クラシック音楽のひとりごと

今まで聴いてきたレコードやCDについて綴っていきます。Doblog休止以来、3年ぶりに更新してみます。

アルフレート・ブレンデルが弾く「月光」 <TB企画: あなたの思い出の曲とそのエピソード>

2005年07月03日 03時14分43秒 | 器楽曲
[関連したBlog]

これは夢騎士さんのブログでの企画へのエントリーです。


思い出の曲は沢山あるんですが、拙ブログタイトルにふさわしく、クラシック音楽で書いてみようと思います。

ベートーヴェンのピアノ・ソナタ「月光」。

学生の頃、福永武彦の作品に傾倒しておりました。特に『死の島』、『風土』、『草の花』には大きな影響を受けました。福永作品は、クラシック音楽をモチーフにしたものが多く、マーラーやシベリウスの交響曲や管弦楽曲が出てきます。ボクが初めて耳にする作曲家でもありました。
そして、『草の花』では、ベートーヴェンの「月光」を弾く場面が出てきます。

ボクがクラシック音楽を聴き始めるようになったのは、福永武彦の文学であり、『草の花』であったのです。

さて、やがて、「月光」のレコードがいくつか手に入っていきます。
ブレンデル、アシュケナージ、ホロヴィッツ、そしてグルダ。
ボクはアシュケナージの透明感が好きでよく聴いておりました。

当時、大学4年生。
のちに結婚する家内とは同じ大学・同じ学部・同じサークル。
その頃は最も仲の良い、信頼できる親友でありました。
家内は教育学科でしたので、教員免許状を取得するのに必死でありました。
中学・高校の免許状は私大の文学部でも簡単に取得できるのですが、小学校は一発試験を受けて合格しなければもらえないシステムでありました。
一般教養に加えて、水泳や音楽もありました。
その音楽の試験がピアノ演奏、課題曲が「月光」であったのです。

「手本になるような『月光』を貸して欲しい」と言われたので、ボクは先の4人の演奏をテープで聴かせました。
「気に入ったのを手本にすればよいんじゃないか」と。
ボクはアシュケナージやグルダが好みでした。
しかし、彼女が選んだのは、ブレンデルでありました。
「私はこういう演奏をしてみたい。テンポもタッチもこれが最高だと思うわ」との返事でありました。

ボクはピアノを弾けません。クラシック音楽が好きなだけで、ズブの素人であります。
なるほど、ピアノを弾ける女性はブレンデルを選ぶのか、と感心しつつ、何度も聴き直したものです。

たしかに、テンポは正鵠そのもの。
タッチは実に繊細で、たゆたう月光を思わせる第1楽章。
軽やかに弾んで、リズム感に富む第2楽章。
迫力十分、しかもベートーヴェンの意志の強靱さがよく現れている終楽章。

一度聴いただけでは分からなかった演奏だったのですが、何度も聴き直すうちに、すっかりボクの基準演奏になってしまいました。

その後彼女は、一発試験に合格。小中高の免許状を持っていることを今も誇りにしております。
教員採用試験には不合格だったので、結婚後は専業主婦の道を邁進しております。
少々ピアノが弾けるだけで、クラシック音楽には無縁な女であります。
ブレンデルの演奏など、とうに忘れているでしょう。
ボクが4種類の月光を録音してやったことも忘れているでしょう。

それで構わんのです。時が経つのは、そういうことであります。

ただ、ブレンデルの「月光」は今もボクの手元にあるわけです。
青春を共有したLPレコードはCDの姿に変わって。



最新の画像もっと見る

コメントを投稿