ラミ・デュ・ヴァン・エフ シェフのブログ ~言葉の錬金術~

フランス料理に限らず、色んな話のブログ内容です。

フレンチの食事は恥のかき捨て、ですよね

2008-07-25 13:05:34 | Weblog
 いまだに覚えている事なのですが、初めてナイフとフォークを使って食事したのは小学校3年生で、場所は超高層ビルのはしりであろう「サンシャイン60」ででした。
 母が観光会社に勤めていた関係もあって、格安チケットを取れたのだと思いますが、「はとバス」もセットになっていて皇居なども回ったのを記憶しております。
 事前に、

「『サンシャイン60』でフランス料理を食べる事になっているから、恥かかないように今日からナイフとフォークを使って食事する事とします!」

 と、母が勝手に宣言してしまいましたので、夕飯の時、煮物だろうが焼き魚だろうが、容赦なく箸以外のものが出てくる事に幼い私は戸惑いを隠せないのでした。

「ご飯はフォークの背に乗せて食べるらしい。」(当時、これがスタンダードでしたが、今、これをしたら逆に笑われてしまうでしょう)

「魚は身だけで来るから、骨の心配はないらしい。」

「ナイフとフォークを皿の中に置くと食べないとみなし、強制撤去されるらしい。」

 と、未確認情報だけが飛び交い、この世に生を受けて10年にも満たない人間にはこの上ないプレッシャーとなるのでした。
 
 当日、耳の三半規管がおかしくなるような、今まで乗った事のない高速エレベーターで最上階に着くと、メートル(ホールのサービスの人のこと)が待ち構えていたかのようにやって来ました。
 なぜか薄ら笑いを浮かべていたのが気になったのですが、今考えると、はとバスにそこの食事のオプションが組み込まれていたためなのですかね。

 50何階から見下ろす東京は絶景でしたが、その時の私は「スゴイ!」とか「キレイ!」などよりも「地震が起きた場合、どうする?」という不安が過ぎり、兄に話したら「そういう状況じゃないだろう!」と一喝されたのを覚えています。
 しかし、不安は「地震が起きた場合」などという、くだらない事に頭を回す場合ではなかった事に、メインの料理が来た時、思い知る事となるのです。

 記憶の糸を辿ると、前菜は、スモークサーモンのスライスにレタス(サニーレタスとのブレンド)と玉葱の輪切りのスライスを乗せたサラダ。スープはポタージュ系だったように記憶しております。
 そして、メインの肉は、完全に覚えております、忘れるはずがないでしょう、何故なら「鶏の手羽元のロースト」でした。
 いや、「ロースト」と呼べるような代物ではありません。(今考えてみると、ですよ)サッとソテーしたものを無理やりオーブンで火を入れました、みたいなもので、皮はクニャクニャしてるやら、予め火を入れておいたため身はパサいているやら、で疑問に感じたのは今でも覚えています。しかも、ナイフフォークの練習の想定外ですから、散々恥をかいた事は言うまでもないでしょう。
 しかし、テーブルマナーというものを垣間見たのは良い勉強になった、とその後、思う事になるのです。(テーブルマナーを覚えた、という意味ではなく、その場所に一度踏み入れた、という事が変に度胸をつけてしまった、ということで)

 時々、当店に来店なされた事のない方とお話しすると、

「敷居が高くて」

「マナーが判らない」

「恥ずかしい(これはマナーが判らないからか、シャイなのか不明)」

 という声を頂きますが、これは全て「マナー絡み」の事だと私は思っております。
 確かに、食事に行ってまで恥を掻きたくない、というのは判るのですが、恥を掻かなければ判らない事も世の中にはあるのではないでしょうか。
 「テーブルマナー」を知らなければ、今から覚えればいい、と私は単純に思ってしまうのですが、どうでしょう?

「テーブルマナーを知らなくても生きていける」

 その通りです。しかし、

「知っている方が、もっと楽しく生きていける」

 と、前向きに考える方が面白いのではないでしょうか。

 因みに、その時、私が掻いた恥とは、骨付き肉の場合出てくる「フィンガーボール(指を洗うための水が入っている)」を、知らずにクイッと飲み干した後、メートルの方にスッ飛んで来られた時でしょうか。(おいおい、頼むよ!的な感じが忘れられません。その後の飲み会ネタにしてますけど)

 まぁ、私も今まで散々恥、掻いてきましたからね、今では堂々としたモンですよ、他所に食事に行くと。

 「面の皮が厚い」なんて言わないで欲しいものですな。




コメント (2)
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