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ぼくは行かない どこへも
ボヘミアンのようには…
気仙沼在住の千田基嗣の詩とエッセイ、読書の記録を随時掲載します。

木立時雨 宮城発!お魚川柳 新葉館出版

2019-04-03 13:41:08 | エッセイ

 平成28年3月11日の発行である。震災後ちょうど5年の日。

 著者は、石巻市在住の地元の魚をこよなく愛する水産人で、ととけん(日本さかな検定)1級、調理師免許、利き酒道2段(宮城県酒造組合認定)を有するという。

 木立時雨はこだちしぐれと読むらしい。ペンネームである。時雨は、音読みすると「じう」であり、こだちじうとも読める。

 西洋にアナグラムという言葉遊びがあり、いま、日本では、詩人・絵本作家の石津ちひろさんが第一人者ということになるが、この著者も、なかなかにことば遊びの才に恵まれた人物のようである。あることばの、たとえばそれは人名であったりするが、その構成するアルファべットをばらばらに並べ替えて、全く違う、しかし、それとして意味の通る言葉にしてしまう、ということば遊び。

 たとえば、とここで、石津さんの手になる、宇野亜紀良の挿絵が豊富に使われた著書「アナグラム人名図鑑」から実例を引っ張り出してくれば良いところだがそれは省略する。(興味のある方は、私のブログの紹介を参照下さい。下にリンクを張っておきます。)

 木立時雨とは、ある名前の読みの仮名を並べ替えて、「こだちじう」と並べた、そこに漢字を当てはめて、木立のあたりをさっとにわか雨が降り過ぎていく情景を表しているもので、まさにアナグラムとして成立している。

 さて、著者がこの本を編んだ理由が3つあるという。

 ひとつは、震災からの復興の一助となりたい、二つ目は日本の魚食文化を守りたい、三つ目が川柳の楽しさを伝えたいということのようである。

 

「震災での友人の詩を機に、彼の分まで生きねば、との思いでいろんなことを始めました。たまたまそのうちの川柳が自分の性格にはまったのです。川柳は5・7・5の他は基本自由、作るに場所を選ばず、コストがかからず(エコな趣味だ)、人を楽しませ、そして時に権力への刃にもなる。知ってますよ。心に刃を忍ばせた、あなたにこそぴったり!」(はじめに 4ページ)

 

 「人を楽しませ」というのが肝心のところである。著者の「性格にはまった」というのは、その言葉の力で「人を楽しませ」るところまで出来て、それを込みで「はまった」と言えるのである。決してひとりよがりの自己満足ではない。専門の学識、また、雑学と言ってもいいのだろうが、広い教養に裏づけられた確かな文章力はある。

 そして、内に秘めた「権力へのもの申す志」、批判精神。これは、広く川柳一般に必要不可欠のものではあるはずだ。著者の批判精神、批評力は刮目すべきものである。

 まず、マンボウの句を引く。

 

「海面にありて

 マンボウ

 昼の月

 

▼マンボウは、昼寝と称してよく海面近くにおり、海面に身体をバタンバタンと打ち付けて寄生虫を取っているという説もある。そこを突きん棒という杜で突かれる。

身はさっと茹でて酢味噌で和える。シャキシャキした繊維感のある独特の食感は、キュウリを添えて初夏の風情。腸はホルモン用として人気が高い。

フランスやドイツではマンボウのことを「月の魚」と称するが、英語では「太陽の魚」。そしてムーン・フィッシュとはアカマンボウのことなのでややこしい。…(後略)」(124ページ)

 

 ちなみに、気仙沼では、身は、茹でずに生のまま食することが多い。ただし、腸は、「コワダ」と称し、必ず茹でてからである。

 しかし、この解説、魚類に関する知識、地元の食文化、また外国の文化への造詣も明らかで読み応えあるものとなっている。

 次は、時節のイサダ(ツノナシオキアミ)。ごく小さいエビというか、動物性プランクトンである。

 

「陸よりも

 先にイサダの

 桜咲く

 

▼…三陸の春漁は3月初め、桜色のイサダ漁から始まる。例年、陸の桜は4月頃からなので、同じ桜なら海のほうが少し早くスタートする。海の桜の時期は、むしろ梅の咲く頃である。

 ちなみに、イサダ漁は桜と逆に北から始まる。」(88ページ)

 

 今年は、イサダが豊漁らしい。春らしい話題であり、また、大宰府の梅の花見にちなむという「令和」の時代の幕開けにもふさわしいテーマといえる。

 フグについてはこんな句。

 

「外れクジ

 拝んで食べる

 刺身かな

 

▼フグだったりアニキサスだったり、とにかく怖いものみたさは人類の本性だろう。「安全・安心」など、人間の欲望の闇からすれば単なる建前に過ぎないものだが、さも偉そうに巷間に溢れるのはちゃんちゃらおかしい。好奇心こそが人類を繁栄させてきた(進化とは言わない)。

 ちなみに貝毒は生産から流通まで安全管理が徹底しているので、磯で勝手に取って食べない限り、心配ない。」(107ページ)

 

 「繁栄」であっても、「進化」とは言わない、というのは、まさにそのとおり。批判精神あり、である。

モウカザメ(ネズミザメ)については、次の句。

 

「火星より

 稼いで光る

 赤い星

 

▼火星と同じ赤い星。でも、モウカの星、つまりモウカザメの心臓は、気仙沼で売られている。

 市場では、心臓だけが万丈(市場のトレイ)に入って売られている。

 真紅の見た目と違って、食感と味は割とノーマルなので是非試してほしい。

 モウカザメだけに、儲かって地域が光るといい。」(126ページ)

 

 万丈(バンジョウ)は、もともと竹で編まれた籠だが、いまは水色のプラスチックの容れ物である。鉄の取っ手が付いている。

 モウカの星は、必ず、甘い酢味噌で食する。気仙沼ならではの珍味である。著者の言うとおりクセはない。

 ところで、著者は、この3月まで気仙沼に在勤した生物学者、魚類の専門家であり、アコーディオンの名手である。つい先般、30年ぶりに再会した。4月に入って、すでに気仙沼からは離任しているはずであるが、これから改めて親交を深めたい人物である。

 

※アナグラムについては、下記も参照されたい。

宇野亜喜良・絵 石津ちひろ・文 アナグラム人名図鑑 ワイズ出版

https://blog.goo.ne.jp/moto-c/e/94d7696a369f12c1d4d2820367d3f53a


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