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飾釦(かざりぼたん)とは意匠を施されたお洒落な釦。生活に飾釦をと、もがきつつも綴るブログです。

男達は過剰を目指す。ヘルツォークのシネマ#9 「戦場からの脱出」

2011-08-08 | Weblog

■製作年:2006年
■監督:ヴェルナー・ヘルツォーク
■出演:クリスチャン・ベイル、スティーヴ・ザーン、ジェレミー・デイヴィス、他

冒頭シーン、アメリカ軍によるベトナムへの空爆の映像から始まります。それまで特撮なしの生の大自然の映像を撮ってきたヘルツォーク監督ですが、さすがにジャングルを次々と襲う空爆映像はトリックなしの実写ですとは言えないでしょう。(と思うのですが…)今回見た映画はベトナム軍に捕虜になりそこから脱出、生還したアメリカ兵の話で、ベトナム戦争における実話に基づいているといいます。ストーリーは至ってシンプル、飛行機のトラブルでラオスのジャングルに不時着してしまったディーター・デングラー(=クリスチャン・ベイル)、やがてベトコンに捕まり、酷い仕打ちを受け捕虜に、非人間的な捕虜生活を送るものの、同じ捕虜仲間と脱走を計画します。圧倒的な自然(=ジャングル)とベトコンに格闘しながらペリコプターで救出され奇跡の生還、一躍ヒー同じローとなった戦士。簡単に書いてしまえばそんな話であります。

 

いってみればシンプルな脱出劇であり、物語には特に深みがあるわけではありませんが、ヘルツォーク監督にしかできないような圧倒的な自然の脅威とそれと格闘する姿がそこにはあり、私としては予想を上回る面白さでした。もともとヘルツォークの創る映画は複雑な物語構成を持っているということはあまりないように思います。むしろ厳しい自然環境の中で一人の男が、過剰な想いを果たそうと格闘する姿を、生の極限的な映像とともに見せていくということが多いように思います。代表作に数えあげられる「アギーレ 神の怒り」や「フィツカラルド」は妄想に取り憑かれ狂気に満ちた破天荒な男の無茶な行動を描いていましたが、この「戦場からの脱出」は生存に関わる壮絶な脱出劇でした。主人公の破天荒な想いはベトコンから逃げたいというサバイバルに取って変わっています。その分、男の持っている狂気性は後ろに引っ込んでいるものの、生き残りをかけた男の姿が凄まじいまでに伝わってきます。クラウス・キンスキーが演じた破滅型の男はここではサバイバル技術と冷静な判断を持ち合わせた頼もしい男として描かれているわけです。

 

生き残るためには、蛆虫でも生きた蛇でも喰らう。クリスチャン・ベイルの熱演ぶりには驚かされました。出撃前の彼と捕虜生活から脱出し髭も伸び放題の彼の様相は全く別人のようです。まともな食料がないわけだから当然痩せてきます。クリスチャン・ベイルはそうした点でも相当頑張ったんじゃないでしょうか。その他にも宙ずりにされたり牛に引きずられたりと、体を張った演技を見せ、彼の役者魂全開の彼のためにつくられた映画のようにも思えてくるほどです。まあ、クリスチャン・ベイルはヘルツォークの要求にしっかりと答えたということもできるのでしょうが。

 

映画として見るには面白い、ひたすらに見入ってしまったのですが、ただ残念なのは、ベトナム人に対する理解、たとえば「緑のアリの夢見るところ」のように古くからそこに住んでいる原住民達への共感というようなものは描かれていませんでした。寧ろ逃げるために機関銃で彼らを射殺してしまうというようでした。そうした描き方になってしまうのは戦争という異常事態なのでしょうがないのかも知れませんが…。最後はアメリカ万歳的にとられてもいいような終わり方をしていて、ヘルツォークはドイツ人なのに不思議な人だなあと思った次第です。

 

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