時事解説「ディストピア」

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中国経済は本当に悪化しているのか?(格差問題を基軸に)

2016-01-26 23:59:06 | 中国(反共批判)
中国崩壊論・中国経済崩壊論は歴史を辿れば、1989年から存在する。

黄文雄『大予言 中国崩壊のシナリオを皮切りに』(1989年)
小室 直樹『中国共産党帝国の崩壊―呪われた五千年の末路』(1989年)
滝谷二郎『中国は崩壊する』(1990年)
征木 翔『トウ小平後、中国ビジネス大崩壊がやってくる』(1995年)
宮崎正弘『人民元大崩壊―中国発「世界連鎖恐慌」の衝撃』(1998年)
野口 能孝『中国金融崩壊―見せかけだけの経済成長と隠されている銀行破綻』(2003年)
宮崎 正弘『中国は猛毒を撒きちらして自滅する』(2007年)
三橋 貴明『本当にヤバイ!中国経済』(2008年)

特徴的なのは右翼、それも極右の論者が多いことだが、
別に左翼が正確な知識を持っているかと言うとそのようなことはない。

例えば左翼系週刊誌として有名な週刊金曜日が評価していた近藤大介氏だが、
彼が2013年に書いた『日中再逆転』の紹介文は、こうなっている。

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テロの続発、シャドー・バンキングの破綻、
そして賄賂をなくすとGDPの3割が消失するというほどの汚職拡大……
中国バブルの崩壊は、2014年に必ず起こる!

日本人として、中国の指導者・経営者たちと
最も太いパイプを持つ著者の、25年にわたる取材の集大成!!

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ちなみにこの本の第5章のタイトルは「世界が絶賛する日本経済」
第6章は「中国が日本に勝てない4つの理由」である。


「笑え」と読者に訴えているのだろうか?

こういう人物の講演を左派系のアジア記者クラブが主催するのが現在の日本。


いかに右翼も左翼も中国を舐め切っているかがわかるだろう。


そういうわけなので、私は中国経済の情報は現地のメディアを中心に収集している。
専門家()に言わせれば中国の統計は信用が置けないらしいのだが、
連中こそ20年以上、中国経済について読みを外し続けていて、とてもじゃないが信用出来ない。


(一応、フォローすると中国経済の専門家全員が経済崩壊論を唱えているわけではない。
 むしろ、中国経済の成長力を初期段階から見抜いていた研究者も少なくない。

 単純に、そういう人物の主張をメディアが取り上げないだけにすぎない。
 (これには左翼系の月刊誌や週刊誌、専門雑誌、単行本なども含まれる)


 不思議なことに、論壇にでしゃばってくる左翼や右翼に限って、
 やたらと中国の言論の自由を問題視したがるが、連中こそ少数意見を端から取り上げない)

さて、最近、よく聞くのが中国の上海市場の動きを根拠に中国経済悪化を唱える意見だ。
例えば、立命館大学教授の松尾匡氏は、自分のホームページでこう評価している。

「中国経済がやばすぎで、日本経済に必ず悪影響が出るので、
 護憲派野党はぜひ、みんなが目の玉の飛び出るような大盤振る舞いを掲げて、
 安倍さんに打ち勝って下さい。」

直接、中国株について触れてはいないが、16年1月13日時点で「やばすぎ」と書くほどの
事件といえば、上海株式市場の事件ぐらいしかない。十中八九、間違いなかろう。


では、中国経済は本当に「やばい」のだろうか?結論から言えば、そうとは言い切れない。


というのも、社会の所得の格差を測る指標「ジニ係数」が2015年は0.462となり、
09年以来7年連続で低下し、また03年以降の最低を更新しているからである。



2015年、個人所得の前年比の成長率は名目で8.9%、実質で7.4%だった。
GDP成長率の低下は、個人所得の減少を意味するわけではないのである。


2015年の中国は雇用が全体として安定している。年度末の就業者数は7億7451万人で、
出稼ぎ労働者数は2億7747万人で1.3%増加、その平均月収は3072元で7.2%増加している


このように、全体的に雇用者が増え、一人当たりの給料も上がり、格差が解消されつつある。
ちなみに去年は政府の貧困政策が成功し、農村において7千万人以上が貧困から抜け出した。


7000万といっても、総人口が13億人なのだから大した数ではないが、
経済成長と引き換えに貧富の差が開いていた以前と比べて状態は改善されつつある。

これは中国共産党が実施した大企業CEOの給与制限や
年金制度の一本化、最低賃金の引き上げなどが効果を挙げたものだと思われる。

中国研究者は、このように格差縮小を評価しながら、なお「依然格差は激しい」と主張する。

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だが今なお社会の所得格差は小さくなく、
15年のジニ係数も世界的に認められた警戒ラインの0.4を上回った。

また一連のデータから、今でもほとんどの個人が「所得不足」であることがうかがえる。
西南財経大学の研究報告によれば、15年の世帯平均資産では不動産の占める割合が69.2%と高く、
中国の世帯資産は流動性が極端に低いことがわかる。

国家衛生・計画出産委員会が発表した「中国家庭発展報告2015」によると、
全世帯を所得によって上から下まで並べた時の上位20%の世帯の収入が
下位20%の世帯の収入の19倍になるという。


北京師範大学中国所得分配研究院の李実・執行院長は、
「体制内の要因が世帯所得の不平等さを招く重要な原因だ。
 中国の戸籍制度により出稼ぎ労働者と都市部の労働者は
 所得や社会保障の面で長らく『2種類の制度が併存する状態』に置かれ、
 中国の資本取引や土地取引には本当の意味での市場が形成されず、
 政府が市場に関与する分野もあり、資源産業および一連の自然独占が生じる
 産業と競争相手との間には巨大な所得格差が容易に発生した」と説明する。

http://j.people.com.cn/n3/2016/0120/c94476-9006830.html
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なお、労働政策研究・研修機構はもう少し厳しく評価している。

格差が縮小したといっても、依然、中国のジニ係数は日本よりも高い。

それゆえ、必ずしも手放しに賞賛すべきではないが、
重要なのは中国政府が格差解消に本腰を入れて取り組んでいることであり、
それは「格差上等、非正規拡大、実質賃金低下」の日本経済とは天と地ほどの差がある。

アベノミクス支持者など、非正規雇用者がどれだけ増えようと気にもしていなく、
それどころか「失業よりはマシだ」と主張している有様だ中国のそれと対極的な姿勢である


連中が「やばい」と言っている間に中国は着実に格差問題の解消に向けて
手を打っているわけで、いつのまにか日本のほうが「やばい」状況になるのではないだろうか?

少なくとも、今のように一部左翼が右翼の経済政策に同調して、彼らの走狗となって
左翼のアベノミクス批判を率先して攻撃している状況を見ると、不安になるのである。


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