植物園「 槐松亭 」

バラと蘭とその他もろもろの植物に囲まれ、メダカと野鳥と甲斐犬すみれと暮らす

田黄が欲しいが 大山黄なら大満足

2023年05月23日 | 篆刻
細々とヤフオクで「石印材」の入札・落札を続けております。もはや一級の印・印材は望むべくもない、というのが最近の明確な傾向で、銘品とみえる田黄石などは、すぐに10万円を超え大半が深夜にもつれ込んで時間切れ・出品取り下げというパターンが頻発しております。そもそも品物を手にするでもなく写真だけで、古い黄色い石ころが、数十万円の値段で取引されるなどといったことは異様だとしか思えません。

かくいうワタシも、いつの間にか田黄の虜になっておりますが、高額かつ偽物が多いために、すでに割り切って深入りせず、中途半端でほとんど見向きもされないような正体不明の石にちまちま入札し、せいぜい数千円から最大1万円程度で我慢することにしています。たとえて言うならポケットに1万円札だけを入れてパチンコ店に赴き、大当たりが来たらラッキー、1万円が無くなったらすごすごと帰宅する、といったところでしょうか。

今回紹介するのが、二日前にワタシだけの単独入札で落札した「中国古玩 田黄 山水賢人324g」というものであります。落札価格は15千円、断言しますが、この値段で本物の田黄石、またはこれに準じた高級印材は絶対に入手できません。つまり、ほかの専門家を含む多くの好事家蒐集家が、田黄でないと見てスルーし、ワタシはそれを前提で落札したのです。

田黄石のようなものの出品物の想定しうる現実を最悪から順番に並べると
①人造石・ガラス質または樹脂製→②石の粉を固めたもの→③安物の自然石の表面に着色してそれらしく似せたもの→④古来から田黄に近い石として流通する比較的値段の高いもの→⑤新田黄といわれる、田黄の母岩が産出される寿山山系の山塊・山坑から切り出された類似石→⑥田黄ながら傷・夾雑物が多い下等品→⑦本物 ということになります。

田黄の狭義の定義は「福建省寿山郷にある田黄坂周辺の畑や田んぼなどの土中から発見された自然石(丸石)、黄色みと透明度があるヨウロウ石で、 外側は土や太陽光などによって変質した「皮」に覆われ、蘿蔔紋(らふくもん) や紅筋が入ってる」というような要素で、これに合致するのは奇跡的なことなのであります。勿論ほとんど現在は掘り尽くされその出土は途絶えていて、かつてはゴールドラッシュさながらの活況を呈していたようです。

さて、ワタシがこの出品物を見て、④以上ならば見合う金額と見たのです。その根拠としては、写真で見る限り印面の部分が半透明であることや表面に施した浮彫「薄意」が本物ぽく、人工の型に流し込んでできたぼんやりとした模様には見えなかったことにあります。この現物が透明度が高く、白から黄土色・飴色の混色になっているので、駄石に色を塗ってるというのは考えにくいのです。

更に、また、通常人造石は印箱・ケースも無く、もしあっても一般用に売られている安い紙に切れを張り付けたものが関の山です。一定レベル以上の高価な印材・篆刻済み印の専用箱は、中蓋があり、石本体を収める穴と、飾り付けするときに用いる木の台(または美しい布地を張った台)を作り下部の別空間に収められています。ワタシの収蔵品でこんな感じです。↓

通常ヤフオクは10枚の写真が上限で、これを超える場合は別途商品説明・紹介する場所に飛びます。その箱が最後のほうの写真に写っていたのです。これだけの道具立てをして手間暇をかけたものが無価値同然の「人造石」ではなかろう、というのがワタシの読みでありました。従って上記の等級からしたら少なくとも③以上の代物で、15千円がパチンコでスルような羽目にはならないだろうと思ったのです。

現物はこれであります。

箱を開けるやいなや、迷わず印面(底部)をサンドペーパーで水磨ぎしてみました。もしそれでほとんど硬くて研げなかったら、微細の石の粉が出なかったらアウトですから。果たして、きちんと研ぐことが出来ました。また、磨いた後の色変わりもなく塗料などで着色されてはいない地の色でありました。これならば①~③まではクリアです。専用のセーム皮で磨くと驚くような艶が出ました。


