刑務所を重厚なローマ帝国に仕立て上げた。モノクロならではの豊かなイマジネーショを活用した映像美の見事さに息を吞む。

 彼らは、誰もが抱えている壮絶な過去をバネにして飛翔する。実生活上での友情や裏切り、反権力、殺意などを役柄に重ねて、本気で演じるため凄みがある。鑑賞後パンフレットを読むまで、プロの俳優を使っているものと思い込んでいた。

ブルータスによるシーザー殺害の稽古シーンは、現実の殺人事件が起こったのでは、と思わせるほど緊迫感に満ちていた。
 ミステリーが好きな私は、冒頭の舞台シーンがなければ、どんなによかっただろう・・・、と本気で思った。何しろ彼らの舞台に感動した人たちがスタンディング・オベイションする様子を延々と観せるのだから・・・。

 それにしても、実際の刑務所内で、本物の囚人たちを起用して劇映画を撮るなんて、我が国では考えられない、奇想天外の出来事である。
 近年、イタリアでは精神病院も改革。開放的にして成果を収めている。昨年、それをテーマにした映画『人生、ここにあり』を観て感激したことを思い出した。

定かではないが、ラスト辺りで「アートと出会って、牢獄が監獄になった」というような囚人の台詞があった。「監獄」と「牢獄」の違いがよく分からないが、ミシェル・フーコーは、その著書『監獄の誕生』で、国家権力によって人間管理(自分自身が監視し、監視される存在である)をする最も政治的な機構が「監獄」だ、と記している。

前述の台詞は、これを逆説的に捉え、「牢獄」は単なる罪人を閉じ込めておく場所だが、「監獄」はいい意味での人間管理をする場所だ、と言っているのだろうか?
 つまり、「演劇活動をすることにより、自分自身を見つめることが出来るようになった。同時に、多くの人に観られることで意欲が湧き、人間的に成長できる」と・・・。
  いずれにしても必見の名作である。 
★★★★★(★5つで満点)

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1 コメント

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2012-12-30 21:58:59
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