1155『自然と人間の歴史・世界篇』アメリカのテーパリング(2021.9~)
2021年9月22日のFRB(アメリカの連邦準備制度理事会、金融政策の元締め)において、FOMC(米連邦公開市場委員会)と呼ばれる会合が持たれて、そこで、次回11月2~3日の同会合で、テーパリング(FRBが行ってきた様々な資産買い入れの段階的縮小)と呼ばれる金融措置を実施するかどうかを決めたいというのだ。
そういえば、前回のテーパリングが行われたのは2014年12月のこと、それから12か月後の2015年12月に政策金利の引き上げが行われた。この政策金利の変更は、テーパリングの終了から14か月後のことだった。そこでもし今回は前回とは異なり、順調に経済が当局者の思惑通りに運ぶとするなら(その望みは薄いとも考えられるのだが・筆者)、2021年11月頃にはテーパリングが開始されるかもしれない。その場合、政策金利の引き上げは、2年後の2023年11月頃までには実施されることになるのかもしれない。
さて、このようなタイミングでのテーパリング実施には、アメリカ内で、同措置をとることでの楽観論と慎重論との二つがあるという。
そこで楽観論から、紹介していこう。こちらの代表格は、FRBのパウエル議長は、9月22日の会合かぎりでいうと、現時点でどちらかというと、物価の安定は遠からずほぼ達成されると見ている。かたや雇用の方はよくわからない面もあるものの、見込みが出てきている、という話のようである。ちなみに、同議長は、「雇用は目標の50~60%程度まて到達している」、「私自身は目標達成間近だと見ている」、「非常に力強い雇用統計を確認する必要はないと思うが、良い雇用統計を期待している」とのこと。
一方、テーパリング慎重論もある。そもそもFRBがゆとりを持った金融緩和政策の手仕舞いを行うのがテーパリングであることから、その成功の鍵を握るだろうと考えられているのが、物価と雇用だとされる。このうち、雇用の改善にはある程度前向きであるにしても、物価の上昇が設定している目標付近もしくは以下で推移するよう、つまりある水準で安定することが必要となるだろうと。
二つ目の違いは、指数の計算方法。CPIは計算の対象になる品目が固定されているのに対して、PCEデフレータは柔軟に入れ替える。例えば、果物の代表としてリンゴが計算対象になっていたとすると、もしハリケーンの影響でリンゴの値段が上昇すれば、CPIもそれに応じて上昇するだろう。一方で、リンゴの代替となる果物の値段が変わっていなければ、リンゴの消費量は落ちるので、物価へのインパクトも低下しうる話で、PCEデフレータではこうした点が考慮されている訳だ。
なお、消費段階でのPCEデフレーターから、価格変動が激しい食品とエネルギーを除いたものを「PCEコアデフレーター」と呼び、FRBが最も重視している物価指標として知られている。
○PCE:2020年1月0.2、2月0.2、3月-7.5、4月-13.6、5月8.2、6月5.6、7月1.9、8月1、9月1.4、10月0.5、11月-0.4、12月-0.2。
○PCE:2021年1月2.4、2月-1、3月4.2、4月0.5、5月0、6月1、7月0.3、8月0.8、9月未、10月未、11月未、12月未。)
そこでテーバリングが行われる場合には、現在の1200億ドルの購入額(国債が月800億ドル、住宅ローン担保証券400億ドル)をどの程度のペースで縮小させ、テーパリングをどのように、それにどのようなペースで行うのかが注目されよう。パウエル議長は今のところ先月のジャクソンホールで行った講演でも「テーパリングと利上げは全く別物」(先月のジャクソンホールで行った講演)と、早期にテーパリングを開始した場合でも利上げ転換はまだまだ先になるとの見方をしているものの、もしテーパリングが速いペースで進んでいくようなら、2022年末までに政策金利を引き上げるのではとの見方も出てくるかもしれない。
(続く)
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