一期一会

日々是好日な身辺雑記

「公益資本主義」 / 原 丈人

2017年05月22日 | 雑記




トランプを取り巻くメデイアの追求は厳しさを増し、今週はいよいよ解任されたコミー長官の議会証言が予定されており、
大統領弾劾の声も出始めているがどうなるか。下院の過半数、上院の2/3の壁を越えられるか。
選挙期間中のトランプの言動で分かる通り、本来なるべきでない人間が大統領になってしまったのだから、
今のアメリカ政治の混乱も当然起こるべくして起きているのだろう。

トランプ大統領の原動力になったラストベルト(錆びついた地帯)の労働者達の経済的苦境を描いた
NHK BSのドキュメンタリー「雇用は守れるか〜 アメリカラストベルトの労働者たち〜」が4/30に放送された。
グローバリゼーションの流れの中で企業は競争力を高める為に、低賃金を求めて工場を海外に移す。
トランプがアメリカに雇用を取り戻すと、いくら企業に圧力をかけてもその流れを止めるのは難しいというのと、
何年か前まではアメリカの中間層としてある程度裕福だった人達の現在の経済的苦境が、よく分かる番組だった。

そんなアメリカの経済格差を、行き過ぎた株主資本主義や金融資本主義に起因するとして、
副題に(英米型資本主義の終焉)と付いた原丈人の「公益資本主義」をこの週末に読んだ。
この本は図書館から借りた新書で、3月20日に発売されたものなので、早めに予約すればあまり日を置かずに手元に届くのだ。

筆者の原丈人氏は何年か前にNHKだと思うが、ノーベル平和賞を受賞したグラミン銀行の創設者ムハンマド・ユヌス博士の
無担保小口融資「マイクロクレジット」に関わる番組を見た。
そこで氏の特異な経歴と志の高さから、日本人にもこの人のような真の意味での国際人がいる事を知った。
氏は慶應大学中に中米を旅行し、エルサルバドルの遺跡でピラミッドを見てから、マヤ文明に惹かれその研究に没頭し、
(考古学こそ、自分の一生の仕事だ)と思い至ったという。
そして大学卒業後の将来の2つの道として、大学院で考古学の研究を続けるか、趣味で考古学を続けるかを考えていたが、
トロイの遺跡を発見したドイツ人実業家であり考古学者のシュリーマンのように、
膨大な発掘調査資金をビジネスで稼ごうとスタンフォード大学のビジネススクールに入る道を選択する。
スタンフォードを選んだ一つの理由として、校舎がスペイン風で気に入ったとあったが、
50代中頃にシリコンバレーのhp本社(ヒューレット・パッカード)に2回ほど行き、その時に
スタンフォード大学に行ったが、確かに赤煉瓦建てのスペイン風な校舎だったという印象が強く残っている。

この2年間のビジネススクールの同級生には、マイクロソフトの・前CEOのスティーブバルマーや
サン・マイクロシステムズ創業者のスコット・マクニーリーがいたという。
氏自身も卒業後に大型ディスプレイを興そうと、スタンフォードの工学部大学院に入るというこの行動力が凄い。
この大学院在学中にジーキー・ファィバーオプティクス社を立ち上げ、その後もベンチャーキャピタリストとして
主に情報通信技術分野の企業の育成と経営に携わっている。
そしてアライアンス・フォーラム財団代表理事として、新興国の貧困問題解決にも取り組んでいる。

                     アライアンス・フォーラム財団

この本では、1月のダボス会議に先駆けて格差問題に関してオックスファムという国際協力団体が発表した報告書「99%のための経済」の
(世界で最も裕福な8人と、世界人口のうち経済的に恵まれていない半分に当たる36億人の資産額がほぼ同じ)を引用し、
格差が不満を生み、不満は紛争の種となり、世界を不安定にすると指摘している。

アメリカの格差問題も行き過ぎた株主資本主義や金融資本主義からとして、その問題点を具体的な例を挙げながら述べ、
(会社は誰のものか)と問題提起し、340億円の従業員給与削減で、経営危機を脱したアメリカン航空が、
その功績で経営陣が200億円のボーナスをもらうというエピソードで(会社とは株主と経営陣のものだ)という株主資本主義に警鐘を鳴らしている。

金融資本主義として、莫大な規模で投機を仕掛けるヘッジファンドと彼らに資金提供する超富裕層が、
途上国通貨を空売りし、暴落させ、その国民を貧困のどん底に落とすことによって巨万の富を得ているとし、超高速取引の規制を提言し、
村上ファンドやアメリカのアクティビストのような投機家を、マネーゲーマーとして明確に否定している。
アメリカ社会の変化は、アメリカ型ビジネスモデルにこそ原因があるとし、貧富の差が激しい二極分化した社会ではなく、
豊かな中間層が存在する社会こそが望ましいとし、株主資本主義や金融資本主義に代わる新しい資本主義こそ、公益資本主義だとしている。

公益資本主義については、上のアライアンス・フォーラム財団のホームページに載っている。
この本では(アメリカ型の資本主義がおかしい)と指摘するだけでなく、それに取って代わるべき(公益資本主義)を実現する為の
具体的な12のルールを提言している。
その全てが賛同・納得できるもので、特にルール2の中長期株主の優遇として、トヨタが2015年に発行した「AA型種類株式」の事や、
ルール4の保有期間で税率を変える、ルール8のROEに代わる新たな企業価値基準(ROC)が、説得力があった。
詳細な内容については長くなるので、この本を読んで下さい。

あとがきでは、(民主主義国家の代名詞とも言える英米でさえ、かっての中間層が貧困化している。
そこで有権者は「将来のこと」よりも「今日明日のこと」、「建設的な前向きな意見」よりも「現状の不満」を基準に投票する。
英国EU離脱の国民投票も、米国大統領選挙も、こうした市民の不満や怒りの表れだ。)と。

この本は図書館から借りたものだが、週末に沢木耕太郎の小説(春に散る)上下と、
ウィル・ワイルズの(時間のないホテル)が手元に届いている。いづれも最近の出版だが
この2冊を読み終えると予約中の本は3冊で予約待ち順位が20番台なので、当分届かない。
そこで、塩野七生の(ローマ人の物語)15巻を読もうと思っているが6月から読み始めて何ヶ月かかるか。
10月に南イタリア旅行を予定しているので、それまでに読み終えられるか。
その国の歴史・文化を頭に入れて旅行するのと、しないで旅行するのでは、楽しみ方も大きく違う。


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