時事解説「ディストピア」

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北朝鮮が水爆を持つに至った経緯

2016-01-22 21:09:46 | 北朝鮮
朝鮮新報に新たな論説が掲載された。投稿者は李東埼(リ・トンギ)。
同時代社の紹介文によると朝鮮商工新聞記者、朝鮮時報編集長、統一評論新社副社長、
祖国平和統一協会事務局長を経て、現在同協会副会長を務めているらしい。

『統一評論』は『朝鮮新報』がもう少し堅くなったような雑誌で、
 日本の北朝鮮研究者なら参考程度に誰もが読んでいる…はず(嫌味)。

総連傘下のメディアということもあり、「頼もしい自衛の軍事力」とか
「巨大な民族史的壮挙」とか妙に威勢のよい論調で書かれており、抵抗を覚える人が多いだろうが、
既存の新聞社、出版社のそれと違い、新しい情報が多く載せられており、参考になるとは思う。


特にアメリカの軍事政策の関係者たちが
北朝鮮の核保有がアメリカの先制攻撃を抑止する効果があると告白している
箇所は、
核保有を絶対悪とみなす認識を前提に、その有効性を否定する他者の主張とは一線を画する。


北朝鮮に関する論説の多くは
①真面目に調べていなく ②アメリカに都合の悪い(北朝鮮に有利な)情報を伏せるため
③憶測や決め付けが多用され ④結果、北朝鮮の行動を理解不能な愚挙と評価している。


「愚挙」といえば聞こえが良いが、要するに「よくわかりません」ということである。
 こういう失態を全国紙が率先してやっているのだから、なんとも凄まじい。

個人的に失笑したのが金正恩の誕生日が近かったから実験を行ったという説で、
提唱者が如何に北朝鮮を野蛮な国家とみなし侮っているかがよくわかる。

嫌うのは結構だが侮るのは問題だ。

2013年に事実上のミサイル(笑)が春と冬に発射された際、日本政府は、
日本の領海・領空を通過しなかった1度目の発射には自衛隊を出動させ防衛体制に入らせたが、
沖縄上空を通過した2度目の実験の時には出動どころか発射されたことにすら気づかなかった。

つまり、春の実験の時には、日本の領域を通過しないことが予めわかっていたのに、
沖縄に軍を集結させ、「いつでもこーい!」と意味不明な行動を見せた一方で、
領空を通過する恐れがあった二度目の時にはポケーっと見逃していたのである。

現場で動く自衛隊よりもそれを動かす政府のほうに問題があることがよくわかるエピソードだ。
日本に今足りないのは戦闘機やミサイルではなく、情報(とそれを分析できる人間)だろう。
本気で国防を考えるのであれば、もう少しマシな情報収集を行うべきだ。

その場合、相手側の意向を知ることが真っ先に求められるのは想像に難くない。
孫子いわく「彼を知り己を知れば百戦危うからず」である。

相手を侮らず、彼らが何に対して危機感を抱いているのか、
彼らがどの国を仮想敵国とみなしているのか、彼らはどのように現状を認識しているのか。

こういう推察が求められるはず(と思いたい)

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なぜ朝鮮は水爆を持つに至ったのか/李東埼

米国の核脅迫と痛切な民族的体験

新年早々、朝鮮の水爆実験成功で日本のマスコミは大騒動だ。
彼らは米国が長年にわたる核脅迫を意図的に隠ぺい、免罪し、
日本国民の素朴な反核感情を悪用して我が国を一方的に非難している。


凶悪かつ膨大な米核戦力


去る10日、朝鮮半島上空に不気味な姿を現したB52戦略爆撃機。
マスコミは「核爆弾を積める」とぼかしているが、実は水爆を4発も積める凶悪な武器だ
その破壊力は合計で広島型の1000倍以上である。これ1台で朝鮮民族を全滅させることができる。
B2戦略爆撃機というのもある。広島型原爆の80倍もある核爆弾を16発積める。
合計で広島型原爆の1280倍の破壊力だ。


空母ドナルド・レーガン号に搭載できる戦闘爆撃機85台の持つ
核爆弾の破壊力合計は広島型原爆の1800倍に近い。


原潜またはイージス艦1隻に
最大154発の巡航ミサイル・トマホークを積めるが、
その破壊力合計は、実に広島型原爆の4000倍だ。

これらの核戦力が毎年の米・南合同軍事演習に投入されている。


数十年間も米国の核脅迫にさらされながら、「北朝鮮の住民が集団発狂しないのが不思議だ」と、
オーストラリアの国際政治学者ガバン・マコーマックがかつて述べたことがあるほどだ。

頼もしい自衛の軍事力

米国は朝鮮戦争で数次にわたって核兵器の使用を企んだが果たせなかった。
ソ連が崩壊して後、クリントン政権は第1次核危機を、ブッシュ政権は第2次核危機をつくりだした。

だが、彼らの戦争放火策動も成功しなかった。
朝鮮の強大な自衛力を見せつけられて諦めざるをえなかったからである。
このように朝鮮半島の平和と周辺地域の安全は朝鮮の軍事力によって守られている。
このことを、米帝国主義自身の口から告白させてみよう。

