植物園「 槐松亭 」

バラと蘭とその他もろもろの植物に囲まれ、野鳥と甲斐犬すみれと暮らす

篆刻印を集める 「使った人の人生を感じるの巻」

2021年02月10日 | 篆刻
書道具の中で、書の上達、字をうまく書けることと関係のないものがいくつかあります。
持ち運び用の筆巻き(海苔巻きの簀子みたいなもの)、水差し・水滴、硯もそうです。墨(墨汁)、紙、筆この三つさえかみあっていいものを使えれば、それが上達の近道であることは疑う余地がありません。

 それでは「篆刻印」はどうか。書にはあまり影響がないように思えます。しかしながら、篆刻印作りをしていると、かなり密接な関係にあることに気づきます。一つは篆書との関連性であります。印の書体は基本的には篆書体を用います。なかでも「印篆」という書体がその基本になります。篆書を学び練習していれば、篆刻の勉強になっているのです。今取り組んでいる「百寿図・百福寿」も篆書体で書きます。これを集中して書いていると、篆刻の下書きも楽に出来るようになり、それらしく彫れるようになります。筆の運びと印刀の使い方にも共通点があります。

 もう一つは、作品に仕上げた時、印は作品の一部分で重要な役割を果たすということです。黒と白の世界に僅かに朱を散らす、というのが作品に深みと趣を与えます。書道展でも、署名を含む落款が大きな評価要素になるようです。篆刻家の手によって彫られた堂々とした落款印が押されているだけで、作者の大体のレベルが推し量られるのですね。  
 それがあってか、中には「押印」不可とする条件が出されたりします。書の良しあしだけで判断します、というわけです。ともあれ、書道には篆刻印は欠かせないのであります。児童学生を除いて、書道をやる人のほぼ100%はなんらかの篆刻印をお持ちだと思います。

 さてそこで篆刻印であります。書道も本格的になると、作品を作り三か所に落款印を押します。関防印(引首印)・姓名印・雅号印、の三顆と呼びます。姓名印・雅号印は同じ大きさ、関防印は横幅が狭く概ね高さを合わせます。中国台湾などの印舗、書道具のお店では、お土産用も含めてこの3点セットまたは2点が箱入りで売られているようです。お値段はピンキリでしょうね。
 ヤフオクで入手した、わりあい高そうな(;'∀')セットがこれです。
いずれも未使用でした。右の箱には息子さんらしい男性の方の名前が書かれ、「香港からの土産」とメモ書きされておりました。「退官記念」で貰ったとの紙がついた三顆セットと一緒にオークションに出されていたのです。
なんとなく、この方の半生が垣間見えますね。


 この紐は、牛に子牛が寄り添うものでとても丁寧な造りでありました。姓名印は、鹿児島県で国会議員を1期だけやっていた珍しい名前の方と同姓同名でした。「花半開」と彫られた引首印がついており、いずれも「寛山作」の側款が刻まれておりましたが、ほとんど使用した形跡はありません。
 想像するに、書道の心得のある国会議員が、揮毫を頼まれることを見越して、雅号をつけ篆刻の名人に相当な大金を出して調製させたものの、あえなく落選引退したのではないでしょうか。ご本人はとっくに他界しているので確認しようもありませんが、遺品整理で出したのではなかろうかと思います。

 もしこういうのが、有名な方のものならは、普通ならば、つぶすか印面に傷を入れるかして処分すべきものでしょう。もし、高名な書家さんであれば悪用(贋作)される恐れがあります。だからといって、廃棄するには惜しいものでもあります。ネットで調べても、ほかの人が使った篆刻印、愛蔵品を潰して(印面を磨って)再利用するといった記載はほとんど見当たりません。

 ワタシは、紐や石が素晴らしいもの、プロの手になる側款ありの使用印はそのまま残すようにしています。篆刻するときの見本・手本になります。深い色合いの石に刻まれた精緻な彫は手に取って眺めるだけでもいい気分になります。これらが、ワタシのささやかなコレクションの中に加わります。

 一方で、自作自用の印、特に姓名印・雅号印は、構わずサンドペーパーで摺り印面を消し去ることにしております。前の持ち主がどんな書道生活や人生であったかを、思い浮かべつつ印面を磨り字を消すという作業をいたします。
 また、これで、どのような印を彫ろうかなどとも想像します。おそらく書道を愛し印を大事に使ってきた人たちの持ち物で、ご本人は他界されています。そのお品を、再生させまったく違う名前を新たに彫ることで十分生かされるのだろうと思います。

 書の書き始めの位置に押す「印首印」は好きな熟語でも文字でも構わず彫られますから、人様が使ったもので、ちゃんと意味が分かるもの読める印なら、そのまま有難く使います。
 
 また、三顆以外に、絵や4文字漢語・字句など自由にデザインされ彫られた「遊印」も相当数ヤフオクで入手しました。大きさもまちまち、丸も四角もあります。いかようにもどこにでも使えるので、これもたくさん所蔵していればいつか役に立ちます。この遊印は、篆刻家さんは好んで作る風雅なものです。個人名から離れて縁起のいい語句や戒めの言葉が用いられている芸術性を感じる印、とても美しいもの見事な字句が彫られているので、磨るのはもったいないのです。
 
 

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