時事解説「ディストピア」

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金正男殺害について気になること

2017-02-15 23:12:30 | 北朝鮮
ミサイル実験について書こうと思った矢先に金正恩の異母兄にあたる金正男が暗殺されたが、
各メディアの報道について引っ掛かる点がいくつかある。



今回の暗殺で、私が真っ先に気になったのが、その殺害方法である。
NHKは北朝鮮工作員が持つとされる致死性の毒針入り懐中電灯やボールペンについて解説してくれたが、
仮に北朝鮮の工作員によるものならば、なぜそれらを使わず、遅効性の毒が含んだ布を凶器に選んだのだろうか?


次に、なぜ監視カメラがある空港で犯行に及んだのだろうか?
仮に暗殺するのであれば、より人気がない場所を選ぶはずである。


この点について国情院は
「北朝鮮の情報機関は金正恩氏が政権に就いた後、5年前から金正男氏の暗殺を試みていたが、
 この計画は中国当局のボディーガードによって阻止されていたものの、
 マレーシアの空港で殺人者にとって絶好のチャンスが現れたとの見方を示している。」

とコメントしている。

ところが、実際にはどうも金正男はボディーガードをつけていなかったようなのである。
(よく考えてみれば当然の話で、仮にボディーガードがいるのであれば、
 今回の暗殺にしても未然に防がれたはずだ。)



更に気になるのが殺害された時期である。2月16日は父親である金正日の生誕記念日で、慶事も行われる。
国内のムードが下がりかねないこのタイミングで、暗殺を謀ろうとするだろうか?



金正男本人が政治とは無縁の人間であったことも気になる。殺害するメリットがない。




そして、私が最も気になったのは、

なぜ監視カメラを見て、北朝鮮の工作員だとわかったのだろうか?

ということである。


https://jp.sputniknews.com/incidents/201702153345967/


問題の映像を見るだけでは、アジア系の女性だとわかるだけで他には何もわからない。
にも関わらず、北朝鮮の工作員だということにして話が進んでいる。



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TV朝鮮は14日、複数の韓国政府関係者の話を引用し
「金正男氏がマレーシアで北朝鮮の女スパイによって毒殺されたとみられる」と報じた。

 TV朝鮮によると、正男氏は13日午前9時、
マレーシア・クアラルンプール空港で2人の女によって毒針を刺されて死亡した。

容疑者の女2人は犯行直後、タクシーで逃走した。

http://www.chosunonline.com/site/data/html_dir/2017/02/14/2017021403031.html?ent_rank_news

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実は、
「北朝鮮の工作員が金正男を殺した」「正男は数年前から命を狙われていた」等の情報は
韓国の情報機関、主に誤報とねつ造を繰り返す機関で有名な国情院から発信されたものなのだ。


要するに、韓国の情報機関の「見解」が純然たる「真実」に変換されて日韓で報道合戦が行われているのである。


この国情院は、かつてKCIAという名で軍事政権時代に
数多くの人間を拉致・拷問・拘禁してきたことで有名な暴力機関で、

最近でも大統領選で朴槿恵を勝たせるべくサイバーテロを行ったり、
統合進歩党と解党させるべく、クーデターを計画していたという証拠をねつ造したり、
数々の工作を行っており、北朝鮮に詳しい人間なら、ここ経由の情報は基本的に信用しない。

(故・金大中大統領を日本で拉致してきたのも、朴正煕を暗殺したのも、このKCIAである)


しかも、ここに来て、どうもベトナム国籍の女性の仕業であるらしいことがわかってきた。
すでに国情院の話(北朝鮮人の仕業)と現実の間にズレが生じている。



以上の点をまとめると、今回の事件は北朝鮮の工作員が用いる毒や殺害方法とは違う手段で、
政治的に影響がなく、もしかすると死亡すると中国と北朝鮮の仲が悪くなるかもしれない人物を
朴槿恵政権が風前の灯火となり、外敵の存在が必要になっているこのタイミングで殺したというもので、


それも、主に韓国版読売新聞(つまり保守系)である朝鮮日報と
証拠のねつ造と北朝鮮バッシングで有名な国情院の情報をそっくりそのまま
「新たに判明した事実」とみなして、日韓のメディアが報道しているのである。



誰が犯人で、どこの国の誰から指令を受けて行われたものか
はっきりしていないにも関わらず、北朝鮮の仕業だと断定して伝える。

その程度の無責任な姿勢でもジャーナリストを気取れるのであれば、私も以下の珍説を主張したい。


つまり、金正男は国情院が殺したのではないだろうか?


朴槿恵が国民から大ブーイングを受け、与党の求心力が損なわれているこのタイミングで
彼女ら反北・軍拡・強硬路線を正当化させるようなショッキングな事件が起きて、
もっとも得をするのは誰だろうか?言うまでもなく、韓国政府である。

そして、この事件についてどこよりも早く「情報」を提供しているのはどこだろうか?国情院である。


そして国情院の過去の実績。状況証拠的には
国情院が北朝鮮の印象を下げるために殺したほうがしっくりくる。

何よりも北朝鮮にとっては殺すまでもない(本国でもあまり有名ではない)人間だが、
韓国やアメリカにとっては暗殺されると非常に助かる人物が殺された事実。


当てずっぽうや決めつけで、全てを決めていいのなら、このような陰謀論もまかり通ってしまうだろう。


念を押すが、私は本気で韓国政府の仕業だと考えているわけではない。
私が言いたいのは「垂れ流しではなく、きちんと裏を取って報道してほしい」ということだ。


早速、日本のメディアでは金正男の聖人化に勤しんでいる。
曰く、金正男は気さくで社交的な人物だったが、金正恩は忍耐力がなく怒りっぽいとのことだ。

もはや報道ではなく、悪口でしかない。こんなので番組が作れるのかと驚いてしまった。


先の大統領選以降、「ポスト・トゥルース」という言葉が使われるようになったが、
本当のことなどどうでもいい、北朝鮮を悪魔化するのが肝心なのだといわんばかりの
ここ数日の北朝鮮報道には、一種の狂気すら感じる。


誰もがPCやスマートフォンを使う時代になったと言われてはいるが、
それでもまだ、特に高齢者は新聞やテレビを主な情報源としているし、
インターネットの情報にしたところで、その情報の元は新聞・テレビなどのマスメディアの記事になっている。


要するに、もっとも社会的責任を持つべき報道機関が、ろくに調べもせず、
韓国の情報機関の情報を鵜呑みにして「これぞ真実、北朝鮮は非道い国だ!」と連呼するこの状況に
私は凄まじさを感じるのである。


これが仮に在日米軍基地あるいは改憲の問題だとしたら、
安倍政権の言葉をそのまま垂れ流し、真実とする動きについて知識人は憤りを覚えたに違いない。

しかし、北朝鮮の場合は違う。むしろ、この社会的な扇動行為に対して異議を唱えるどころか、
逆に「その通りだ!北朝鮮は悪魔的国家だ!」と賛同するのではないだろうか?

少なくともこれまではそうだった。そしておそらく、これからもそうだろうと思う。
そして北朝鮮の脅威を理由に進行される軍拡と改憲に対して彼らは「戦争はんたーい!」と叫ぶのである。