2013年、日本、青山真治監督
オイデプス王と王女メディアの悲劇を想起させる家族の物語。息子は同居している父の愛人と、父は息子の恋人と交わり、母は夫にとどめをさす。
都会から離れた小さな田舎町。町を貫く淀んだ河口に架かる大橋。「河は女の割れ目」という父は、それを跨ぐ橋に自分を重ね、「この河の傍ではセックスしか楽しみがない」とのたまう。
この町の神社の境内で知り合った父と母。父は筋金入りのサディストで、セックスの最中に女を殴ったり、首を絞めることにより、自分だけの快楽を追求する。そのため母は息子を残して逃げ出し、川向こうで1人暮らしをしながら魚屋を営んでいる。
父は若い愛人と高校生になった息子の3人で暮らしている。
息子も同級生の恋人とここの神輿倉でセックスを重ね、サディストの連鎖を恐れながらも、彼女にDVしてしまう。境内で遊ぶ子どもたちは、その光景をのぞき見しているようだ。
「聖と俗」の混交が神話性を醸し出し、悲劇の予感が全編に通底する。
おろした魚の内臓や血などを河に捨てる母、風呂場から精液を河に流す息子。その河から息子はウナギを釣り上げ、母が捌き、父の愛人が皿に盛り、父は1人で肝まで喰らい尽くす。
まさに「共喰い」である。
ウナギ、肝、ミミズ、ナメクジ、釘針、釣り竿など、橋の他にも男性を表すメタファーが頻出する。
オスのウナギはメスの河から生まれて、そこに還ってくるのだ。
母は先の大戦で左手を失い、金属製の義手を着けている。義手は男性器を連想させ、夫のそれのように凶器と化す。
父と息子は(娼婦も含めて)互いのパートナーを結果的に共有し、暴力的に犯すことを反復。愛のないセックスにより、女性たちに去られてしまう。
母は息子の父への殺意を感じ取り、女性への暴力の連鎖を断ち切りたいとの執念と息子を守るために、夫を義手と刺身包丁で始末する。
血を洗い清める禊ぎのように、包丁が突き刺さったまま、自分が生まれた場所=女の割れ目である河に還っていく父。
一部始終を見ているだけの息子・・・。
半年後、息子は町を脱出して父を乗り越えようとするが、戻ってきてしまう。
暴力を防ぐため、父の子を身籠もったと嘘をついた父の愛人はスナックを経営し、息子の恋人は彼の母の服役を機に魚屋を継ぐ・・・。
ゴミの浮くドブ河は、ウナギを生み出すエネルギーに充ち、したたかに生きる女たちそのものだ。暴力は男の専売特許ではない。女も動物を殺戮する存在なのだ。
一方、河に回帰しても釣られて喰われるだけのウナギは、男たちの脆弱さを表象する。
折しも昭和の終焉を告げる日が来た。面会に来た息子に天皇の戦争責任に言及する母。『戦争と一人の女』の脚本家・荒井晴彦は、本作でも面目躍如である。
家父長制社会から、新時代の再構築へ・・・。夜明けを連想させる終幕。
父と息子、母と息子、食欲・性欲・暴力性、聖と俗など人間の根源に関わる問題が満載の秀作である。
★★★★★(★5つで満点)
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オイデプス王と王女メディアの悲劇を想起させる家族の物語。息子は同居している父の愛人と、父は息子の恋人と交わり、母は夫にとどめをさす。
都会から離れた小さな田舎町。町を貫く淀んだ河口に架かる大橋。「河は女の割れ目」という父は、それを跨ぐ橋に自分を重ね、「この河の傍ではセックスしか楽しみがない」とのたまう。
この町の神社の境内で知り合った父と母。父は筋金入りのサディストで、セックスの最中に女を殴ったり、首を絞めることにより、自分だけの快楽を追求する。そのため母は息子を残して逃げ出し、川向こうで1人暮らしをしながら魚屋を営んでいる。
父は若い愛人と高校生になった息子の3人で暮らしている。
息子も同級生の恋人とここの神輿倉でセックスを重ね、サディストの連鎖を恐れながらも、彼女にDVしてしまう。境内で遊ぶ子どもたちは、その光景をのぞき見しているようだ。
「聖と俗」の混交が神話性を醸し出し、悲劇の予感が全編に通底する。
おろした魚の内臓や血などを河に捨てる母、風呂場から精液を河に流す息子。その河から息子はウナギを釣り上げ、母が捌き、父の愛人が皿に盛り、父は1人で肝まで喰らい尽くす。
まさに「共喰い」である。
ウナギ、肝、ミミズ、ナメクジ、釘針、釣り竿など、橋の他にも男性を表すメタファーが頻出する。
オスのウナギはメスの河から生まれて、そこに還ってくるのだ。
母は先の大戦で左手を失い、金属製の義手を着けている。義手は男性器を連想させ、夫のそれのように凶器と化す。
父と息子は(娼婦も含めて)互いのパートナーを結果的に共有し、暴力的に犯すことを反復。愛のないセックスにより、女性たちに去られてしまう。
母は息子の父への殺意を感じ取り、女性への暴力の連鎖を断ち切りたいとの執念と息子を守るために、夫を義手と刺身包丁で始末する。
血を洗い清める禊ぎのように、包丁が突き刺さったまま、自分が生まれた場所=女の割れ目である河に還っていく父。
一部始終を見ているだけの息子・・・。
半年後、息子は町を脱出して父を乗り越えようとするが、戻ってきてしまう。
暴力を防ぐため、父の子を身籠もったと嘘をついた父の愛人はスナックを経営し、息子の恋人は彼の母の服役を機に魚屋を継ぐ・・・。
ゴミの浮くドブ河は、ウナギを生み出すエネルギーに充ち、したたかに生きる女たちそのものだ。暴力は男の専売特許ではない。女も動物を殺戮する存在なのだ。
一方、河に回帰しても釣られて喰われるだけのウナギは、男たちの脆弱さを表象する。
折しも昭和の終焉を告げる日が来た。面会に来た息子に天皇の戦争責任に言及する母。『戦争と一人の女』の脚本家・荒井晴彦は、本作でも面目躍如である。
家父長制社会から、新時代の再構築へ・・・。夜明けを連想させる終幕。
父と息子、母と息子、食欲・性欲・暴力性、聖と俗など人間の根源に関わる問題が満載の秀作である。
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