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古書の楽しみ

2010-11-01 22:02:20 | 編集手帳


  10月30日、読売編集手帳


  「神田古本まつり」でにぎわう東京・神保町の古書店街を散策して、ひとつ買い物をした。
   研究社出版『英和笑辞典』で時価1000円也。
  奥付には「昭和36年9月30日発行」とある。

  ぱらぱらめくってみると
  〈【duty】義務=うんざりして受け、いやいや遂行し、はれやかに吹聴する〉、
  あるいは〈【Eve】イブ=貴方(あなた)よりいい男がいたのよ、と言えなかった女〉など、
  どれも気が利いている。
  以前の持ち主が気に入った個所なのだろう、幾つか傍線が引いてある。
  〈【mirage】空中楼閣=綴(つづり)がmarriage(結婚)に似ており、
  意味もほとんど同じ〉や
  〈【wedding】婚礼=自分で花を嗅(か)げる葬式〉などの傍線をみれば、
  その方面でご苦労されたお方か。
 
  傍線ひとつに、名前も知らぬ人が「ね、ここ、いいでしょう?」と顔を出す。
  読書は著者との対話だといわれるが、かつての所蔵者を交えての“鼎(てい)談(だん)”
  も古書をひらく楽しみに違いない。

  読書週間が始まった。
  虫の声、雨の音、そして〈【book】本=声なき言葉〉
  ――秋の夜更け、じっと耳を澄ますものに事欠かない季節である。
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