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飾釦(かざりぼたん)とは意匠を施されたお洒落な釦。生活に飾釦をと、もがきつつも綴るブログです。

男達は過剰を目指す。ヘルツォークのシネマ#10 「神に選ばれし無敵の男」

2011-08-09 | Weblog

■製作年:2001年

■監督:ヴェルナー・ヘルツォーク

■出演:ティム・ロス、ヨウコ・アホラ、他

 

ヒットラーが台頭する直前の物々しいドイツを描いたヴェルナー・ヘルツォークの映画です。ヘルツォークはドイツ人にもかかわらず、主人公はユダヤ人でナチスが彼らを迫害し始める様子を描いており、私が見る限りドイツ人をあまりよくは表現していません。その反省的というか自虐的というか、なぜそのような題材をヘルツォークが選択したのか、その辺りの事情はわかりません。ただ、ユダヤ人をヒロイックに描き、ドイツ人をまるで一時のアメリカ映画のように悪者に描いているのは確かなのです。

 

その描かれたユダヤ人は主に2人で、彼らを対称的キャラとして設定しています、1人は鍛治屋の息子で貧しいながらも家族に囲まれ素朴に正直に生きてきた怪力自慢の青年ジシェ。もう1人はベルリンで魔術的なショーを見せながら自ら千里眼と称して未来を予測、ヒットラー政権を予言しなんとそこでオカルト省をつくらんとするハヌッセン、いずれも実在の人物であるそうです。いずれもユダヤ人として迫害を受けながら数奇な人生を送るのですが、はっきりと個性が違う人物をキャスティングしているため物語をわかりやすく見せています。

 

怪力自慢のジシェは怪力コンテストで優勝した素人の大工さん、演技が未熟ゆえに朴訥な感じがして金太郎的な優しさを醸し出しています。デビューしたてのころのアーノルド・シュワルツネッガーを思い出しました。一方の奇術師ハヌッセンを演じたのはティム・ロス、こちらはまるで吸血鬼ドラキュラのような重厚な雰囲気を出していて、ユダヤ人であることがばれてナチスに連行されるときも身体を張って生きてきた男の意地をみせ、心に残る演技を見せてくれます。彼らはいずれもユダヤ人であることから、時代に翻弄され、ゆえに自らの内に過剰性を抱え込まねばならなかった2人といっていいのだと思います。

 

始終クールな姿勢を見せていたハヌッセンの台詞で印象的なところがありました。それは彼の奇跡のパフォーマンスがインチキであるかどうかの裁判にかけられるときの発言で「私が作り出したものをインチキと呼ぶのもいいが、神の創造もインチキだったはず。でなければこんな世の中にならなかったはず」は皮肉タップリの最大限の挑発的な言葉に響きました。私は生きていくためにこの捻れて開き直っているかつてエセ・デンマーク貴族とも名乗っていたハヌッセンをカッコイイと思いました。突っ張っている感じに共鳴しました。

 

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ヴェルナー・ヘルツォーク
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「神に選ばれし無敵の男」サウンドトラック
ハンス・ジマー,クラウス・バデルト,アンソニー・ブラモール,ベートーベン・ホール交響楽団,ダス・パラスト・オーケストラ,アンナ・ゴラーリ,ロニ・カーウィン,エミ・レイスナー,マックス・ラーベ
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