ラミ・デュ・ヴァン・エフ シェフのブログ ~言葉の錬金術~

フランス料理に限らず、色んな話のブログ内容です。

ルセットは計算機片手に

2008-07-09 18:45:48 | Weblog
 この時期にストーブ前(ガスレンジの事をストーブと呼ぶ)での仕事は、汗を掻きまくる事を意味します。
 この暑さと格闘をしながらの調理、というのは意外に心を燃え上がらせ、そして、体中の血がたぎるのを感じ、自分の中の未知な世界に足を踏み入れるようで私は嫌いではありません。(一部、表現が大げさ)
 しかし、最近、謎の腰痛に苛まれ、暑さと格闘しながら腰痛とも格闘しなければならない、というのは大リーグ養成ギブスをつけながら投球している「星飛雄馬」状態に似たようなものがある、と私は勝手に思っております。(かなり大げさ)
 なぜ「謎の腰痛」なのかと言いますと、数年前にもこの腰痛に襲われた事があります。この時も立っているのが辛いほどの激痛でした。
 1週間ほど我慢しましたが、あまりにも痛みが治まらないので整形外科に来院したところレントゲンを取ることとなりました。
 レントゲンを取ってしばらく待っていると名前を呼ばれましたので先生に話を聞いてみると、

「藤原さん、このレントゲン写真見てください。」

「はい。で、どうなんでしょう?」

「きれいな背骨でしょ。」

「はい?」

「いやー、なかなか良い骨の並び具合ですよ。」

「ヘルニアとか、骨髄性ナントカとかいうのではないですか?」

「まさか!(爆笑)」

「・・・・・」

「とりあえず、シップ出しときますか。」

 と、このように診察が終わった経験があり、その後、「あの腰痛は何だったの?」くらいに直ってしまいました。
 ですから今回は病院に行くことはせず、自然治癒能力にお任せしているのですが、直るまでが辛い。早く直ってください、私の腰よ。
 今、私の口癖は「イタタタタ・・・」です。

 前置きが長くなってしまいましたが、本題に入りたいと思います。
 最近、バースデーケーキ(バースデーだけとは限りませんが、記念日のケーキ)付きのご予約をいただく事が多々ありまして、デセールとは別にケーキを焼き、デコレーションしてお出ししています。
 以前にもこのブログでバースデーケーキの事は載せたのですが、基本的な作り方は変わっておりません。
 ただ、変わったのは「ジェノワーズ(所謂、スポンジですね)」の配合と混ぜ方くらいなものでしょうか。
 前は「ジェノワーズ」ではなく「ビスキュイ・ダマンド」という生地でケーキを作っていましたが、「ビスキュイ・ダマンド」にはバニラビーンズの皮を洗って乾燥させ、粉砕したものを混ぜておりますので、ケーキの真ん中の部分の「ヴァニラのムース」とバッティングしてしまう、という考えで普通の「ジェノワーズ」に戻すことにしました。(いや、ヴァニラヴァニラしているほうが良い!と仰る方は事前にそのようにご要望いただければお作りいたします)
 「ジェノワーズ」というのは「卵」「小麦粉」「バター」「グラニュー糖」しか入らないものですから、簡単、と捉えるとそのようになってしまいますが、4つの材料しか入らないため厳密な仕事が要求される、と考えると難しいものになってきます。
 よく「スポンジは家庭でも出来ますか?」という質問を受ける事がありますが、その時は「簡単、簡単、大丈夫、大丈夫。」と一休さんのCM前のコメントにも似た答え方をし、暗に「やる気があればナントカなる」という根性論を押し付けます。
 しかし、これは家庭での話であり、我々料理人には「簡単、大丈夫」などの曖昧な部分は厳禁であります。なぜそうするか、こうすればこうなるのではないか、といった疑問などを抱えながら常に良い仕事をしなければならない、と私は考えるからです。
 まず、「ジェノワーズ」の基本工程から説明しますが、

「全卵とグラニュー糖を高速のホイッパーにかけボリュームを出す→溶かしバターを混ぜる→小麦粉を混ぜる→型に流し入れオーブンで焼く」

 と、難しい工程は入りません。
 しかし、これは同時に「どのくらいの高速でどのくらいのボリュームを出すのか」や「どういう風に小麦粉を混ぜていけばダマにならないのか」「溶かしバターの温度は何度が適当か」などの細かい事を考えながら作業をしていかなければなりません。
 最近の私のジェノワーズの作り方はこうです。(カッコ内は理由です)

①全卵6個と卵黄6個、グラニュー糖160gを湯煎にかけ50度まで熱をつける。(全卵6個と卵黄6個で約500gになる、グラニュー糖160gの理由は後で。温めるのはボリュームが出やすいように)

②①を高速のホイッパーにかけ、ボリュームが出たら低速にし、キメを整える。(キメが粗いままで粉を混ぜると断面が粗くなる)

③②に40度に温めた溶かしバター100gを少しずつ流し入れ乳化させる。(絶対40度!とは言いませんが、この辺の温度帯が乳化しやすい)

④③をホイッパーからはずし、振るった小麦粉(薄力粉)140gを入れ、手でダマにならないよう注意しながら混ぜる。(ゴムベラではなく手の方が感覚が分かるから)

⑤④をクッキングシートを敷いた型に流し込み160度のオーブンで30分焼く

 グラニュー糖や小麦粉の重さの理由ですが、卵、バター、グラニュー糖、小麦粉の重さを足していくと全体で900gになります。これは私の考えですが、デセールのルセット(レシピ)というのは、材料全ての重さを足すと2gや3gといった半端な数字が出ず、「何百g」ときっちり揃うのが良いのではないか、と考えます。
 ですから、私が自分でルセットを考え出すときは、必ず、計算機で計算し、材量全部足してどういう数字になるか、というのを重要視します。
 仮に半端な数字が出た場合、どこかを少し削り、どこかにそれを足し数字を均す、というよう作業をします。勿論、その数字のほかに糖度は何%なのか、などの計算もして、ということになりますが。

 「お前、計算しすぎ!」と言われるようなブログ内容になってしまいましたが、自分の拙い技術を補足するためにはどうしても理論や計算が必要となってくるのです。  

 「技術不足」と言われてしまえばどうしようもない事なのですが、「発展途上」と前向きに捉えていただければ幸いです。

 因みに、私の中学時代(3年通して)の通信簿での数学の評価は

 「2」でした。

 説得力ないですか?これを知った後での今回の話は。


コメント
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