549の5『自然と人間の歴史・日本篇』 消費税増税の賛否(諸説の紹介・条件の付与論)
5. 消費税増税の賛否(諸説の紹介・条件の付与)
条件を付けての消費税容認説には、いくつかのパターンがあるのではないか。例えば、ケインズ派経済学者の伊東光晴氏は、こう述べておられる。
「したがって、今日の財政欠陥を是正するためには、付加価値税ーつまり今日の消費税を西欧型の脱税を防ぐものにかえ、それを引き上げねばならない。」(伊東光晴「政権交代の政治経済学ー期待と現実」岩波書店、20)
「私は、増税を受け身ではなく、将来を見すえた対抗軸として行うことを期待してやまない。それとも、食糧品、医療、教育費を別扱いにするかが議論されねばならないだろう。」(同)
次いで、この主張の根拠となるのが、この下りではあるまいか。
「所得税についで大きな税収を確保できるのは消費税である。何よりも税収確保が可能である。税率一%引上げで二・四兆円の増収といわれている。福祉社会を志向する西欧諸国は、すべて付加価値税に大きく依存している。消費税についての問題点はつぎの二点である。
第一は、消費税をEU諸国の付加価値税並のインボイス(送り状)方式に改め、税の公正を期さねばならない。(中略)
第二は、日本の消費税の税率の低さである。我が国の税率五%は国際的に見てあまりにも低い。福祉社会を志向する国は、高い付加価値税率によって確保した税収によって福祉水準を維持している。(中略)
私も日本も、結局はEUなみの付加価値税率まで上がると思っている。それなしに少子高齢化社会にに対処できないからである。しかし、今すぐ一五%まで付加価値税率を上げるのには大きな社会的抵抗がある。当面一〇%であり、それを実現するためにも、サラリーマンの社会保険料の上昇を抑えなければならない。」(伊東光晴「日本経済を問うー誤った理論は誤った政策を導く」岩波書店、2006)
その事例としてよく持ち出されるのが、イギリスである。彼の国においては、多くの食料品のほか、通勤交通費、新聞、雑誌、書籍、子供服、医薬品の税額がゼロとなっている。それに、映画や演劇コンサートは非課税であり、そもそも消費税の課税対象から外されているという。それにしても、後段の非課税については、さすが文化的生活を重要視する国ならではの、かなりの「行き届いた配慮」ではないか。
さらに一つ、以前からかなり有力視されてきたものとして、厳しめの条件付与で、増税への壁を高くしようとする説があろう。例えば、植草一秀氏は、こう述べておられる。
「どうしても外せない三つの前提条件を掲げておこう。
第一は、「天下りの根絶」だ。いわゆるシロアリ退治である。
第二は、「社会保障制度の根本改革」、100年安心の社会保障制度を確立すること。これが消費税を提案するための絶対不可欠な条件である。
第三は、「経済活動を混乱させないこと」、つまり日本経済を不況に逆戻りさせないことである。この三つの前提条件が揃って初めて、消費増税の論議がされるべきなのである。」(植草一秀「消費増税亡国論ー三つの政治ペテンを糺(ただ)す」飛鳥新社、2012)
併せて、この説では、2012年末時点の一般政府の資産と負債の状況を紹介し、前者が1073兆円なのに対し、後者は1037兆円であるから、差し引き36兆円の正味資産があることから、このような「日本政府資産超過の状況下で財政危機は発生しない」と指摘している。
それからの日本経済の歩みの中では、2016時点での一般政府(中央と地方の合計)の同結果が出ているので、これを当てはめてみよう。すると、資産が1302兆2803億円なのに比べ、負債は1284兆5933億円となっており、差し引き17兆6870億円の資産超過となっている。したがって、この説による判断の方向性は変わらないことになろう。
(続く)
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