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ボヘミアンのようには…
気仙沼在住の千田基嗣の詩とエッセイ、読書の記録を随時掲載します。

エッセイ ある妄想…市町村職員立法能力のXデイ(前編)

2010-02-12 19:08:17 | エッセイ
市町村アカデミー(在千葉市幕張)に研修で参加した時のレポート。優秀賞で、機関誌「アカデミア」に、昨年、掲載されたもの。
 今夜は、前編。

はじめに
 地方分権を推進しようとするなかで、このところ、市町村議会の機能強化、議員の資質向上が大きな課題となっている。首長、行政部にたいする監視機能、さらには政策形成、立法機能の強化が求められている。
 現在、われわれ市町村職員は、地域において、現場にあって課題を見出し、その解決策としての政策立案の能力、その中の重要な分野として法務能力(自治立法、自治解釈、争訟法務)の向上に努めている。
 しかし、自治体の立法部たる議会が、その立法能力を高めていくとすれば、そのほとんどが首長など執行機関の補助職員であるわれわれ市町村職員に、解釈、争訟の分野はさておき、自治立法能力の必要性が失われてしまう、という日が、遠くない未来に訪れるのではないか。などと、いささか妄想めいた思いが脳裏をよぎったことから、思考ゲームめいた考察を試みようとするものである。

1自治立法の充実強化にあたっての妄想、あるいは一つの懸念
 ところで、立法、行政、司法の三権分立のなかで、法律・条例の立案は、事実上、ほとんど、行政部、国にあっては内閣の各省庁、地方にあっては、執行機関において行っている。しかし、一般の国民にとっては、このことは必ずしも自明のことではない。立法機関たる国会、議会が、法律案、条例案自体をもすべて策定しているものと誤解されているところもあるのではないか。行政部は、立法部の作った法規に基づいて、決まった仕事をこなしているのであろうと。(私自身、法案の立案こそが中央省庁官僚の主たる仕事であるということは、市役所に勤務するようになってから以降の、新鮮な発見であった。)
 我が国において、国の議院内閣制に対して、地方は、二元代表制、あるいは首長制、一種の大統領制を採用しているといわれるが、大統領制の本場ともいうべきアメリカ合衆国においては、大統領に議会に対する議案の提案権がない。法律案も、直接提案できないという。条例案の提案がほとんど首長からであるこちらの状況からすると、これまた、逆の驚きであった。
 さて、現在、国との関係において、自治体の立法機能の充実強化が主張され、実際、多くの独自の条例が制定されている。その多くは、議会独自の立案にかかる議員提案のものではない。上に述べたように、行政部たる首長提出の、つまりは、その補助機関たるわれわれ自治体職員の立案にかかる条例である。先進自治体、また規模の大きな自治体にあっては、自治立法の立案能力は、法令の自主解釈能力、争訟能力ともども、十分に高まっていると言って差し支えないものであろう。しかし、特に中小の自治体にあっては、まだまだ開発途上であると言わざるを得ない。国の準則に頼りたがる風潮も払拭されていない。
この状況の中で、さらなる自治の発展拡充を求め、議会の立法能力向上の必要性が語られ始めている。急いで言っておけば、これは、まったく正当なことであり、ここで、私がその主張に異議申し立てしようとするものでは、全くない。
これは、たぶん、妄想の類いであることは、重々承知しつつ、ひとつの懸念、というよりは、遠い理念的な帰結のようなものが、脳裏をよぎっていく、ということを書き留めておきたいと思っただけである。
つまり、立法能力の向上について、行政部たる首長の補助機関であるわれわれ市町村職員をスル―して、議会、議員にこそ求められる、という事態になってしまうのではないか、と。国から地方へ、さらに、地方の中の行政部を通り越して、立法部へ。(われわれが、議会事務局の職員でもありうるということは、ここでは、とりあえず忘れておく。)

2関係する地方自治法の条項
 議論を展開するために、関係する地方自治法の項目を確認しておく。

第九十六条  普通地方公共団体の議会は、次に掲げる事件を議決しなければならない。
一  条例を設け又は改廃すること。 (以下略)

議会こそが、自治体の立法権を有する。これは自明のことである。

第百十二条  普通地方公共団体の議会の議員は、議会の議決すべき事件につき、議会に議案を提出することができる。但し、予算については、この限りでない。

議会は、条例の提案権を持ち、当然、立案する権能も持つものである。しかし、これも改めて言うまでもないことであるが、下記の通り、首長も提案権を持つ。(当然、立案もしうる。)

第百四十九条  普通地方公共団体の長は、概ね左に掲げる事務を担任する。
一  普通地方公共団体の議会の議決を経べき事件につきその議案を提出すること。 (以下略)

地方自治法をみれば、議会と首長と、双方が議案の提出権を有するものであり、われわれ職員が、自治立法能力の獲得を期待されない、などという事態は、杞憂に過ぎないはずだ。ただし、正しき理念の実現に向けては、法律は、つねに改正も行われうるものである。


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