マダム・クニコの映画解体新書

コピーライターが、現代思想とフェミニズムの視点で分析する、ひと味違う映画評。ネタバレ注意!

燦々/生き切るためのヒント 

2013-12-21 | 映画分析
2013年、日本、外山文治 監督
 高齢者が主人公の作品が目白押しである。本作は老いや死を背景にした、少しシリアスなラブコメディ。脚本・監督は高齢化社会をテーマにした短編部門で数々の賞に輝いた32歳の外山文治、長編デビュー作だ。吉行和子、山本学、宝田明らが熱演している。

私事になるが、より多くの同世代の考え方や行動が知りたいと思い、6年前、シニア対象の市民大学に2年間在籍した。そこで体験したできごとが本作と重なり、思わずクスッとする場面が度々あった。

 77歳にして婚活を始めた吉行和子が、周辺の人を巻き込み、どんどん輝いていくドラマだが、驚いたことに、登場人物たちのほうが、私の学友たちよりずっと真面目なのだ。

 シニアの恋愛は想像以上に多い。学友の約半数がシングルだが、伴侶の有無に関わらず、大胆なカップルが次々と誕生した。不倫やナンパ、ストーカーなども日常茶飯事。しかもほとんどの恋愛関係が今も続いている。

本作と比較すると、彼らの脳天気振りが目に付く。
例えば、婚活中の吉行が、紹介所で出会った山本学に恋をするケース。彼は熟年離婚したのだが、介護が必要な前妻への罪悪感が払拭できない。「話をしたかっただけ」と吉行に告白するクライマックスシーンは十分納得できるが、学友は認知症の妻を介護しながら、同級生との逢瀬を楽しんでいる。

 吉行は、女性をセックスの対象としてしか考えていない男性とも見合いをする。他の男性たちとは一線を画する彼のホンネ振りは印象的だ。
 学友の中にもその類の人がいたが、ナンパされる女性たちも心得たもの。”老いてなお盛ん”であることを自慢している次第。
” 事実は小説よりも奇なり ”なのである。

 動機はそれぞれだが、誰もが出会いを求めている。
 映画では、主要な登場人物の背景が浮き彫りにされているので、悲惨な過去にも思いを巡らせることができる。喜劇であっても、ベースにある人間の悲しみを感じとることができるため、笑って済ませることができなくなる。
 現実では、他人にはなるべく弱みを見せないようにしているので、”いいとこ取り ”をしているように見えてしまうのだろう。私を含めて傍観者は総じて冷ややかである。

本作は介護や死の場面もかなりあり、リアリティがあるので、考えさせられることも多い。若者の視点から描いた、ある種のファンタジーでもある。
 予測不可能な展開もあるが、予定調和的な部分もあり、ほのぼのとした気分にさせてくれる。そして何よりも勇気を与えてくれる。
 吉行は言う。「騙されても裏切られても、何にもないよりずっといいの・・・」と。

 前述の学友カップルたちが長続きしているのは、どの人も「人生最後の日々を燦々と輝かせたい」と思って、お互いを慈しむからだろう。毎年、約500名の入学者の中で、5組ほどが結婚すると聞く。
 結婚しなくても、仲睦まじいカップルは沢山いる。OB会や街角などで会うと、堂々と手を繋いでいる人もいる。そして間違いなく年々若々しくなり、華やいでくる。
 
 高齢者の恋愛はもうタブーではない。全ての輝きたいシニアにはもちろん、出会いを諦めているシニアに本作を強くお勧めしたい。共感の中に得るものが沢山あるからだ。
★★★★(★5つで満点)

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