一期一会

日々是好日な身辺雑記

「春に散る」 / 沢木耕太郎

2017年05月25日 | 雑記



先週末に図書館から届いていた沢木耕太郎の「春に散る」を、月曜日から読み始め、
今日は雨でテニスが中止だったので、朝から読み続け午前中に読み終えた。
沢木耕太郎のルポルタージュやエッセイなどのノンフィクションは殆ど読んでいるが小説は初めてだ。
バックパッカーのバイブルとも言われる(深夜特急)を読んだ時は、その自由な旅のスタイルに憧れたが、
現役の間は実現出来ず、定年退職になりようやく2週間〜1ヶ月の一人旅が出来るようになった。

そんな沢木耕太郎の本らしく書き出しは(アメリカの国道1号線、ルート1は、カナダとの国境を一方の起点として南下し、
ボストン、ニューヨーク、ワシントンを経て、フロリダ半島のマイアミに至る長大な道路だ。)と始まり、
これはアメリカが舞台の小説かと思ってしまう。
それはプロボクサーだった主人公広岡が20代の頃にアメリカに渡り、それが40年ぶりに日本に帰国する序章だった。
帰国した広岡は、ボクシングジムの合宿所で一緒に生活し、当時四天王と言われていた仲間を訪ね歩き、
それぞれが厳しい生活を送っている事を知る。
そんな昔の仲間の窮状を見て、広岡が大きな家を借りシェアハウス的に3人と住むようにする。
そしてひょんな事から、訳あってボクシングを止めた若者黒木と知り合う事になり、
本人の強い要望でこの四天王がボクシングを教える事になる。題となっている「春に散る」が気になり、
結末を予想しながら読んでいた。

ネタバレにならない前提の粗筋だが、読み進めていく内にこの主人公広岡は亡くなった高倉健を連想する。
高倉健と沢木耕太郎の交友は知られており、対談集「貧乏だけど贅沢」でも、
ラスベガスでのモハメド・アリ対ラリー・ホームズ戦チケットを沢木耕太郎に譲ったエピソードが語られている。

初めて読む沢木耕太郎の小説は、そのルポルタージュとは違うが、エンターテイメント的に一気に読める本だった。
ルポの方は対象を見る目の優しさと、深い洞察力が特徴だが、この小説の登場人物も良い人過ぎるかなぁとも思う。
やはりこの人の筆力は小説より、ノンフィクションで発揮されるのだろう。

この人のノンフィクションは、社会党委員長の浅沼稲次郎とその暗殺犯人山口二矢を描いた
「テロルの決算」、プロボクサーのカシアス内藤の世界タイトルへのチャレンジを描いた
「一瞬の夏」、写真家ロバート・キャパの「崩れ落ちる兵士」の謎をミステリー的に描いた
「キャパの十字架」、この3作が出色だ。

この小説の中でも、広岡が日本を離れる原因、黒木がボクシングを止める原因として、
不明朗なジャッジを扱っているが、これはプロボクシングでは昔からあった事で、
先日の村田諒太の世界タイトル戦もテレビで観ていたが、明らかに変なジャッジだった。
それにしても団体がWBA、WBC、WBO、IBFと4つもあり、それぞれチャンピオンがおり、
重量別階級も増え過ぎで、誰が一番強いのか分からないという変なところのあるスポーツだ。

それにしても竹原慎二以来となるミドル級の世界チャンピオンを見たかった。
日本人がミドル級の世界戦に出るだけでも凄い事なのに、勝っていた試合だっただけに残念だ。




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