ラミ・デュ・ヴァン・エフ シェフのブログ ~言葉の錬金術~

フランス料理に限らず、色んな話のブログ内容です。

名前を付ける時、その真意を考えなければならない

2009-07-21 20:04:14 | Weblog
 焼酎というのは、私の中では「ほとんど飲まないアルコール」という位置づけになっておりますが、それでも、人に勧められたり、お店の人、又は同業の友人に勧められたりすると飲む事があります。
 現在では手に入りにくい、とされているプレミアムな焼酎も何度か飲んだ事がありますし、その名前くらいは私も知っております。
 先日、とあるところで、珍しい焼酎を発見しました。その名も

「大魔王」

 幻の三大焼酎に挙げられるものとして「森伊蔵」「百年の孤独」、そして「魔王」がありますが、最後の「魔王」と、その「大魔王」は、何ら関係もありません。勿論、製造元も「白玉酒造」ではありませんでした。
 便乗的なネーミングに、不覚にもその場で大笑いしてしまった私でしたが、「大魔王」が許されるのならば、「魔王様」でもいいのではないか、と考えてしまい、もう一度その場で笑ってしまった次第でした。
  
 ネーミングというのは、非常に大事なものだと私は考えます。
 一度それに決めてしまったらもう後戻り出来ないから、というのが大きな理由でありますが、それ以前に、その意味を人に説明できるか、というのもあるでしょう。
 とある情報誌に、とあるお店の料理が載っており、その料理名に

「○○牛のステーキ ポワレ仕立て」

 という名前がつけられておりましたが、この名前を簡潔に説明出来る人はいるのでしょうか、疑問であります。
 「ポワレ」というのは、フランス料理の調理法のひとつでありますから、「ポワレに仕立てる」という言葉には違和感を持ってしまいます。
 そもそも「ポワレ」は、「poele(ポワール。日本語に訳すとフライパン)」から派生した言葉であり、その意味は「フライパンを用いて焼く調理法」とそのまんまであります。
 では、なぜ「フライパンを用いて焼く調理法」などと当たり前のような名前が付いているのか、それは料理の歴史に由来します。
 肉調理の歴史の中で、「ポワレ」以前は、圧倒的に「ロティール」が調理法の大半を占めていたと考えられます。
 「ロティール」つまり「ロースト」も現在ではフライパンを用いて行われる事が多くなりましたが、昔は肉を鉄の棒に刺し、火に近づけてあぶり焼きにしていたのが「ロティール」の原型であります。ブラジルの「シェラスコ」みたいなものですな。
 調理器具の発達に伴い、塊のままの調理法よりも、切り身をすばやく調理する事にその活路を見出したため、「ポワレ」「ロティール」と分けて考えるようになったと私は考えております。
 ですから、「ポワレ仕立て」というのは「フライパンで焼きました仕立て」になってしまいますからご再考なさる事をお勧めいたします。
 もっと深く考えれば、「ポワレ仕立て」の前にある「○○牛のステーキ(○○はブランド名でありますので、次から割愛いたします)」の「ステーキ」という言葉が、英語では「切り身」とも取れますので

「牛のステーキ(切り身) ポワレ仕立て」

 との考え方も出てはきますが、「牛のステーキ」の時点でどのような調理をするのか容易に想像できますので「ポワレ仕立て」をつけなくてもいいでしょう。
 実際、「牛のステーキ」はフランス語でも「ブフ・ステック(ブフはビーフと似ているように「牛」の意味。ステックはフランス訛りになったステーキとお考えください)」と表記し、それだけで「フライパンで焼いた牛肉の意味だな。」と理解しているはずですからそれ以上説明しなくてもいいのです。
 逆に「ステック・フリッツ(ステーキとフライドポテトの意味)」のように簡素化されているくらいです。
 
 焼酎「大魔王」の話から、最後は「牛肉のステーキ」の話になってしまいましたが、要は「名前は大事だ。」というのを書きたかったんですよ、分かってください。

 話は戻りますが、焼酎「大魔王」のボトルの形は普通の瓶でありました。

 出来る事なら、容器は陶磁の壷のようなもので色はピンク色、そして、その壷には大きなタレ目の顔が描いてあり、両取っ手が付いているものであって欲しかった。

 その壷を前にした時、「ここでクシャミをしてみると・・・もしかしたら・・・」

 などと、考えてしまうのは、私だけではないでしょう。










 
 
コメント (2)
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