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ある厳しい教師と大いなる期待という贈り物

2014年02月24日 16時46分26秒 | Weblog
「自分は人に何かを教えられる資格があるんだろうか」と常々自問自答する日々ですが、これは教職に携わっている人なら、考えない訳にはいかない命題でしょう。日本を含め、先進諸国の教育が行き詰まっています。日本も高度成長時代は目指す目標がありましたが、いざ頂点を極めてしまうと、もう目標がありません。そこで、教育現場では、自主性ややる気を引き出すのが正しいとされ、以前のような「暗記」や厳しい教育方法は否定されがちです。しかしながら、「ゆとり教育」の先進国である米国では、その揺り戻しが起きつつあるようです。
JOANNE LIPMAN氏の10月1日にハイペリオンから出版されたメラニー・カプチンスキー氏との共著「Strings Attached: One Tough Teacher and the Gift of Great Expectations(条件付き:ある厳しい教師と大いなる期待という贈り物)」の一部をご紹介します。同氏はウォール・ストリート・ジャーナルの元副編集長で、「コンデナスト・ポートフォリオ」の元編集長です。長文ですが、お付き合いください。
 

 
   昔、生徒が失敗すると「ばかもの」と言う先生に教わったことがある。私たちのオーケストラの指揮者で、名前はジェリー・カプチンスキー。ウクライナからの移民で気性が荒い人だった。誰かが音を外すと、オーケストラを止めては怒鳴っていた。「第1バイオリンで耳が聞こえないのは誰だ!」私たちに指に血がにじむほど練習させた。手や腕の位置を修正するときには鉛筆で突っついた。
 
 今なら、クビになっているだろう。だが、先生が数年前に亡くなると、40年間に教えた生徒や同僚が全国から古い楽器を携えてニュージャージー州にやってきた。追悼コンサートにはニューヨーク・フィルハーモニックに劣らないほどの人数が参加した。
 
 ミスター・Kと呼ばれていたぶっきらぼうな先生にみんながこれほどの感謝の気持ちを抱いていたことにも驚いたが、昔の生徒が成功していたことは衝撃的だった。音楽家になった生徒もいたが、ほとんどが法律や学問、医学など音楽以外の分野で活躍していた。
 
 米国では教育制度を反省する機運が高まっている。米国の15歳は科学で世界13位、数学では18位となり、アジアだけでなくフィンランドやエストニア、オランダにも負けている。米国の教育者の何が間違っていたのかが問われているが、私なら、ミスター・Kの何が正しかったのだろうと問うだろう。今の教育の常識からするととんでもない方法で教えているのに、間違いなく効果的だった先生から私たちは何を学べるのだろう。
 
 虐待を勧めているわけはない。しかし、子ども時代に適度なストレスを受けることの利点や、ほめると子どもの自尊心が損なわれる理由などが研究によって明らかになっている。
 
 常識では、教師は知識を生徒の頭に叩き込むのではなく、生徒から知識を引き出さなければならない。プロジェクトや共同学習がいいとされ、講義や暗記など伝統的な手法は賛同を得られず、若者の創造性ややる気を奪うとして否定されている。
 
 だが、その常識は間違いだ。次の8つの原則でその理由を説明しよう。
 
1. 多少の痛みなら子どものためになる
 
 心理学者のK・アンダース・エリクソン博士は真の技能を身に付けるには約1万時間の練習が必要であることを示した研究で有名になった。見逃されることが多いが、この研究では、技能の獲得には「建設的でつらい意見」を言う教師が必要であることも指摘されている。バイオリン演奏、外科手術、コンピューター・プログラミング、チェスなどさまざまな分野で優れた成果を上げている人々を調査した結果、全員が「生徒をやる気にさせて、より高いレベルに向かわせる、感情に押し流されないコーチを意図的に選んでいた」ことがわかったそうだ。
 
2. 基礎訓練が大事
 
 暗記学習は長い間、疑問視されてきたが、今ではインド出身の家族の子どもが全米スペリングコンテストで他を圧倒する成績を上げている理由の1つは暗記学習だと考えられている(インドでは今でも暗記が重んじられている)。米国の生徒が数学の複雑な問題に苦労するのは研究によってはっきりしているが、基本的な足し算や引き算を解くことができず、九九表を暗記させられた生徒もほとんどいないからだ。
 
3. 失敗してもかまわない
 
 学習に失敗は必要だとわかっている子どものほうが成績がいい。2012年の研究では、フランスの111人の6年生に難解な回文の問題を出した。失敗したらやり直すように言われたグループの生徒はその後のテストでも一貫して他の生徒を上回る成績を上げた。
 