冷戦後の東アジア戦略報告執筆者として有名な
元国防総省高官ジョセフ・ナイは言った。

「北朝鮮が示しているのは、抑止力が働いているということだ」
ただ問題なのは抑止されているのは我々だということである
(ワシントンポスト2003年1月6日)


カーター大統領の安保外交補佐官で
核先制打撃論の「権威」といわれるズビグニュー・ブレジンスキーは語った。

もし脅威が本物ならば先制打撃ドクトリンは発動されない」(同前)。
ブレジンスキーは、朝鮮が核を持てばもはや核先制攻撃は不可能と言っているのである。

報復核攻撃を覚悟せねばならないからだ。現国防長官アシュトン・カーターは、
約20年前に国防次官補代理だった頃、次のような発言をしている。

絶対に回避しなくてはならないのは、核武装した北朝鮮と戦火を交えることである
(ワシントンポスト1995年4月10日)

平和を確保し経済に注力

前出のガバン・マコーマックは「アメリカに通じる唯一の言葉は軍事力だ」と言った。
事実、これまで核保有国が侵略された例はない。
逆に、米国の脅迫に屈したイラクやリビアは悲惨な目にあっている。

脅迫も甘言も通じない朝鮮に対して米国は「戦略的忍耐」政策をとっている。
米国はむだな時間稼ぎをやめて敵視政策を放棄し、平和協定の締結に応じるべきであろう。

朝鮮は核武装で平和的環境が確保できたので、民生向上に力を注げるようになった
これが経済建設・核武力建設並進路線である。

軍需産業で達成した先端技術を民需産業に投入して、急速に人民生活は向上しはじめた。
時間は朝鮮に味方する。

巨大な民族史的壮挙

クリントン政権末期に対朝鮮「政策調整官」
に任ぜられた元国防長官ウィリアム・ペリーはかつてこう述べた。
「北朝鮮はミサイルや核の開発は国家の主権の問題だというが、その主張は正しい」
(朝日新聞1999年11月5日)。

自らも認めざるをえなかった国際的公理を平然と踏みにじる米国と額をつきあわせ、
大国どうしが国連で取引しているのが国際政治の現実である。

19世紀末、我が国は軍事力が弱く封建支配層が無能だったために亡国之悲運をなめた。

今や朝鮮は水爆まで持つ核保有国の前列に立った。
周辺列強が朝鮮半島を遡上にのせて獅子の分け前を談合できる時代は永遠に過ぎ去った。

http://chosonsinbo.com/jp/2016/01/20160121suk/
(朝鮮新報)
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「彼らの戦争放火策動も成功しなかった。朝鮮の強大な自衛力を見せつけられて
 諦めざるをえなかったからである」という発言に対しては「嫌、それはない」と言いたいが、
 自衛力=核だとすると「なるほど、確かに」と思わなくもない。


ベトナム戦争にせよ、湾岸戦争にせよ、イラク戦争にせよ、リビア空爆にせよ、
侵略国が核保有国であった場合では、侵略を受けた側が核に怯えて降参するということはない。
この点において、核保有は抑止力は持たないと言える。

だが、フランスしかり、イギリスしかり、中国しかり、ロシアしかり、
核保有国が本格的な侵攻を受けたという事件は現代史において存在しない。

湾岸戦争時、イラクがイスラエルにスカッドミサイルを撃ったことがあったが、
それはイラクが先に連合国から爆撃を受けた(砂漠の嵐作戦)反応として起きた事件である。

先制攻撃を食い止めるという意味においては
核の威力は確かに通用する。


①核保有国が攻撃を受けたことは特例を除き存在しない
②敵国であるアメリカの軍事政策を担当する人物たちが核の抑止力を認めている
③核開発による技術向上や軍費のスリム化が北朝鮮の経済発展に寄与した


これら利点があるために、手放すことが不可能な状態に陥っているのだと思われる。
特に核武装による軍事費の節約と侵略を受けた苦い記憶がある点は見逃せない。

大日本帝国による植民地化もそうだが、朝鮮戦争時の米韓を中心とする国連軍による
焦土作戦および村々の破壊、住民の虐殺もまた北朝鮮のトラウマである。
北朝鮮指導部にとって「先制攻撃をさせない」というのは呪縛に近い使命となっている。

よって、北朝鮮の非核化には
①アメリカの脅威を排すること ②北朝鮮の経済発展に協力・支援すること
が不可欠
だろう。前にも書いたことであるが。


私はロシアや中国、アメリカの核保有については批判的だが、
それは核保有が必要ないほど彼らが軍事力を有しており、アメリカが顕著だが、
核兵器が自国の防衛ではなく他国の侵攻のために利用される恐れがあるからである。

単純に持つ・持たないに固執して眼前の武力威嚇に気づけない善悪二元論から脱却して、
相手国の安全を保障する真の安全保障体制へと移行し、地域的な非核化を目指す。


これこそが今後の朝鮮半島において求められることだと私は思う。


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