季節は夏から秋へ。
田んぼにはよく実った稲穂が。そろそろ稲刈りの時期。
「あぁ・・・稲刈りの季節か」
このブログは、「稲刈り」に悲しい思い出がある少年(当時中3)の話。
彼が当時所属していた野球部はやんちゃ坊主の集まりだった。
とにかく遊ぶことが好きで、仲がよかった。
野球の実力もそこそこで、小学校の頃には市内を制覇するほど強いチームでレギュラーを張っていた奴ばかりだった。
だが、中学校の野球部の顧問は全く野球には興味がなく、部活の指導などまったく行なわない教員だった。そのせいにするわけではないが、彼らは野球の練習を片手間におこない、とにかく放課後は遊びまくった。
だが、「本気で野球がやりたいな~。」と本心では誰もが思っていた。
そんな日々が続き、珍しく校庭に出てきた顧問がニコニコしていたので、何かあるのかと思っていたら、
「おう、お前ら、あそこの空いている花壇を自由に使っていいって言われたから、野球部で稲を植えるぞ!!秋には米が実るからみんなでカレーパーティーだぞ!!」
「野球じゃなくて、田植えかよ。」と正直に思ったが、暇だったので、
「すっげーうまい米を作ってカレー食いまくろうぜ!!サッカー部の奴らにも食べさせてやろうぜ。」
と少年たちは一気に盛り上がった。そこからジャージを捲り上げて、花壇を田んぼに変える作業が始まった。
田んぼは水を張った状態を維持できなければいけないので、土を全部掘り起こし、その下に強力なビニールシートを敷き詰め、またその上に土をかぶせた。
その作業はかなりの時間を費やし、体力的にもかなり厳しかった。
1日では作業は終わらないほどだった。
だが、みんな黙々と作業を続けがんばった。
少年は、作業する仲間の姿を目に、久しぶりに皆が充実しているのだと思い嬉しかった。
田んぼは完成し、水を張った。サイズは小さいが立派な田んぼに仕上がった。
さて、田植えだ。ヒンヤリとした水の中に裸足で入り、ちゃんと列を作って苗を植えた。土の感覚と水の感覚、そして苗が「スっ」と土に埋まる感覚がたまらなく気持ちよかった。普段は馬鹿な遊びばかりをしている仲間も弾けんばかりの笑顔だ。
それからは、その顧問の言うとおり田んぼの世話を交代制で行って、苗の成長具合を皆で見守った。
部活や体育の授業でボールが田んぼに入ったりした時は大変で、
「ふざけんな!!誰の田んぼだと思ってんだ!!二度とボール入れるなよ!」と怒鳴ったりもした。
春から夏、夏から秋・・・時は流れ稲穂が日に日に実っていく。
その少年は食べ物で一番カレーライスが好きなため、収穫の日が楽しみで仕方なかった。
しかし・・・日々の学校生活では、野球部連中やその仲間たちが学校内で問題ばかりを起こして荒れた日々だった。
あの当時は、先生たちもホトホト疲れ果てていたと思う。毎日のようにどこかで問題が起きていた。
そして・・・
あれは、夏休みがあけて、数日後の涼しい日だった。
1時間目の授業が終わった休み時間。ベランダからボーっとグラウンドを眺めていた時には、確かに田んぼには収穫待ちの稲穂が所狭しと立っていた。
しかし、昼休み。さっきと同じようにベランダからボーっと下を眺めていた。一緒に眺めていた友人と少年は同時に声を上げた。
「稲がないじゃん!!!」
そこからは速かった。
急いで教室を飛び出し、上履きのまま田んぼに走った。
確かに稲が刈り取られている・・・。
「さっき2年生がジャージ着て外に出ていたのは稲刈りのためだったのか!」
友人が叫んだ。
「(顧問のところへ)行こう!!」
二人は走って職員室へ向かった。
気のせいか。階段を駆け上がる先が、どんどんカレーの匂いがしてくる。
「まさか・・・」
「これが、野球部の連中が作った米ですか。なかなか、うまいですね~。これで大人しくなるなんら、先生、もう一回連中に田植えをやらせましょうよ。」
「はっはっは~そうですね~。」
「・・・・・。」
職員室の前まで走ってきた二人の少年に聞こえてきた会話だった。
「ちょっと待ってくれ先生。俺たち野球部のみんなで収穫して、カレーパーティーやるんじゃなかったのかよ。」
友人は叫んだ。
「おぉ~。お前らぁ~。美味かったぞ~。
2年生の子どもたちもみんな美味いって言ってたぞ~。良かったな~」
その言葉を聞くか聞かないかのうちに
「ふざけるんじゃねー!!」
友人は飛び掛った。しかし、少年はそんな友人の行動を先読みして体を前に入れて、笑いながらこう言った。
「Y、いいじゃねーか!!2年の奴らがうまいって言ってくれたなら。」
その教師に背を向け友人の動きを制していた少年の目には涙が溢れ、それでも必死にYをなだめた。Yはその様子にすぐに気がつき、やがて大人しくなった。
「こんなことがあっていいのかよぉぉ~。おまえは何で笑っていられんだよぉ~。」
Yはさっきの鬼のような形相から一変し、悔しさと悲しみを混ぜ合わせた少年の顔に戻っていた。そして二人は力なくその場を離れ、体育館裏で泣いた。
話を聞いた仲間も集まってきて、みんなも泣いた。余計なことは何も話さず、しくしくと泣いた。
少年らは今でも、稲刈りの季節になると、このことを思い出すらしい。
「夏の終わりと秋の始まりが、切ない季節だと感じるのは、このせいだろうか。」
彼らはそう言って悲しそうに笑った。
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