この時点で関所は越えているので、15千円の支出は無駄にはならないということになります。印箱は表の布は茶色でかなり薄汚れております。底や角の部分は一部が擦り切れています。これはよほど保管状態が悪かった、相当古いものである、何人もの所有者が変わった、といったことが考えられます。留め具の上の部分は取れて無くなっています。中蓋もビロードぽくて上質ながら、どことなく汚くて、さほど貴重品として扱われたとは思えません。

肝心の石はケースの穴にぴったりと嵌り、台座になる木にあけられた穴にも寸分違わず収まるので、ちゃんとした箱の職人さんの手による、この石のために作られた印箱であることは間違いありません。全体的な状態から判断すれば、本場中国で50年前後の過去に箱入りの商品として世に出たのではなかろうか、と思えます。つまり骨董価値を高め、本物感を出すためにわざと古色感を出すよう捏造された最近の悪質な贋作ではないということであります。


さて肝心の石、これは新しいか古いかは関係ありません。もともと何十万年も前のものですから印材として世に出てからの年数などは大した問題ではありません。最大の関心事は「石の種類」であります。しつこいようですが、これは田黄石では無い、が大前提であります。本物の田黄ならば重量10gそこらで数万円といった値段がつきます。目方で価値判断される・取引されるとは限りませんが、こいつは323g(昨日磨いて削った分1g減った)です。もし本物ならば軽く100万円以上は致します。

石の特徴・外観を挙げてみます。
・形は一応自然石(丸石)である。
・その表面1割ほどには白い微透明の皮らしきものが残されて「薄意」の浮き出す部分に色の変化を与えている。
・皮の部分を除くと非常に透明度が高く「黄水晶凍」などのような風情がある。少なくとも凍石と呼ばれる石に分類される
・大部分は薄い暗色がかった飴色(琥珀色)で、その中に薄い黄白色の層が漂い、ごくわずかな茶・暗赤色の筋が走っている
・緻密で美しい艶が出ている、印刀で削ってみると、極めて均質で彫りやすい
・前面に薄意が施されているが、それほど細密とも言えず、上部は大半が余白になっている。

世の蒐集家が尊ぶ田黄を鑑定するとき「温・潤・細・結・凝・膩」という「六徳」 が備わっているかで決めるそうであります。温潤な趣があって、細密凝縮感のある緻密な石質、膩は脂質(あぶら)であります。ねっとりとした艶やかさを併せ持つのが田黄の田黄たる所以であります。ワタシの目の前のこの石が、田黄として認められない理由は、石自体大きい・色合いが暗い・半透明で混じりけが多い印象であることに由来するのだと思います。温潤さはちょっと疑問に感じます。

ワタシの資料・書籍で最も似通って見える石はこれでありました。原題「中国寿山石(方宗珪著)」にありました。福建省で寿山石研究の大家・誉の重鎮とうかがいました。色合いと言い透明度やツヤ感、そして白い表面の感じがそっくりでした。無断転載なので問題があったら消します。💦
「大山黄凍石」、ネットではググっても該当の情報は得られません。
大山黄についての記載は「近年ではほとんど産出されていない。100㎏ほどの原石が見つかり、そのうちいくつかの黄色い原石が20万元近くで取引された」とか、「2020年にはオークションで4万元で落札された。」のあてにならない記事があったのみです。中国元ならば1元約20円ですよ。

その価値はともかく、どうやら産出量が極めて少ない「幻の石」なので、ほとんどの人がその存在すら知らないのでしょう。ワタシの手持ちの文献にもその記述はないのです。

結論から言えばこの石の種類も価値もわかりません。上記の基準で言うなら、④か⑤に該当します。どうしても知りたかったら専門の鑑定家に依頼することになるでしょう。田黄でなくても、もし大山黄であれば、大変なお宝ということになります。
パチンコならば7が揃って確変突入したのかもしれません。
粗末に扱って汚したりしないで大事に保管することにいたしましょう。
コメント
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