新♦️1155『自然と人間の歴史・世界篇』アメリカのテーパリング(2021.9~)  

2021-10-12 21:06:35 | Weblog

1155『自然と人間の歴史・世界篇』アメリカのテーパリング(2021.9~)  
   

 2021年9月22日のFRB(アメリカの連邦準備制度理事会、金融政策の元締め)において、FOMC(米連邦公開市場委員会)と呼ばれる会合が持たれて、そこで、次回11月2~3日の同会合で、テーパリング(FRBが行ってきた様々な資産買い入れの段階的縮小)と呼ばれる金融措置を実施するかどうかを決めたいというのだ。

 そういえば、前回のテーパリングが行われたのは2014年12月のこと、それから12か月後の2015年12月に政策金利の引き上げが行われた。この政策金利の変更は、テーパリングの終了から14か月後のことだった。そこでもし今回は前回とは異なり、順調に経済が当局者の思惑通りに運ぶとするなら(その望みは薄いとも考えられるのだが・筆者)、2021年11月頃にはテーパリングが開始されるかもしれない。その場合、政策金利の引き上げは、2年後の2023年11月頃までには実施されることになるのかもしれない。

 さて、このようなタイミングでのテーパリング実施には、アメリカ内で、同措置をとることでの楽観論と慎重論との二つがあるという。

 そこで楽観論から、紹介していこう。こちらの代表格は、FRBのパウエル議長は、9月22日の会合かぎりでいうと、現時点でどちらかというと、物価の安定は遠からずほぼ達成されると見ている。かたや雇用の方はよくわからない面もあるものの、見込みが出てきている、という話のようである。ちなみに、同議長は、「雇用は目標の50~60%程度まて到達している」、「私自身は目標達成間近だと見ている」、「非常に力強い雇用統計を確認する必要はないと思うが、良い雇用統計を期待している」とのこと。

 一方、テーパリング慎重論もある。そもそもFRBがゆとりを持った金融緩和政策の手仕舞いを行うのがテーパリングであることから、その成功の鍵を握るだろうと考えられているのが、物価と雇用だとされる。このうち、雇用の改善にはある程度前向きであるにしても、物価の上昇が設定している目標付近もしくは以下で推移するよう、つまりある水準で安定することが必要となるだろうと。

 しかし、足許で米国の物価上昇はやや増勢に鈍化の兆しが窺えるものの、それでも、2021年9月の消費者物価指数(前年同月比、米労働省)は5.4%で、5か月連続の5%台が続く。その内訳としては、新型コロナウイルス禍で品不足など供給制約が目立ち、原油をはじめ国際商品価格も上がっている。変動の大きい食品とエネルギーを除く上昇率は前年同月比で4.0%と、前月と変わらない高水準、また前月比は、0.2%上がった。(注💗)
 
 
(注💗)(米商務省が毎月末に発表している個人消費の物価動向を示す指標が、個人消費支出に関するPCE(Personal Consumption Expenditure(のデフレーターであり、名目PCEを実質PCEで割ったもの。同様の指標に、CPI(消費者物価指数)があるものの、PCEデフレーターの方が調査対象が広いため、第一に、実際の物価動向を反映しているとされる。その理由としては、調査対象が広い。CPIが、都市部が主な対象で全消費者の8割程度をカバーしているのに対し、PCEはほぼ全てを調査対象としている。 
 二つ目の違いは、指数の計算方法。CPIは計算の対象になる品目が固定されているのに対して、PCEデフレータは柔軟に入れ替える。例えば、果物の代表としてリンゴが計算対象になっていたとすると、もしハリケーンの影響でリンゴの値段が上昇すれば、CPIもそれに応じて上昇するだろう。一方で、リンゴの代替となる果物の値段が変わっていなければ、リンゴの消費量は落ちるので、物価へのインパクトも低下しうる話で、PCEデフレータではこうした点が考慮されている訳だ。
 なお、消費段階でのPCEデフレーターから、価格変動が激しい食品とエネルギーを除いたものを「PCEコアデフレーター」と呼び、FRBが最も重視している物価指標として知られている。
○PCE:2019年1月0.1、2月ー、3月0.9、4月0.3、5月0.4、6月0.3、7月0.6、8月0.4、9月0 2、10月0.3、11月0.4、12月0.3。
○PCE:2020年1月0.2、2月0.2、3月-7.5、4月-13.6、5月8.2、6月5.6、7月1.9、8月1、9月1.4、10月0.5、11月-0.4、12月-0.2。
○PCE:2021年1月2.4、2月-1、3月4.2、4月0.5、5月0、6月1、7月0.3、8月0.8、9月未、10月未、11月未、12月未。)
 
 それに加えて、デルタ変異株蔓延というノイズが続いており(関連してワクチン接種の義務化を巡り、賛否が分かれ、諸所で対立あり)、これらの改善が遅れるなら、この先も供給制約や人手不足が続くといえよう。その予想される具体的な姿としては、ここで供給制約の中の特異点としては、半導体などの部品不足による自動車生産の隘路があろう。また、港でのコンテナの陸揚げやその後の国内各地への輸送などにも、かなりの停滞・遅れが出てきており、これらの要因が合わさって、このところの物価の上昇に某か影響していることは疑う余地がない。
 
 それでは、人手不足そのものについてはどうかというと、こちらは、当面は労働需給が緩まないと見込まれる、というのである。とはいえ、そう見る理由の中には、感染に晒されているエッセンシャル・ワーカーなりが、ことさらに仕事探しに選り好みをしているとの指摘は、的を射ていないのではないか。それに、このような雇用の先行きに関しては、今後は、給付金など財政からの支援による景気浮揚効果が漸次的に剥落していくことも予想されることから、そのことで企業の人材需要や労働者の生活がどのような状態になっていくのかが、それらの見通しが慎重になるのではないかと、相当程度不安になっている向きもあるという。
 
 さらに、これらの動きに拍車をかけているのが、このところの国際的な経済の動向であって、このところのワールド・ニュースなどでは、「新型コロナ感染拡大と景気回復を背景に供給網の混乱と物価上昇が世界中で起きる」(10月14日)とか、連日のように報道されているところだ。
 その最たるものが、国際的なエネルギー価格の上昇であろう。その内訳の中では、石油と天然ガスはもちろん、石炭までもが西欧はじめかなりの国において、供給制約に襲われ、かつ需要は経済回復などもあって、このところ継続的な値上げが行われるに至っている。このままだと、やがて冬が近づくにつれて、需給が一段と逼迫していくであろうと見られている。
 
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 そこでテーバリングが行われる場合には、現在の1200億ドルの購入額(国債が月800億ドル、住宅ローン担保証券400億ドル)をどの程度のペースで縮小させ、テーパリングをどのように、それにどのようなペースで行うのかが注目されよう。パウエル議長は今のところ先月のジャクソンホールで行った講演でも「テーパリングと利上げは全く別物」(先月のジャクソンホールで行った講演)と、早期にテーパリングを開始した場合でも利上げ転換はまだまだ先になるとの見方をしているものの、もしテーパリングが速いペースで進んでいくようなら、2022年末までに政策金利を引き上げるのではとの見方も出てくるかもしれない。


 
(続く)


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