植物園「 槐松亭 」

バラと蘭とその他もろもろの植物に囲まれ、メダカと野鳥と甲斐犬すみれと暮らす

印のお値段

2023年05月30日 | 篆刻
ワタシが篆刻にまじめに取り組み始めたのが恐らく3年ほど前のことであります。定年後書道教室に通うようになって、わが師「藤原先生」から落款用の印が必要ですよ、書道家はだいたい自分で彫るものなの、と言われて一度はチャレンジしましたが、あまりにもお粗末な出来で、2・3度彫っただけでありました。一応印床や一通りの印刀などを揃え、ネット・ヤフオクなどで印材を集めたりもしていたのですが。

数年後そろそろ作品展・公募展に出品することが出てきて、自分の姓名印がどうしても必要になったのです。ネットで篆刻家さんをググったところ、なんと自宅から徒歩圏に、れっきとした篆刻家さんが居て「印章店」を経営していることが分かったのでありました。早速そこに赴き、姓名印の制作を依頼したのです。その時、きれいな篆刻石で紐(持ち手の飾り彫り)が見事な、彫のあるお気に入りの印を持参したのです。

石代がもったいないのでこれを潰して使ってくれ、と頼みました。すると、かの先生はその石を見つめて、「自分の知っている人の側款があるので潰すのが勿体ないから、代わりに自分の良質の印材を使う」と言い出しました。その頃は全くそうした知識が無くて、その篆刻印の価値もわかりませんでした。今から思えばもしかしたら、著名な篆刻家の手によるものだったか、珍しい高価な印材であったかもしれません。

いいなりにその先生の提供してくれたもので頼んだら、制作料が3万円だというのです。しかもひと月位かかりますと。本人曰く、「自分は神奈川県では4本の指に入る篆刻家で、故河野隆先生の直弟子」、なのでそれだけの価値があるという説明でありました。

出来上がってきた印を見た時、正直、3万円払って損したなぁというのが率直な感想でありました。そしてこんなものにいちいち何万円も払っていたらお金がいくらあっても足りないと感じました。落款印には、同じ大きさの雅号印や字の最初に脇に捺す「引首印」の三つををセットにして押捺するのがもっともバランスが良いとされております。また、半紙サイズから半切(条幅)・全紙と紙の大きさや書の字数・太さなどで印の大きさもおのずと変えるのであります。

すると、落款用の印は少なくとも3セット以上が必要なのです。これは自分で彫るよりなかろう、そう思って気を取り直して、本気で「篆刻」に向き合うようになったのです。

これからの数年は「修行期間」なので詳細説明は省きます。

で、彫っているうちにいつの間にか100人近い方の姓名印・雅号印を彫ったのであります。アマチュアの身であり、修行中で、技量が伴わないので、無料で彫らせてください、というのが基本的なスタンス。実際、最初のころの印は写真を見返すと恥ずかしい稚拙なものでありました。彫りなおしたい気持ちになります。その時その時で一生懸命彫ってはいたのですが、そこは素人の悲しさ「審美眼」もなく、自分で設けていた合格点は赤点以下であったのです。

今まで、実費相当分を切手やらお菓子などで、お返しいただいておりました(笑)。半分以上むりに彫らせてもらっていたのですから。そうこうするうちにだいぶまともな篆刻印が彫れるようになり、ぽつぽつと、彫ってほしいと言われることも増えてきたのです。
並行して石集め、印材蒐集も玄人はだしになってきました。平均的に週に3.4件の落札をしております。決して高いものには縁がありません、円が無いからであります(爆笑)
実費を計算すること自体は、実は不可能に近いのです
まず「石の値段」を検証しましょう。例えば最近届いたものがこんな感じです。
箱入りの5本まとめてで落札価格が8千円弱、1本あたり1600円ほど。この時点でもはや石の値段はわかりませんね。印章店や書道具店・あるいはネット販売で個別に値札がついたものとは違って、個々の値段は特定できません。ましてやヤフオクで落札したものですから、実際の価値・価格などは誰もわからないのです。
印箱は安いものは100円位からあります。石の大きさや形に合わせる特注ものならばもしかしたら千円以上するかもしれません。きれいな布箱で、なかにちゃんとしたクッション材があるのは最低500円とみていいでしょう。

印材そのものは上の2本は「青田石」特に左の石は、その中でも高価で高級と言われる封門石にも見えます。そうならば一つ1.2万円してもおかしくないです。下の紐がある白い石は寿山石のなかでも銘石と言われる「白芙蓉」でありましょう。やや小ぶりですが、美しく磨かれ丁寧な紐が施されているのは「良い石」である証と言えます。真ん中の緑色の石は模様がきれいに浮き出た「広東緑」でこれとて数千円する代物であります。ワタシの印材蒐集家としての鑑定では、全部で3万円程度と見ました。

次はご存じ「鶏血石」二個、これで合計6250円、右の方は「桃花凍」という説明書きがあり2600円で落札しました。ワタシが欲しくて探している「桃花紅」とは違う種類でありますが、それなりの艶があり彫りやすい良材に見えます。

上記のものは、いずれも実用目的で販売されるレベルで、書道家さんが使うのに十分な良石であります。3件の落札品が合計17,000円弱で8本ですから、1本あたり平均取得価格は2100円程度となります。
つまり、ワタシの基準ながら、お金を払って人にも見せられるようなちゃんとした石ならば、箱代込みで1個2,500円位が目安なのです。

さて、直近でとある方から篆刻印の調製を頼まれました。当初のお申し出が二顆の雅号印と引首印で1万円で頼みたい、ということでありました。ワタシは喜んで彫りますが「お代は結構ですが、どうしてもというなら実費程度」と答えております。ここがご推察の通り、曖昧にして難しいのです。実費と言えば送料(最低510円)、これに箱代と石印材の入手(仕入れ)価格が乗っかります。印の製作はその気になれば1時間もあれば彫り上げることはできます。しかし、気に入らなければ彫りなおすし、失敗することもあります。

適当な石を手持ちの中から探し、印面をきちんと磨き、印になる字体を字典などから探す「集字」から始めます。そして一つの印作品にするための「印稿」を書いたら、印面に逆さ文字にして写す「布字」をして彫り始めるのです。
彫が済んだら、側款を入れます。その年の干支だったり月を刻み、最後に自分の雅号を作款として入れたらようやく完成です。件の篆刻家先生の一か月は論外(笑)としても、どんなに急いでも郵便局に持ち込むまで半日がかりになります。この時間は「時給」として実費になるのか?悩ましいところではあります。

今回の依頼印がこれであります。昨夕出来上がったので、あとは適当な印箱を探して発送するだけになりました。

これでいくら頂戴すべきなのか、あるいは一切拒否しておくのか、正直ワタシにはわからないのです。もし、受け取って現物を見てからご自分で勝手に値段を決めてください、と申し出たらどうなるのでしょう?
いいとこ一つ千円だな、と言われたら嫌なのでそれはやめておきましょう。
本音を言えば、死ぬまでに、「先生、いくらでも出すから一流の印材を使って会心作を彫ってください」、と言われるようになったら本望であります(笑)
コメント
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