 失敗したら子どもが傷ついて、自尊心が損なわれるのではないかと言われるが、これも間違いだ。2006年の研究では、ボーリング・グリーン州立大学の大学院生が楽団のクラス分けのためのオーディションを受ける31人の学生を追跡したところ、最も低い評価を受けた学生でも「長期的にはやる気も自尊心も低下しなかった」ことがわかった。
 
4. やさしいより厳しいほうがいい
 
 成功する教師にはどのような資質があるのだろう。クレアモント大学院大学のメアリー・ポプリン教育学教授らのチームは2005年から5年間、ロサンゼルスの一部地域で最も成績が悪い学校にいながら高い成果を上げている教員(生徒のテストの点で評価)のうち31人を観察した。教授によると、最大の発見は「彼らが厳しい」教師だったことだ。
 
 教授によると、「こうした教師には『自分のクラスの生徒の成績は能力を下回っている。それをなんとかするのが自分の仕事であり、なんとかできる』という信念がある」という。
 
 ある4年生はこう言ったそうだ。「1年生、2年生、3年生のときは、泣けば先生がやさしくしてくれました。T先生のクラスになると、先生はあれこれ言わずに勉強しなさいと言いました。私は先生が正しいと思います。私はもっとがんばらなければなりません」
 
5. 想像力は習得できる
 
 伝統的な教育は創造性を損なうと批判されている。しかし、テンプル大学のロバート・W・ワイスバーグ心理学教授の研究によると、それは逆だという。トーマス・エジソンやフランク・ロイド・ライト、ピカソなど創造性豊かな天才を研究した結果、教授は生まれながらの天才は存在しないという結論に達した。天才の多くは猛烈に努力して、(外の世界には)突然のひらめきや大発見のように見えるものを徐々に達成する。
 
6. 根性は才能に勝る
 
 ペンシルベニア大学のアンジェラ・ダックワース心理学教授はここ数年間、スペリングコンテストの優勝者やアイビーリーグの学部生、米陸軍士官学校(ウエストポイント)の士官候補生を対象に研究を行っている。2800人以上を調査したところ、根性で将来の成功を予測できることがわかった。この場合の根性とは、長期的な目標に向かう情熱や粘り強さである。根性は通常、才能と関係ないか、負の相関関係にある。
 
 教授はウエストポイントの新入生に、「やり始めたことは最後までやり通す」などの設問に基づいて自分の根性を評価してもらった。その結果、得点が高い人のほうが夏の厳しい訓練プログラムから脱落しにくいことがわかった。学校独自の基準(テストの点数や学年順位、リーダーシップ、身体的な適性など)では脱落しないかどうか予測できなかった。
 
7. ほめると人は弱くなる
 
 ミスター・Kが私たち生徒をほめることはほとんどなかった。最高のほめ言葉は「悪くない」だった。スタンフォード大学のキャロル・ドゥエック心理学教授は「賢い」とほめられた10歳の児童は自信をなくすことに気づいた。しかし、「一生懸命勉強している」と言われた生徒は自信がついて、成績も上がった。
 
 教授は2007年の論文で、「うまくできれば賢いというのであれば、一生懸命頑張っているのは賢くないということになる」と述べている。
 
8. ストレスは人を強くする
 
 ニューヨーク州立大学バッファロー校が2011年に行った研究によると、子どものころに適度なストレスを受けていると立ち直る力がつくという。マーク・D・シーリー心理学教授は健康な学部生に家族の死など37種類の否定的な出来事を経験したことがあるかどうかを質問したあと、彼らの手を氷水に浸した。適度に否定的な出来事を経験した学生たちはストレスを全く経験していない学生より痛みが軽かった。
 
 シーリー教授の研究結果はネブラスカ大学の心理学者リチャード・ディーンストビア氏の研究に基づいている。ディーンストビア氏は「強さ」の概念を切り開いた人物だ。日常のストレスに対処することで人は強くなるという考え方である。日常のストレスとはどういうものだろう。シーリー教授は「頑固な先生などありふれたもの」だと話している。
 
 何十年も経ってから、ミスター・Kの元生徒の1人が言った。「先生は自律を教えてくれた」。この生徒は元バイオリン奏者で、アイビーリーグの大学を卒業し、医者になった。「自発性だ」と言ったのはテクノロジー企業の役員となった元チェロ奏者だ。プロのチェリストとなった生徒は「立ち直る力」だと言った。「私たちに失敗する方法を、そして自分で再び立ち直る方法を教えてくれた」

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